10万HIT記念フリーSS
息子&娘ver 息子は→雲雀蒼弥 娘は→雲雀ひな
※子どもネタが苦手な方は注意
あと重要事項。2人はまだ付き合っていません。





障子越しの朝日が顔にあたって、眩しさにぼんやりと重たい瞼を上げれば、
キィン、キィン、と金属の擦れあう甲高い音が耳を刺した。
(あれ・・・・・・)
もぞり、と起き上がると、それに気づいたのか、同じく傍らの少女が覚醒して、
「んー」と上げた小さな拳で目をこする。
「あ、おはよう」
「かーさ・・・・・・じゃなかった、さわださんおはよう・・・・・・」
名残惜しげに毛布に擦り寄る仕草を見せながら起き上がり、ちゅ、と綱吉の頬にキスをする。
うっわ朝から可愛いなぁと綱吉は緩んだ頭で緩みきった事を思う。
しかし外からだろうか、絶え間なく続く金属音。
「やっぱり気のせいじゃない・・・・・・?」
「?」
「なんか音しない?」
「おと・・・・・・?」
始めは耳鳴りかとも思ったのだが、それにしては断続的だった。
しばらく耳をすませた少女が、その音をひろったのか、あ、と小さく呟く。
「おにいちゃんとひばりさん、てあわせちゅうなんだ」


はい?


言われて2人がいるはずの空間を見れば、もぬけの殻。布団まできちんと片付けられていて、
とっくに2人が起床していることはわかる。
(てあわせ・・・・・・手合わせ?!)
がばりと布団から飛び出して、障子戸を開けば、庭先で二つの人影がやりあっていた。
美しく弧を描く銀がぶつかりあって、その度先程からずっと鳴っていたキィンという金属音が響く。
時折ゴッ、と鈍い音がして小さい身体が吹っ飛ぶが、それは地に届くまでに体勢を立て直し、
たんっ、と軽い音で着地する。とても幼い子どもとは思えない、しなやかな動き。
まるで舞のように相対する2人。
ドゴッ、とひときわ鈍い音がして、ついに鳩尾に入れられてしまった少年が、こほこほとむせる。
そこで一段落としたのか、す、と武器をしまって、白いシャツと黒に近いジーパンというラフな格好の雲雀が、
ようやく屋内の2人へと向きなおった。
その一連の行動のどこにも不自然さはなく、それが逆に違和感を感じさせる。
ぽかん、と間抜け顔を晒したまま、綱吉はその光景を見つめていた。
「・・・・・・何やってるんですか?」
「朝の軽い運動だよ」
いやいやいや全然軽くないですから!
健康的に朝のラジオ体操をしていました、な軽さで雲雀が答える。
どこをどうみたってそんな軽いようには見えなかった。重い事この上ない運動だった。
「あの子から言ってきたんだよ、手合わせして欲しいって」
「ええ?!」
なんて物好きな、と綱吉は呆れかえった。この恐ろしい風紀委員長様に進んで争いごとを持ちかけるなんてあの子の将来が不安である。
見た目だけでなく中身まで似ているのだろうか。
「あー・・・・・・強かったんですね、蒼弥君・・・・・・」
「うん、いい筋してる。数年後が楽しみだね」
本心からそう思っているらしい雲雀は、なかなかに上機嫌だ。この戦闘狂め、と綱吉は内心でつっこんだ。
そんなやりとりをいつの間にか傍に並んで見ていた少女が、くいくい、と雲雀の袖を引っ張り、しゃがんでしゃがんで、と促す。
そして怪訝そうにしながらもかがんでやる雲雀に、少し背伸びをして
「おはようございます!」
無邪気な挨拶と共に、ちゅ、とその頬にキスをする少女。
(ちょっとまったっぁああああああああ!!!!)
なんて羨ましい、って違う!!
可愛らしい、実に可愛らしい光景だけれども!ちょっと和むとか思っちゃってるけれども!
先程自分が同じことをされたのも彼方へと追いやり、あんぐり、と開いた口が塞がらない。
さすがの雲雀もこれには驚いたのか、わずかに目を瞠って動きを止めた。
しかし数秒後、ぎこちないながらも「おはよう」と、少女の額にキスを落としてやる。
今度こそ綱吉はこれでもかとばかりに目を力の限り見開く。
もはや口が閉まるどころの話ではない。驚愕でひきつる筋肉が痛みさえ感じさせる。
(うそだうそだうそだうそだうそだ・・・・・・!!)
信じられない。ありえない。とにかくこんなのは認められない。
(恭弥さんが恭弥さんがき、ききき、キス、して・・・・・・!)
オレもしてもらったことないのに!と乙女思考は暴走中である。
「何間抜けな顔してるんだい?」
己の行動になんの恥じらいも見せない男は、当然―当然と言い張る。雲雀が挨拶でキスをしてやるなど誰も信じてくれるはずがない―
動揺して見せた綱吉に、不思議そうに問いかけた。しばし考え込んだが
「ああ」
何かおもしろいことを思いついたのか、意地悪く口角を吊り上げると、少女から綱吉へと向き直る。
からかうような口調で。
「君もして欲しい?」
「え?」
「おはよう、綱吉」
「ふへっ・・・・・・?」
何を?と疑問に思い、気づいた瞬間して欲しいです!とうっかり本音をもらしてしまうより早く、

頬に、柔らかい感触。

一瞬の出来事。綱吉の頬へ落とされた唇は、そのまま耳元へ移動し、
低く通る声が、今にも再び触れてしまいそうな至近距離で囁かれた。
どくり、と心臓がはねる。
視界いっぱいに広がる雲雀の麗しい相貌に、くらりと眩暈がした。

今、何が起こった?

「う、うわぁあああああああ!!」
ドタン、と動揺のあまり崩れ落ち尻餅をついて、顔といわず、つま先から頭のてっぺんまで全身真っ赤に染まる。
心臓がばくばくと音をたてて、苦しいくらいだった。
雲雀はそんな予想通りの反応にくつくつと笑い、満足気な表情で目を細める。
そのまま靴を脱ぎ屋敷内へあがると、そのままその場から去っていった。
とてとてと少女がその後をついていく。
完全にパンクしてしまった思考回路のせいで、綱吉は呆然としたままそれを見送る。
そしてぽーっと熱に浮かされた光悦とした表情のまま、へたり、と全身床にへばりついた。
ふるふると震える手で、この上なく大切そうに、愛しげに、優しく、ゆっくりと。
その頬に、触れる。
すっかり存在を忘れ去られている少年は、そんなかつての母親の姿を新鮮な気分で眺めていた。
それにもやはり気づかないまま、ほう、と綱吉は呟く。
それはそれは夢見心地な声色で。

「オレ、今死にたい・・・・・・」

とりあえずそれは困る。




いつか来る遠い未来で 後編






そんなやりとりがあったものの、幸い死ぬ事は思いとどまってくれたらしい少年の(未来の)母親は、
大分落ち着いたのか、その頬はいまだ赤いながらも、おずおずと床から顔を上げた。
そのままどこかへトリップしていたようだったが、真っ赤になり、真面目な顔になり、かと思えばにやけるという
百面相をした後、何かに気づいたのか、最後に真っ青になった。
ぷるぷると綱吉の華奢な肩が震える。がばり、と近くの少年の肩を掴んでゆさぶる。


「ねえひなちゃんの好きな人ってヒバリさんじゃないよね?!ね?!」


その結論は果たして普通の思考回路なのかそれとも父親(しつこいようだが未来の)
に恋する乙女の暴走回路からくる盲目さゆえなのか、蒼弥には判断しかねた。
どちらにしろあほらしいことに変わりはないが。
「違います。何もそんなに気にしなくても」
たかが挨拶のキスぐらいで。
非常に見慣れた光景だ。蒼弥達にとってあれは習慣のようなもので、何故そう大騒ぎするかわからない。

「だってヒバリさん妙に2人に優しいじゃんか!」

少し切なげな綱吉の言葉に目を瞠る。
そうなのか。
2人にとっては生まれた時からこんな感じだったので、特に違和感はなかったのだが、
綱吉にとっては充分驚きに値するらしい。
知ってはいたけれど、愛されているのだな、と思う。
「蒼弥君だけだったら強いから気に入ってるってこともあるかもしれないけど、
その蒼弥君よりひなちゃんの方に特に甘い気がするんだよね・・・・・・」
ひな以上に貴方に甘いと思います。と蒼弥は思ったのだが、馬鹿馬鹿しいので口にはしない。
娘に妬くというのもどうなのだろう。未来の父に教えたら嬉々としてからかい倒しそうだった。
教えたら褒めてくれるだろうか。
「心配しなくても、雲雀さんは他の人なんて歯牙にもかけていません」
「しが?いや、わかってるんだけど・・・・・・基本的にヒバリさん他人に興味ないし」
「そうじゃなくて・・・・・・」
なんだか会話がおかしい。根本的な所でかみ合っていないことを感じて、蒼弥は怪訝そうに眉をよせた。
「・・・・・・沢田さんは雲雀さんと付き合ってるんです、よね?」
「ええっ、ヒバリさんと?!」
まさか違うよ!と即効でそれこそまさかの返答。
ええ、って。それこそ子ども2人にとってはええーだ。
何と言っても2人にとっては両親なのである。仲がいいのは当たり前、付き合っているのも当たり前。
結婚しているのが当たり前なのだ。大体あっさり泊まりにまで来ておいて、まさか付き合っていないだなどと思う訳がない。
「何で皆同じこと言うんだろ・・・・・・?いやそう見えるんだったら嬉しいけど・・・・・・」
へらっ、と言葉通り嬉しそうに綱吉は言う。
というか、見えるも何も結婚(以下略)で自分達は2人の子どもなのだが。
蒼弥はこの時代へきてから初めて、心の底から真実を告げてしまいたい心境にかられた。
なんとじれったいのか。いくら蒼弥が子どもであっても、父親の想いくらいすぐにわかった。
あんなにあからさまな好意を向けられているのに。
鈍い。一応自分の気持ちの自覚ぐらいはあるらしいのが救いか。



「雲雀さんは、沢田さんのこと好きなんですよね?」
「そうだね。それが?」
ちなみに、その後もう片方にも問うてみた時の答えである。
当然とばかりの即答。
・・・・・・なんでまだ付き合っていないんだろうこの人達。









「すごい、おうちいっぱい!」
歓声をあげながら、物珍しげにひなはきょろきょろと視線を彷徨わせている。楽しそうだ。
それに綱吉は頬を緩めた。子どもらしい子どもというのは、えてして可愛いものだ。
雲雀関係のことさえ横においておけば、綱吉は自分でも不思議なくらい、ひなと蒼弥の事が可愛くて仕方ない。
(素直だしいい子だし礼儀正しくてしっかりしてるし何より恭弥さんそっくりだし!)
ただその肝心の雲雀はといえば、朝食をとった後、「風紀の仕事があるから」と出かけてしまった。
特に屋敷ですることもない面々は、ひなの「おそといきたい!」の一言でこうして並盛の街へくりだしている。
「2人って、別の地域の人?」
ひなの反応からいっても、あまり土地勘がないようだったからの言葉だが、いえ、と蒼弥は否定した。
「住んでいるのは並盛です。一応」
最もそれはこうした街中ではなく地下な訳だが。まあ並盛であることにかわりはない。
「え、そうなの?でもひなちゃん・・・・・・」
「僕らはあまり家から出た事がないので」
特にひなが生まれた頃から周囲の状況がきな臭くなった。ボンゴレを狙う敵マフィアが力をつけてきている。
その身を守る為に、ひなはボンゴレ内部でさえ、その存在を一部の者にしか知られていない。
蒼弥とは違い、滅多な事では外にでることさえできない、妹。
ひなは身を守るすべがない。蒼弥が楽しいと思うような危機的状況に陥れば、それはそのまま死へと繋がる。
「あまり遊びに連れてってもらったことないの?」
「両親とも忙しい人ですから」
言えば無理してでも連れ出してはくれるだろうが、おおよそ遊びに行きたいとねだるような
子どもらしい子どもではないし、興味が向く事(大抵は強い相手)は今の所身近な人物で事足りている。
別段困った事はない。
しかし楽しそうな妹の様子を見ると、やはり少し考えるべきなのかもしれなかった。
「・・・・・・」
ぎゅっ。
「・・・・・・なんですか?」
「いや、なんとなく」
考え込み始めた蒼弥を、綱吉は衝動のままに抱きしめた。特に理由はない。直感だ。
いつの間にか2人の傍に戻ってきていたひながじっと羨ましそうに見ていたので、
そちらも一緒に抱き込む。少し腕が足りなかった。
なんだか気恥ずかしい場の雰囲気を、あっさりとぶち破る声。

「10代目、おはようございます!」
「よっ、ツナ」

「あ、山本、獄寺君」
つくづく丁寧すぎるのではないかと思う自称右腕と、親友に、ぱっと綱吉は抱擁をといた。
(な、何してんだオレ・・・・・・!!)
汗をかく。これではただの変質者だ。そんな綱吉の心境を知らない子ども達はわりと呑気で。
(やまもとさんとごくでらさんだーすごいすごい、わかい!)
(うん。若い)
背も全然違うし、なんだか体格もひとまわり違う。
いつもより断然近い目線に新鮮な気分になる。ところであまり群れないで欲しいのだが。
「昨日はご自宅にいらっしゃらなかったので、どうしたのかと思いましたよ」
「ごめん、母さん教えなかった?昨日はヒバリさん家にお泊りしてきたんだ」
ちなみに奈々はにっこりと「今日はツッくん留守なのよ」と有無を言わせぬ笑みで押し切った。
娘に気を利かせたのだが、当の本人は何が問題なのかもわかっていないボケっぷりである。
「そうですかヒバリの家に――じゅーだいめーーーっ??!!!」
「え、どうしたの獄寺君?!」
「どうしたのじゃありません!無事ですか?!」
「何が?」
「それはっ――」
もごもごと獄寺は口篭った。貞操とかまあそのへんの色々だが、さすがに敬愛している主に
そんな事を口にするには抵抗がある。そのですね、つまり〜と若干目をそらしつつ
「手をだされてませんか?ってことです!」
「はぁ?!」
綱吉は何ありえないこと言ってるんだろう、と一遍の迷いなく思う。
こんな特に可愛くもなければ身体も貧相で色気も欠片もない奴相手に、あの雲雀がそんな気を起こすはずがない。
女と知ってはいるが、女として認識されているのかさえ怪しいものだ。(そもそも雲雀は肉食と草食以外の基準で人を識別しているのだろうか)
というか、起こしてくれたらそれはそれで万々歳だ。
わずかでも自分に魅力を感じてくれているということなのだから、むしろ大歓迎といってもいい。
「別にそんなこと、貴方には関係がないと思いますけど」
「ぁあ?」
突然間に入った幼い声に、主との会話を邪魔された獄寺が不機嫌そうに声をあげて、
初めてその発信源に気づく。
「・・・・・・ガキ?」
すでに主の家に居座っている子どもらとはまた違う。そろって黒髪黒目、整った顔立ちの、
幼い姿。見慣れない姿に、少しだけ目を見開く。
「へーなんか増えてるな。どうしたんだ?」
「なんすかこのガキ共」
対照的な2人だが、聞いているのは同じ事だ。
「ああうん、なんかヒバリさんが預かってる子達」
「ヒバリっスか?!」
「ヒバリが?」
まさか、と懐疑的な視線に、最もだと綱吉は頷いた。
綱吉だって、まさか雲雀が子どもを預かるような真似をするなんて、夢にも思わなかったのだ。
「確かにいけすかねー顔してますね」
雲雀そっくりな蒼弥を見て、ありありと嫌悪を込めた声で断言する。
確かに、って別に雲雀が預かっているからといって雲雀に似ているとは限らないと思ういや似ているけれども。
めちゃくちゃ可愛いと思うんだけどなぁ、とは綱吉の弁だが、坊主憎けりゃ袈裟まで憎い。
獄寺は単に雲雀が嫌いで雲雀に関連したものならなんでも嫌う傾向があるので、実際の所可愛いかどうかはどうでもいいのだ。
「そうか?ヒバリが小さくなったみたいで、結構おもしろいぜ」
「あ、やっぱり山本もそう思う?」
同意ももらった綱吉はちょっと嬉しげだ。
おう、可愛い可愛いと頭を撫でる為伸ばした手は、ドゴッ、と鈍い音とともに撃退される。
「っ・・・・・・?!」
「蒼弥君?!」
「ひなに触るな」
幸いにもという当然というか、守護者達は2人の時代よりも数段弱い。
いつもなら完璧に避けられるそれも、軽くはいる。それに驚愕したのは綱吉だ。
「ひなの半径5メートル以内に近づかないでください」
「テメー・・・・・・!」
敬語なのに命令口調さえ感じる蒼弥の言葉に、プツッ、と獄寺の何かが切れた。
一触即発。
今の今まで素直でいい子だった子どもの変貌に、綱吉はおろおろする。
「テメー絶ってぇ果たす!!10代目に近づくんじゃねぇ!!」
「貴方こそ近寄らないでください」
「ちょ、ちょっと2人共まって!一体どうしたの!」
「止めないでください10代目!」
「止まろうよ獄寺君?!」
何故こんなにも自分の周りには短気な連中が多いのか、綱吉は己の不幸を呪った。
蒼弥はいつの間にやら朝雲雀との手合わせの際にも使用していた獲物を取り出していて、
「僕が許した相手以外はひなに触れさせません」
その目は綱吉達に向けていた子どもらしさの欠片もなく、冷たく鋭い。
殺る気、もとい闘る気満々である。
まじで恭弥さんに似てるよこの子!
「俺ら、相当嫌われてんのな」
別に嫌われている訳でもないのだが、苦笑する山本に、綱吉は苦い顔をする。
「うーん、オレにはすっごいいい子達なんだけどなぁ・・・・・・懐いてくれてるし」
それはそうだろうとも。とつっこんでくれる相手は誰もいない。
恭弥さんもいいのになんで駄目なんだろ、と思考の海に沈む。
爆発物を持ち出してこちらもやっぱりやる気満々な友人に、現実逃避っていい言葉だよなぁと心の底から思った。



てくてく、と小柄な3つの影が帰路につく。
あたりはすでに日が落ち始めそうで、夕方に近い。
蒼弥の服にはあちこちすすの痕、その頬にもわずかな擦傷。
痛み分け、とは聞こえがいいが、止めたのは結局綱吉だ。蒼弥が実際に傷つけられた時点で、
ぷちん、となって、問答無用の鶴の一声、『命令』を持ち出したのである。
それが蒼弥にとっては悔しいらしく、咬み殺したかった、と小さく呟いている。
それはあまりに小さな声で、傍に並んでいる綱吉にも聞えない。

「何してるの」

背中から、軽い問いかけなのに鋭さを感じてしまう声。
「うわぁっ!ヒバリさん?!」
あ、父さん。とでかけた言葉をなんとか堪える。
しかし表情までは隠す事ができずに、特にひなにいたっては、ぱぁ、と心底嬉しそうに
満面の笑みを浮かべて、突然に現れた学ランを羽織う黒い影に駆け寄っていく。
「こんにちは!」
「こんにちは」
「・・・・・・こんにちは」
にこにこにこにこ。
一応やってはいけないことはわかっているらしく、いつものように抱きついたりはしないものの、
会えて嬉しいオーラが目に見えるようだった。普段草壁へのアプローチばかりが際立っていてわかりにくいが、
ひなはかなりのお父さん子である。
蒼弥の傷を見た雲雀は、一瞥しただけで、何も言わなかった。気のせいでなければ、薄く笑んでいたと思う。
見回りを終えてきたらしい雲雀を加えて、4人で並んで歩く。
もうすぐ雲雀の家が見えようか、といったところで、

ぴくり、と己の中の何処かが、何かを感じ取る。

思わず振り向いた。
懐かしいような、寂しいような、しかし嬉しい、予感。
傍で同じことを感じ取ったひなが、空を仰ぐ。同じく見上げて、目を伏せ、その感覚を確かめた。

「――沢田さん、雲雀さん」
「何?」
静かな、呟き。雲雀が同じく静かにその言葉を聞いている。
「帰れるみたいです」
「え?」

自分達が本当にあるべき場所へ。
ダイレクトに感覚そのものへ訴えてくるような予感。
「え、えと、随分急だね・・・・・・」
「そうですね」
まだ前兆があっただけましというものだ。お陰で、言いたい事も言える。
「お世話になりました」
お陰で、助かりました。2人へと向かって、す、と頭を下げる。
「あ、いやオレは全然っ・・・・・・!」
「いえ、色々してもらいましたから」
「おもしろかった!」
未来の2人にはできないことがあった。
一日中一緒にいることも、こうして出かけることも。
2人が、当たり前の様に共にある事。
貴重な体験だったと思う。
何も知らなくても、同じように自分達に接してくれた2人。照れているらしい綱吉。笑う。
ちらり、と何も言わない父親を見やってから。
「それと沢田さん、最後に一つ」
「ん?」
「僕らの父は雲雀さんにそっくりですけど、僕らの母は、貴方に似てるんですよ」

「え?」

最後のおせっかいだ。相当ぎりぎりの、ヒント。少しでも鈍い2人の後押しができればいい。
「おせわになりました!」
「さようなら」
どういう意味?と困惑する綱吉の疑問には答えず、ひなの手を取って身を翻そうとした蒼弥の肩を、
何者かが掴み押し留める。大きな手。はっとして見上げた先には、黒く鋭い相貌。
す、と雲雀が上半身だけかがみこみ、自然な動作で、その顔を蒼弥の耳元に寄せ、


「          」


囁かれたそれに、呆然と、した。
「・・・・・・っ?!」
はっ、とその表情を確かめようと仰ぎ見る。愉快そうに口角を上げている。
「気づいて・・・・・・?」
「さぁ」
本心を悟らせない笑みで満足そうに笑う姿に、確かに変わらないものを見た。
どうやら自分が中学時代の父親にさえ追いつけていないことを知って、悔しいような感服するような、複雑な感情を覚える。
苦笑したまま一礼して、再びひなの手をとり、2人の視界から消える為道の角を曲がる。
途端白い煙に包まれる中、耳に残った、聞こえの良い声の響き。
帰ったら確かめてみるのもいいかもしれない。



―――また会おう、雲雀蒼弥。



まったく本当に、いつから気づいていたのだろう。




また会おう、いつか来る遠い未来で。

とまあ最後の台詞を雲雀さんに言わせたかっただけです(爆死)
ちなみにこんな事言ってますが雲雀さん、
別に綱吉の気持ちに気づいている訳じゃなかったりします(え
まあそこはその内ブログあたりに書くであろう
おまけを見ていただければ。(書いてないんかい)

長らくお待たせして申し訳ありませんでした!
サイトにおこしくださる皆さんに、心からの感謝を申し上げます。
この子どもネタ前後編はフリーSSです。ご自由にお持ち帰りください。
サイトに載せるもご自由にどうぞ。
ただし著作権は放棄しておりませんので、その際はお手数ですが
名前、またはサイト名の明記をお願いいたします。

それでは、遅々とした進具合ではありますが、これからも「葉音」をよろしくお願いします。



2008.2.10

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