「オメー、あいつに一生縛られる覚悟はあるのか」




籠を望む鳥





「正直言ってあいつはお前に依存している」
「そうだね」

その返答に、始終冷静なはずの存在は、思わず舌打ちをしたくなった。
そう、この男は気づいている。気づいていて、今だ何の反応も示していない。
どこか嫌な予感めいたものを感じながら、その存在は、それでも続けなければならなかった。

「今ならまだいい。お前に振られようが嫌われようが、それでもいつかは立ち直れる日がくる」
正直、それさえも本当はすでに危うい。
けれどまだ、気持ちさえも表していない、決定的な事実のない今なら。

「お前があいつをどう思っているのか、それはオレにもわからねー。単なる気まぐれなら今すぐ離れろ。
あいつは、オメーに一度受け入れられちまったらもうそれまでだろうからな」

そう、それだけは。とりかえしのつかないことになる前に。



もう、あの子どもは、受け入れらてしまったら、それこそ一生、絶対に引き返せない。



一体どうしてそうなってしまったのか。
そもそも、どうして恐れていたはずのこの男を好きになってしまったか。
子どもの師である赤ん坊にもわからなかったし、きっと本人にもわかってはいまい。
けれど気の迷いというには、あまりにその感情はひどく深く、強く、子どもを支配しすぎていて、危うい。



相手が他に目をむけることが受け入れられない。
自信が他に目をむけることもできない。
死んだら狂うだろうし、いなくなれば廃人だ。
全てを捧げて尽くし、執着し、離せない。
離れることができない。
そんな。




「束縛を嫌うお前が、ツナのその重い感情を享受できるのか」






その、赤ん坊の言葉に。







雲雀は珍しくも心底笑い出しそうになった。




(重いだって?)
おかしい、心底おかしかった。
重いだなんて、なんておかしな言葉。




「ひとつ、訂正するよ赤ん坊」



秩序と呼ばれる男は笑う。















「それのどこが重いの」














そして当たり前のように、呆れたように、ささやいた。



「僕が死んだら死ねばいい。これから先手に入れて、浮気でもしようものなら相手を殺せばいい。
女にも鳥にも君にも部下にも全てに嫉妬して、裏切るようならこの世の誰よりも怨めばいい」


そしていっそ哀れなまでに優しいあの子どもは、きっとそんな自分を嫌悪するのだろう。
気が狂うのを承知で自分を手放しさえするのかもしれない。
なんて無駄なあがき。
なんて愚かで、そして愛おしい。


「優しくしたなら喜んで、怪我をしたなら怒って嘆いて、傍にいなければ哀しんで、いるなら楽しげに笑って。
全ての感情を手に入れたところで、まだ足りない」









「鳥は蜘蛛の巣ぐらい突き破っても飛べる」










けれどその身体には、まだ銀色の糸の残滓が残っている。



それがいつかは重くなる日が訪れるのか、糸になって縄になっていつか。




「僕はあの子を好きだし愛してる。特別だし大事だし執着しているし守りたいと思っているよ」




だから守護者にもなった。あの子を守る証の雲の刻印を受け入れた。












「でもきっとあの子を殺すのは僕で、僕を殺すのもあの子だ」












それはひどく矛盾していて、けれど決定的な確信だった。




糸になって



縄になって



それはいつか。



「あの子は鳥籠になれるのかな」



きっとその時こそ、終わる時かもしれないけれど。楽しげに。





「ねえ、赤ん坊」



ああ。



「それのどこが重いの」




この男も、また。




師である赤ん坊にはもう、何も言えることがなかった。
きっともう、すでに手遅れだったのだ。あるいはそれに気づいた時点で。
何を言ったところでこの2人は何も変わらず、そして未来は確定している。
それでもあの子どもの思いが報われることに、どこか安堵している自分も、あるいは狂っているのかもしれなかった。



「ちっ。・・・・・・依存しあった者同士なんてロクなもんじゃねー」

「そう、それは災難だったね」



赤ん坊の、心の底からの言葉に。
くつくつと、ちっともそうは思っているとは感じられない声で、男は再び笑った。







それさえもいっそ愛とよべるような。
いきなりお互いに依存した2人が書きたくなって
勢いにまかせて書いてみると何故か綱吉はでてきませんでした。
しかも背景がさっぱりわからない。(いつものこと)
実を言うと無自覚シリーズのつもりで書いていたのですが(え
なんだか方向性が違う気がして断念。急遽突発短編に。
よくよく考えると初の綱吉男の子。(爆)
ちなみに2人はまだくっついてませんとか言ってみたりする。(逝ってこい)

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