「オレを殺してください」
「断わる」


don't leave



子どもと僕では根本的に違う。
何の命も奪うことなく存在する、何からも愛されるようにつくられたイキモノと、
人を殺し続けなければ生きてはいけない、魂を食らうイキモノ。

天使よりも尊く穢れなく

悪魔よりも醜悪で呪われている

どちらも「ヒト」でありながら、まるで対の様に存在する種族に生まれたはずの僕達は、
何の因果かこうして共にある。

「オレを殺してくださいヒバリさん。このままじゃー」
「くどい。君が望もうが望むまいが、僕は君を殺す気はないよ」
「ヒバリさん!」
懇願する瞳は好ましい琥珀の左目と、子どもにそぐわない漆黒の右目。
見たことはないけれど、その双眸がどちらも琥珀だったのなら、きっと綺麗だろう、と思う。
この子どもに黒、は、ひどく不釣合いだ。
それも当然だろう。この右目は子ども自身のものではないのだから。
包帯で巻きつけられ、閉ざされた己の右目に手を添える。
その瞼の下にある瞳の色は、琥珀。
漆黒の右目と琥珀の左目をもった子ども。
琥珀の右目と漆黒の左目をもった自分。
まるでお互いの瞳を入れ替えたようなオッドアイ。
いや、違う。
まるで、ではないのだ。
何故ならかつて己の瞳は、どちらも髪色と同じ色を宿していた。
それが突然、あの日、一族郎党全てだ、文字通り『消えた』と同時に、今のように変容してしまった。
変化したのはそれだけではない。
何故ならその右目が見る光景は、己の右目が見ている光景ではないのだから。
目が異物のように気持ち悪さをもたらしたその日。初めて見たのは、知らない森と、親しげにすりよってくる動物。
しばらくの後、別の人間の視界なのだと気づき、邪魔にしかならないので、その時点でその目は無いものとすることにした。
目を閉じれば余計なものは写らない。
時々開き確かめても、結局それがあるべき状態に戻ることは無く。

そうしているうちに、この子に会った。

小さな街の路地の片隅でうずくまり、無気力に座っていた子ども。
勘でも偶然でも、必然でさえなかった。
その姿を視界に入れた瞬間に、この子だ、とわかった。
顎に手をかけ俯いている顔を上げさせてみれば、漆黒と琥珀が、ぼんやりと己を映す。


確信が確定となった。


歪な種族の存在に、世界が耐え切れなくなってしまったのか、それとも何らかの呪いなのか。
何故突然2つの一族全てが消えたのか、いまだにその理由は知らない。
ただその中で、この瞳の呪いだけが、僕等の存在を繋げていた。

2人で1人。

今はお互い個を保っていられるけれど、いつまで持つかはわからない。
片目を四六時中覆っているのも、呪いの侵攻を抑える為。
迂闊に相手の侵食を許してしまえば、僕らの存在はじりじりと混ざり合う。
どこぞの気に食わない変態と同じであることは腹立たしいが、こうでもしなければ『僕ら』としては生きていけない。


(中略)


「僕は人を殺して生きていることに抵抗はない」
「・・・・・・知って、ます」
「別に『普通』になる必要性なんて感じない」
「わかってます。嫌なのはオレなんだ!ヒバリさんに誰も殺して欲しくない・・・・・・!」


(中略)


「結婚しようか、ツナヨシ」
「ヒバリ、さ・・・・・・」
「未来は知らないけど、未来まで共にある約束をしよう」



握り返された手は、暖かかった。



本当はリクエストの「ヒバツナ結婚話」のつもりで書いていた没ネタ。(どこらへん)
せっかくパラレル可と許可を頂いたのでどんなパラレルにしようかと思った矢先思いついて、
書きたくてしょうがなくなった結果。途中で幸いにも我に返り行き先がなくなった代物。(え
こんなんばっかりかいてるから本編がすすまないとも言う。


2007.11.25

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