2007年12月〜2008年2月分



第10期


※寮生ヒバツナパラレル


「起きなよ、沢田綱吉」
耳元で囁かれる低い声に、びくり、と反射して目が覚める。
急激に頭に血が上って意識が鮮明になって、その分いらない気恥ずかしさまで比例する。
「ひ、ヒヒヒヒバリさんっ!いい加減その起こし方やめてくださいっ!」
おまけに勝手に部屋に入ってるし!
ここはオレに割り当てられた1人部屋で、基本寮生は部屋主の許可なく他の居室に
入ってはいけないはずなのに、そんなのはこの人には何の関係もないらしい。
「普通に呼びかけても起きない、君の寝汚なさが悪い」
ぐ。
反論する言葉が見つからず口篭る。

確かに自分は寝汚い。
こうして起こしてもらえなければ、5分とかからない学校まで毎日遅刻確実なぐらい寝汚い。
実際中学の頃は遅刻の嵐だった。
この人お得意の、実力行使という名の暴力が出ない分、かなり譲歩してくれているのも事実。
本来なら感謝すべきなのだ。わかってはいる。

が。

(心臓に悪いんだってば・・・・・・!!)
朝っぱらからこんな脳天直撃ボイスで起こされてしまったら、
早鐘を打つ心臓が、あまりの過剰労働に役目を放棄しかねない。
(だって色っぽいしカッコイイしなんていうか、こう・・・・・・!)
いやいや落ち着け自分。
理由が何だろうと、とにかく困るものは困るのだ。
「それと君、いい加減、鍵をかけることを覚えなよ。何の為に部屋ごとについてると思っているの。
君の場合、寝ている間に誰かが入ってきても気がつかないだろう。何があっても知らないよ」
それはわかっている。男子寮なんて食料類の盗難程度はしょっちゅうだ。
委員会が盗難対策で施錠を促していたことも記憶に新しい。ただ。
「・・・・・・忘れちゃうんです」
嘘だけど。
この人は知らないだろうけど、オレが鍵を開けたまま寝るのも、朝起きられないのだって、
本当は理由がある。言えないけど。
「君、そこまで物覚えが悪いの?つくづく馬鹿だね」
言葉のわりに口調は険しくない。むしろ、学校と寮、両方を牛耳る、
鬼の風紀委員長様であるこの人にしては、優しいんじゃないかとさえ思う。
さっさと準備して学校へ行きなよ、遅刻したら咬み殺す。
いつもの様に恐ろしい脅しをして、あっさり扉から出て行く背中を見送りながら。


やっぱり、部屋の鍵は開けて寝ちゃうんだろうなぁと思った。




以前メールでHさんと多いに盛り上がった寮生ヒバツナパラレル。
というわけでヒバツナは高校生。でも多分マフィア云々はありません。
毎朝ツナを起こしにくる雲雀さんは、もちろん風紀委員長です。
寮長が骸だったら笑えます。(ん?
ちなみに2人は付き合ってません。
実は続きます。




例え音がなく、瞼を閉じたままでも、その人が近づいてくることがわかる。
その存在に全身の神経が集中している自分の頬に、暖かな柔らかい気配。
いつものように、ほんの一瞬。何を考えているかは知らない。
でも、やさしい、と思う。
ガチャ、とスライド式の扉が開いて、人の気配が去る。
コツコツ、とした靴音がやがて遠くへと消えていったのを耳で確認してから、
ゆっくりと瞼を上げる。見えるのは白い天井と備え付けられた蛍光灯。うすらぼんやりとした、闇。
けれどオレにとってはそんなこと、どうでもよかった。
家にいた頃は、こういう暗い所では眠れなかったのに。
ここへ来てからというもの、それどころではない。
触れられた頬が、熱い。
じんわりとそこから熱が伝わって、顔全体がほてる。
暗闇で見えなくても、自分の顔は紅潮している事なんて、わかりきっていた。
「ヒバリ、さん・・・・・・」
この熱をもたらした張本人。
彼は毎晩、何かの儀式のように、自分の頬に温もりを落としていく。

―――どうして。

聞けばいい。一言で済む。
彼がキスする瞬間に起きて見せて、どうしてこんなことするんですか、と一言。
(でも・・・・・・)
この習慣がなくなってしまうことが、怖かった。
もしこの微妙な関係を壊して、残るものがあるだろうか。
朝になれば、こんな行為などまるでなかったかのように、あっさりとした彼。
本当は夢だったんじゃないかと、毎日この瞬間になるまで、疑ってしまう。
(キス、してくれるんだし・・・・・・)
もしかしたら、と期待をしていないと言えば嘘になる。
もしかして、彼は自分を気に入ってくれているのではないか。
もしかして、そういう意味で好意、を、持っていてくれているのではないか。
自惚れなんかじゃ、なくて。
「う、あ・・・・・・」
血液が沸騰しそう。
本当はからかっているだけだとしても。いつ気づくのかとおもしろがっているのでもいい。
なんなら子どもへ対する、愛玩動物対するような感情からくるものだろうと、いい。
毎日物凄く緊張して、終わった後は眠れなくて、そのせいで朝は寝坊していつも怒られても。

それでも。

朝と夜の、ほんのわずかな、時間。ただそれだけの為に。
やはりその鍵を閉めたくないと考えるオレは、愚かなんだろうか。


→雲雀さん視点






彼は何も言わない。
あの子どもがこの行為に気づいていることなど、当の昔に気づいていた。
けれど彼は何も言わない。
毎日こうして口付けだけを落としていく男を不審に思っているだろうに、責めることも、問い詰めることも。
今日は何か言ってくるだろうかと思った朝にも、そんな素振りは見せない。
流されやすい子だから、この行為を受け入れているのか。
もしくは。

何もないものとして、拒絶したいのか。

何も知らない振りをして、何もなかったことにして。

なるほど、雲雀がこの感情を伝えていない以上、子どもにしては効果的な対応だ。
いっそ、この扉が開かなければ、と思うこともある。
閉じていても学校に関連する全施設のマスターキーを所持する己であるから、
別に鍵がかかっていたところで問題ではないのだけれど、やめるきっかけにはなる気がした。
毎朝の子どもへの言葉は、何も盗人に対してのことだけではない。

(どうして君は何も言わないの・・・・・・)

繰り返し繰り返し、確実に増えていくその回数。
どれだけ日がたとうと、子どもは何も言ってはこない。
雲雀が部屋を訪れた瞬間、わずかに震える身体を、見逃したりはしていない。
必死で強張りを隠そうとしているその表情も、出て行く瞬間の、ほっとしたような緩んだ空気も。
わからない。
拒絶なのか、そうでないのかさえ。
それでもその行為をやめることができないのは、いっそ滑稽だった。
柔らかな子どもの頬に口付ける。
まるでそれは何かの儀式のように。


限界の近い精神が、この状態に耐えられるのは、あとどれぐらいだろうか。



すれ違いヒバ(→)(←)ツナ。




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