※うちではよくあるツナと骸が幼馴染。リボーンはいます。ツナをボスにするべく教育中。
たぶんツナは女。黒曜生。雲雀さんと面識ありません。
「暇なんで綱吉くん、ドカーンと一発僕をおもしろおかしく笑わせてくれるような恋に落ちてみたりしませんか」
「暇つぶしでどっかのCMみたいなフレーズでオレの恋路を勝手に決めんな」
腐れ縁の幼馴染に綱吉は怒りのこもった冷たい返事をした。ドカーンと一発ってなんだ。
どこぞの桃の節句の替え歌でもあるまいし。あれはハゲになるんだったか。
「だって最近退屈すぎて暇なんですよ。暇すぎてうっかり他の町にも勢力を広げてみたりするぐらい」
「またお前はご近所様にご迷惑を・・・」
「まあ順調なんですが、本命の並盛だけが思わぬ抵抗力でなかなか落とせずじまい。
あそこの支配者はなかなかやります。これはもうそろそろ本気で命がけかのレベルなんですが
まあそれはどうでもいいんです」
「全然暇じゃねーじゃんかよ!!」
文句をスルーされた上、そんな物騒な件を持っておいて暇とはなんだ暇とは。
しかも他人の恋路を暇つぶしにしようとする性根の悪さ。
なんでこいつが幼馴染なんて存在なんだろうと綱吉は自分の人生が色々悲しくなる。
いっそ消えてしまえ。
「これはもう最近すっかり僕のあれやこれやに慣れて動じなくなってしまった君を
慌てふためかせる恋でもしてもらうしかないじゃないですか」
繋がってない。その前後はまったくもって繋がっていない。
盛大につっこまずに流す綱吉くんなんて火薬の入ってないダイナマイトと一緒です、なんて大げさに
嘆いてみせる姿なんて殺意ものだ。大体ダイナマイトは火薬が入っていない方が安全でいいだろうと
平和主義の綱吉は思う。
「大体、中学生にもなって初恋もまだなんてどこの絶滅危惧種ですか君は」
「う、うっさい!!!大体おまえらだって悪いんだからな!!」
密かに気にしている事を指摘されて内心ちょっと焦る。
やっぱり年頃の女子としてはこの年になってもそういう感情をもったことがないのは
ちょっと問題ではないか自分は少しおかしいんじゃないかとか思うのだ。ちょっとは。
だけどその原因の一端は間違いなくこの幼馴染連中にある。絶対にある。
この縁のせいで綱吉は他の一般生徒とまったく縁がないのだ。皆幼馴染が恐ろしくて近寄らない。
他人との接触がまったくない時点で恋なんてできようはずもない。
ついでに綱吉は行動こそ男まさりだが、そういった面に関しては結構夢見がちなので、
なかなか相手にはめぐりあえない。
とにかくお前のせいだと全部責任転嫁することにして散々今までの恋をする暇もないくらい
振り回されてきた人生にくどくど文句をならびたてると、いつでも怪しげな幼馴染は
ますます怪しげな笑みをしてみせた。にっこり。
ものすごく嫌な予感がした。
「そうですね、責任は僕らにもあります。――ですから」
「あ、やっぱいいや。オレちょっとでかけてくるからお前適当に帰れよな」
反射的に逃げようとした肩をがしっと掴まれる。冷や汗がたれた。
「ですから責任を持って僕が楽し――素敵な男性を紹介してさしあげます」
宣言した男はここ最近で一番楽しそうだった。
「いいいいいいやいやいや遠慮しま――」
「おもしろそーだな」
(また厄介な奴キターーーー!!!!)
ようやくどこからかお戻りになったらしい家庭教師が聞いたその台詞だけであらかたの事情を
察したのか、これまたにっこりと笑みを見せる。同じくここ最近一番楽しそうな。
綱吉はオレの人生ここで終ったかなと一瞬本気で思った。
ついでに身長二メートル以上ある横にも縦にも大きい旦那が顔を青ざめさせながら
ウエディングドレスを着ている自分の隣に立っている光景まで走馬灯かと思える勢いでかけめぐった。
更にいえばこの旦那プシュープシューと湯気をたてていた。皮膚は金属。人じゃねぇ。
それはわかりやすく例えるならゴーラ・モスカの姿なのだが、この時点で彼らの人生にそれらは
登場していないので、綱吉の比喩表現には含まれなかった。
「やっぱり君もそう思いますかアルコバレーノ」
「ああ、最近のコイツは色々慣れてきちまってつまんねーからな。
ここはやっぱりデンジャラスな恋人でも作って日常にスリルと恐怖をスパイスにしてぇ」
「なんで恋人できてスリルと恐怖オンリー?!」
しかもお前今までの散々な出来事は荒事に慣れさせるためじゃなかったのか!
教育の一環じゃなかったのか!慣れてきたらつまんないって
全てお前個人の楽しみだったのかうんまあうすうすどころか結構確信してた!!
・・・ここは泣いてもいいところのはずだ。
何故恋人という人生で一番甘いかもしれない相手との関係が危険と恐怖、スリルで彩られるのだろう。
「どんなのがいいですかねぇ、実は僕、『僕より弱い男には妹は渡せません』を常々やってみたいと思ってたんです」
クフ、と変態チックに夢想する男は顔はいいはずなのに綱吉には今すぐ刑務所にでもぶちこみたいほど
気持ち悪い物体でしかなかった。
「なるほど、考慮しよう」
「さっそくハードル高ぇつーかやるなーーーーー!!!」
お願いですから家庭教師様も当たり前、みたいな態度でうなずかないでくださいてか
口元明らかに笑ってるよねそれ?!
「お前の希望もあるし、マフィアのドンの恋人、ひいては旦那になるかもしれない男だからな。
やっぱりつえーことはかかせねぇな」
「気は強い方が好みです」
骸が断言する。うきうきと『綱吉の理想の相手』像を作り上げていく2人に張本人のみが
ついていけていない。ていうかお前の好みを言うんじゃねぇ。
「ふむ。ダメツナが気弱だからな、旦那ぐらいは威厳と迫力に満ちてないとバランスが悪いしな」
「いっそ恐怖で人を支配するぐらいだったら楽しいですよね」
「裏世界を覗いているとなおいい。マフィアのボスと聞いてひるむようじゃ話にならねぇ。
大喜びで近づいてくるぐらいでねーと。ついでに統率力、カリスマがあれば最高だ」
オレはない方が嬉しいです一つ目。
「年は近め。見目はそうだな、せっかく日本にいるんだ。こいつは先祖の遺伝子がつえーっぽいし、
どうせなら黒髪黒目、東洋人っぽいやつがオレ好みだ」
だからお前らの好み(以下略)
・・・まあ黒髪とか黒い眼とかに憧れてるのは実はあったりするのだが
調子にのせるだけなので絶対に言わない。
その後も細身がいいとか長髪すぎるのは駄目だとか変に細かいところから、
ここまできたら財力もだとかその他聞き流したいような黒い条件だとかを挙げていく2人に
叫びまくっている綱吉の声はもちろん届かない。
そんなとてもとても楽しそうな会話にとんでもない転機が訪れたのは随分後のことだった。
さすがに1時間もすれば2人のネタもつきてきたらしい。話題は理想をつくりあげることから、
現実にこんなとんでもない条件を満たすやつがいるかどうかに移っている。
正直いるわけないと綱吉は思ったし、本人達もさすがに難しいと理解しているらしい。
時折大体相手がこんなダメツナじゃーそんな奴がいても相手をしてくれるかどうか、と
わざとらしい溜息をはきつつさらりと綱吉を馬鹿にする発言が混じっていたりするが
そこらへんはあえてスルーする。余計なことは絶対に言わない。
だってこのまま無理だ、と判断されてお流れになるのが年頃の少女にとって最も望ましい結末なのだから。
散々脳内検索をかけているような2人が段々険しい顔になっていくのを眺めて、
綱吉はほっと胸を撫で下ろした。どうやら無事乗り切れそうである。
まだまだ幼い少女の夢見る恋路は守られた。
いくらあらゆる後ろぐらい方面に顔の広い2人でもそうそう見つかる条件ではない。
(そうそう、そんなとんでもない人間、身近にいるわけがー・・・)
「そうだ!雲雀くんなんてどうです!!」
「いんのぉおーーーーっ?!」
パン、と光明をみたかのように手を叩いて骸の顔がぱっと輝く。その声は明らかに興奮していた。
喜びに満ち溢れ、自信満々、自慢するようにまくしたてる。
「丁度今もめていて何度か会いましたが、彼なら今の条件に十分あてはまります。将来性もある」
あの聞いているだけで無茶苦茶な条件に『十分に』合う人間ははたして『恋人』という呼称が
似合うような人間だろうか。というかそもそも人間だろうか。
「ヒバリっつーとヒバリキョウヤか」
「そう、彼です。並盛を支配する王様ですよ」
家庭教師はそうかアイツがいたか、と納得、嬉しそうな雰囲気を隠しもせず、(知り合いだったんですか)
骸はものすごくすっきりした顔をする。
それはあえていうならば『僕はいい仕事をしました』的な満足顔だった。
綱吉の常識的思考だけが彼の台詞にひっかかりを覚える。
並盛の支配者?
え、その人ってオレと年近かったのかかいや問題はそこではない!
「ちょっとまてお前さっきそろそろ命がけのやりとりするとか言ってなかったかその相手!!」
「言いましたね」
「そんな相手をオレの恋人にしようとしてんのかよ!」
「え?いけませんか?」
多分全てがいけない。家庭教師はまったく問題ねーなとか上機嫌。ありえない。
「まったく、どうして彼が真っ先に思い浮かばなかったんでしょうねぇ。
こんなに最高の人材だったというのに」
「アイツがそういうのとは無縁そうだからじゃねーか。恋なんてしたこともなけりゃ、
興味もなさそうだからな」
「なるほど」
「もう問題しかなくないその人選?!」
そもそも根本的に『恋人候補』に向いていないのは間違いない。
一体どういう人物なのか想像もつかない。
「簡単にくっつける相手ならつまらないじゃないですか。やっぱり波乱万丈、愉快な障害の多い恋でないと。
ちなみに年齢不詳ですが多分君の一つ上。凶暴で戦闘マニアで気に食わないやつは本能のままに実力行使しますので」
「オレに死ねと?!一体どんな人なんだヒバリキョウヤさん!」
「……野生児?」
「なんで疑問系!」
嫌だ。嫌過ぎる。そんなとんでもない人物が綱吉の夢見る『恋人』ひいては『旦那様』だなんて、
そんな、そんなの・・・!
「ぜったい・・・ぜったい・・・・」
ふるふると綱吉の身体は震えた。怒りなのか恐怖なのか情けなさなのか焦りなのか定かではないが
ともかく。
「絶対お前らの言う相手に恋なんてするもんかーーーーっ!!」
綱吉の叫びにはいつだって彼女の人生がかかっている。
その後日、狙ったかのように母親から並盛行きのお使いを言い渡された綱吉が、
いつものように巻き込まれたトラブルですったもんだあった挙句、助けてくれたり殴られたり
色々あった黒髪黒目の学ランをはおった謎の少年に、その正体も知らず
うっかり本当にどかーんと恋に落ちてしまう未来が実は待っていたりするのだが、
それはまだ誰も知らない。
初めブログの短い突発小話にするつもりで書き始めたら
勢いのままこんな長さになりました無自覚はどうした自分。
雲雀さんでてこないけど間違いなくヒバツナです。
2009.1.18