10万HIT記念フリーSS
息子&娘ver 息子は→雲雀蒼弥 娘は→雲雀ひな
※子どもネタが苦手な方は注意
あと重要事項。2人はまだ付き合っていません。
「お嬢様!おはようございます!」
「ごくでらさんおはよーございます!」
「おはようございます。あと、ひなの半径5メートル以内に近づかないでください」
朝っぱらから随分な会話をしつつ、蒼弥は愛用のトンファーを構える。
しかしきちんと挨拶はするあたり、変な所で礼儀正しい。
「5メートルって蒼弥・・・・・・」
いつものボンゴレ邸の朝。いっそ清清しいほど敬愛するボスとその娘(断じて『子ども』ではない)へ
だけあからさまに態度の違いを見せる一応右腕に、それ自体はスルーして妹に近づく人間を牽制する息子。
そんな教育をした覚えはまったくないのに、どうしてこうなってしまったのかさっぱりだ。
が。
「ちっちゃい恭弥さんがいるみたいで可愛い!」
呆れるかと思われた事なかれ主義のボスは、心底可愛いものを見つけた女子高生のようにはしゃいだ声で、
その勢いのままに、愛する夫と瓜二つな息子に、ぎゅう、と抱きつく。
ほんの10数年前まではこんな日がくるなんて夢にも思わなかったものだから、あまりの幸せに頬がゆるむ。
ここまで恭弥さんそっくりの子ども産んだオレ偉い!と自画自賛である。
時というものは人を成長させるものなのだ。それはもう色んな方向に。
その事実に涙ぐむ右腕がいるかどうかは別として。
「お、はよっ。3人とも」
続いて爽やかな体育会系の挨拶と共に現れたのは雨の守護者で。
今度は蒼弥の方も割りと大人しめにおはようございます、と挨拶をする。
「今日も元気だな!」
と自然に蒼弥の頭へと伸ばされた手は、本人が退けるよりも先に、ぐい、と他の小さな手に押し返される。
あれ?とした顔で振り向けば、むぅっとした小さな少女が兄の腕に縋りついて、雨の守護者を威嚇し始めた。
「おにいちゃんとなかよくするのはおとーさんとおかーさんとりぼーんとひなとくさかべさんしかだめ!」
「リボーンはいいんだ・・・・・・」
綱吉はうっかり感心するようにつっこんでしまった。
兄も兄なら妹も妹である。
しかしそれを蒼弥は当然といった態度で受け止めると、ふと視線を母親へと移した。
「母さん、今日は機嫌いいね。何かいい事あった?」
「ええっ?!な、なんで?!」
「なんていうか、さっきからはしゃいでる、っていうか……」
いつもならば少しは呆れるだろう行動も、嬉しそうに見ているものだから、これは相当いい事があったのだろう。
「いや、蒼弥とひなにも教えようと思ってたんだけど」
ぽっ、と頬を染めてはにかむように微笑む綱吉は、マフィアのボスどころか、2児の母にも見えない。
元々の童顔もあいまって、いかにも恋する乙女、だった。
「恭弥さん帰ってくるってさ。明日会いに来るって」
「ほんとっ?!」
「・・・・・・」
年中世界中をあちこちまわっている父親は、なかなか会える機会が少ない。
母の知らせた吉報に、きゃー、と嬉しそうにはしゃぐひなと、はしゃぎこそしないものの嬉しそうにしている蒼弥と、
ものすごくうきうきとした表情を隠そうとして失敗している綱吉。
……そして忘れさられた守護者達。
それがその日の朝の出来事だった。
「父さん・・・・・・」
「誰?」
あまりにも小さいその呟きは、幸いにも相手には伝わることがなかった。
そこにいたのは、漏れてしまった言葉通り、雲雀蒼弥とひな、双方の実の父親である、雲雀恭弥、その人だ。
ただその相貌は彼らが知るそれよりもどこか幼く、めいっぱい見上げなければ顔を覗けなかったはずの大きな体躯さえ縮んで見える。
(若い……?)
彼らが知る父よりも、その姿は幼さを残しており、どうにも違和感がいなめない。
(まさか―――・・・・・・)
そこで、ようやくこの事態の原因に思い至った蒼弥は、舌打ちをしたくなった。
ボヴィーノの牛男がいつものようにいざこざが起きているうちに放った弾。つい反射的にひなを庇ってしまったが、
先程自分達が当たった弾は、実弾ではない。害がある訳でも後遺症がでるわけでもない、特殊な目的をもって作られた弾。
10年バズーカ。
時を越える技術。あれが直前に傷つけられた事を考えれば、この状況にも説明がつく。
本来なら未来に向かうはずのそれが、そのせいでおかしな方向へと向かってしまっている。
「過去にきた・・・・・・?」
そう考えるしかない。目の前に存在する父親の未だ幼い姿。しかし間違いなく父である人が、それを証明している。
「おにいちゃんそっくり・・・・・・」
蒼弥のすぐ傍で呆然としていたひなが、思わずといった風に、目を丸くして驚いている。
その人物は彼女の兄である少年と、それはもうそっくりだった。
未来でも充分うり二つだが、対象が若い分、ますます似通って見える。蒼弥本人でさえそう思った。
「聞いてなかったのかい?君達、名前は?」
ありありと警戒心をみせる父親の声で我にかえる。そうだ問いに答えなければ。
「ひば―」
と真実を言いかけて、しかしはたと思い直した。
ここで雲雀、と名乗ってしまっていいのだろうか。
タイムパラドックス。
ここで何か影響を与えてしまったら、未来の自分達は消えてしまうかもしれないのだ。迂闊な事は口にできない。
口篭った蒼弥に未来など知る由もない父親は目を細め、その瞬間、室内の空気ががらり、と変化した。
冷え冷えとした、ぴりぴりするような、殺気。
(しまった――・・・・・・!)
瞬時に自分の失態に気づいた蒼弥は、しかしそれ以上の愚行はおこすまいと、反射的に武器を取り出し構えをとる。
「へぇ?」
意外そうに笑うその姿は、獲物をみつけた時のそれと酷似していた。
ヒュン、と風邪を切る音と同時に、キィン、と金属のぶつかり合う音。
雲雀の一撃を、蒼弥の小さな腕が止めている。
「ワオ」
今度こそ雲雀は心底楽しげな表情を隠さなかった。
続いて数度確かめるように似た様な攻撃を繰り返し、全てが危う気なく受け止められるのを見て、再び笑う。
誰かは知らないが、随分できる。
1度、2度、3度、回数が増えるごとに少しずつスピードを上げ、力を込めていくと、6度目でついに
銀色の凶器が、その小さな身体で受け止められた。
鈍い音と共にはしる激痛。そのまま吹っ飛ばされて、頭から落ちそうになった身体を、片腕を突き出して
逆立ちするように回転し、足元から正しく着地する。目は決して相手からそらされることはない。
雲雀は満足そうに真っ直ぐに見返した。
「僕は雲雀恭弥、君は?」
知っている。誰よりも尊敬している人。目標であり憧れでありこんな時でさえ感嘆してしまう強さ。
「僕は蒼弥です」
はっきりと。本来なら名前だけでもタブーかもしれないけれど、どうしても嘘はつきたくなかった。
この人に、別の人間であると思われたくない。
「ふぅん」
上機嫌に相槌をうつと、取り出した時と同様に、銀色の武器がいつの間にかどこかへ消える。
蒼弥は目を瞠った。
「そっちは?」
「ひな!」
雲雀が振り返った先に居た、唖然と2人の争いを見ていた少女は、はじけるように元気な返事をする。
ひとまず一段落したらしいことを見て取り、とてとてと兄に近寄って、覗き込む。
「おにいちゃん、だいじょうぶ・・・・・・?」
「大丈夫だよ。――父さん、手加減してくれたから」
後半の台詞は、父親には聞えないようにひっそりと。
多分、何かに認められたことと、そして、手加減。
そうでなければいかに雲雀が若く、未熟であろうと、蒼弥が生きているはずがない。
何より、あそこで攻撃の手をやめてくれる訳がなかった。
手加減される己の弱さは悔しいけれど、何も知らない父が当然のように自分達を敵だと認識はしなかったことが嬉しい。
「それで、君、何者?」
興味深そうな声色に、何も返すことはできなかった。ここは過去なのだ。
未来からきた貴方の子どもです、だなどと、言って反応を見てみたい気はするが、しかしそれは
存在そのものをかける行為。
「・・・・・・言えません」
「・・・・・・まあいいよ」
さっさとここから出て行って。ああそれからそっちの子はまたやり合いにおいでよ、と。
いつの間にか決まってしまったらしい結論に、こと蒼弥においては嬉しい気持ちと、
しかし結局どうすればいいのかさっぱりわからない子ども達は、困った顔をした。
『泊まる準備をして僕の家』
母親経由でそのメールが送られてきたのは、つい先程の話だ。
一体何なんだ?と最近では珍しい幼馴染の誘いに首を傾げつつ、綱吉は当然のようにお泊りセットを持って
こうして玄関前に立っている。ちなみにそうして当然のように雲雀の家に向かう教え子に
家庭教師は呆れたような溜息をこぼしたのだが、本人はまったく気が付かなかった。
硝子のついた引き戸を、ガンガンと叩くと、中からはーい、という子ども特有の甲高い声。
無邪気な応答に、微笑ましいと思いかけて、ん?と思いとどまる。
子ども?
「いらっしゃいませ!」
ガラリと戸を開いて出てきたのは、予想していたこの家の主である幼馴染ではなく、黒髪の小さな少女。
さらさらとした髪と大きな漆黒の瞳が、無邪気に見上げてくる姿は
「わ、可愛い・・・・・・って」
ちょっとまて?
ちょっとまてちょっとまてちょっとまて。
一歩下がってもう一度この家が正しく幼馴染のものであるかを確認し、間違いない事を確かめると、
今度は少女へと視線を戻す。
・・・・・・いる。やっぱりいる。それも楽しそうにキラキラした瞳を向けて。
綱吉はとりあえず大絶叫した。
「――それで、君は人の家の玄関先であんなにわめき散らしてたのかい?」
「う・・・・・・」
正座させられた畳の上で、しゅん、と綱吉はうなだれた。だって驚いたものは驚いたのだ。
群れを嫌う幼馴染の家に、幼い少女がいきなり現れれば普通驚く。
なのに雲雀は、昼寝してたら咬み殺す所だったよ、と恐ろしいことをのたまう。
「それにしても、まさか本当にあっさり来るとはね」
一変して驚きさえ混じった雲雀の声色に、綱吉は首を傾げた。
「当たり前じゃないですか」
家庭教師にばれてしまった以上、別にもう関係を隠す必要もないわけだし。母親も(何故か)大喜びで送り出してくれたし。
しかしそんな綱吉の反応に何を思ったのか、雲雀はわずかに顔をしかめた。
「・・・・・・僕が言うのもなんだけれど、君に警戒心は存在しないの?」
「?」
「ここは僕が1人で住んでる家だ」
「そうですね?」
それはよく知っている。だからこそ見知らぬ子ども達に驚いたというのに、今更何を言っているのだろうか。
はぁ、と溜息を疲れた。これはどうとるべきかな、とか呟いている。意味がわからない。
「・・・・・・えと、なんですかこの子達」
なんだか居心地の悪い雰囲気になったので、綱吉は無理矢理話題を変えた。
しかしその内容は本気で気になっていることだ。やたらと造作の整った、将来が楽しみな可愛らしい子ども2人。
しかも男の子の方は見れば見るほど雲雀にそっくりだった。
初めて見た時など、一瞬雲雀本人かと思ったぐらいだ。声もでなかった。
「さぁ。なりゆきで連れてきた」
「はぁあ?!」
いつの間にか応接室に現れてね、と軽く言ってくださる。だからと言って
この恐怖の幼馴染が子ども(しかも2人!)を連れてくるなんて、一体全体どんななりゆきなんだ。
(てかまさか誘拐ーーーー?!)
「咬み殺されたい?」
「めっそうもありません!」
心を読んだような雲雀の脅しに即答する。怖い。
でも見知らぬ子どもをあっさりと家に連れ帰ってくるのは問題があると思うんです、と綱吉は心の中だけでつっこんだ。
「僕は子どもの世話なんてできないし、君なら慣れてるだろう。頼んだよ」
「ええっ?!」
呼ばれた理由にようやく合点がいったが、綱吉とて子どもなら全部どんとこい、な人間なわけじゃない。
いくらとんでもなくうざい子どもの面倒を見ているといっても、保育士でもなんでもないのだ。大体子どもの世話なら
「で、でも、ヒバリさん、オレが小さくなった時、世話してくれたんでしょう?」
「あれは君だろう」
「え、でも」
「君の場合、別問題だし」
「え、ええ・・・・・・?」
それは一体どうとるべきなのか。良いようにも悪いようにも取れる気がして、微妙な感じだ。
「じゃ、僕は寝るから」
よろしく。と言い残していく雲雀に、頼まれたら断われないランキング堂々の第1位を星の王子様に賜っている、
しかも何だかんだ言いつつも雲雀に頼られる事が嬉しい綱吉が、断わることなどできるはずがないのである。
こうなったら覚悟を決めなければならない。
「こ、こんにちは?」
ぎこちなく笑みを浮かべて挨拶をすると、今まで会話に取り残されていた子ども達は、ぱっと目を輝かせた。
「こんにちは!」
「こんにちは」
雲雀をそのまま小さくしたような少年と、随分な美少女がそろって嬉しそうに、
ふわり、と笑む。
その瞬間、ピシャーン!!と、どこかのベタな漫画のように、稲妻が綱吉の頭のてっぺんから地面まで駆け抜けた。
(か、かかかかかわっ・・・・・・!!!)
くらり、と思わず綱吉はあまりの可愛らしさに倒れそうになった。何なんだこの犯罪級な可愛さ。
(だってちっちゃい恭弥さんが可愛くにっこり笑ってしかもちっちゃい女の子つき・・・・・・!!)
綱吉は身悶えた。可愛い。ものすっっっごく可愛い。片手で口元を押さえ、どんどんと畳を叩く。
見目麗しい子どもは自宅の居候達で見慣れているはずなのだが、胸から湧き上がってくる衝動は比べ物にならない。
許されるなら今すぐぎゅうと抱きしめたい衝動をなんとか抑え込む。今すぐお持ち帰りしたい。いやむしろ自分は一生ここへ住む。
どんどんおかしな方向に思考が広がっていくが、だってなんだか不思議なくらい可愛く思えてしょうがない。
どちらも雲雀に似ているからだろうか?
「どうしたの?」
すっかり奇人と化している綱吉に、少女がこてんと小首を傾げる。
「な、なんでもないよっ・・・・・・え、えっと、そうオレ沢田綱吉っていうんだ。よ、よろしく!」
「「え?」」
「え?」
誤魔化すように言った綱吉に、何故か飛ばされる疑問符。
そうか、さわだ・・・・・・と少年の方が小さく呟いていたのが聞えたが、綱吉には意味がわからない。
「なんでもありません。蒼弥、と、こっちはひなです」
礼儀正しくおじぎをする姿は、姿勢まで本当に綺麗だった。
(名前まで恭弥さんと似てる・・・・・・)
男の子は雲雀とうり二つで、女の子の方も目元以外は結構似ている。その上名前もだなんて、ものすごい縁だ。
(あれ?)
綱吉はもう一度まじまじと2人を見比べる。
「もしかして、兄妹?」
「・・・・・・はい」
少年は一瞬と惑ってから答える。その不自然な間に、綱吉は気づかなかった。
「苗字は?」
「言えません」
「ま、まさか家出とかじゃないよね?」
「家出、とは違うと・・・・・・色々事情があって帰れなくなったというか・・・・・・」
「せっかくとーさん帰ってくるって言ってたのにね」
まあ父親は目の前にずっといるのだけれど。ある意味で。
心底残念そうな2人に、本当に家出でないことは悟ったのか、綱吉はほっと息をついた。
ちょっと逡巡して口篭ってから、しかし好奇心を隠し切れない声色で問いかける。
「・・・・・・2人のお父さんってさ、その・・・・・・雲雀さんに似てる?」
ここまでそっくりなのだから、両親のどちらかは雲雀にそっくりな確率が高い。
ぶっちゃけ好奇心でいっぱいである。
これにはさすがにどう答えればよいのか迷った。
似ているかと聞かれればそれはもちろん似ている。これ以上似ている人間がいるはずがない。
「・・・・・・似てます」
と、いうか、本人というか。言えないけれど。
「世の中には似た人が3人いるって、本当なんだなー」
へーと感心している母親(ちょっと若め)に、そういう事にしておこう、とできの良い息子は思った。
子ども2人は雲雀に似た容姿とは裏腹に大層素直で、すっかり懐かれた綱吉が
嬉しくて頬をすっかり緩ませた頃。目を覚ましてきた雲雀は3人の姿を確認して
ああ、と納得した後、そろそろ夕食を作るべきかな、と台所へと消えて行った。
「ひなもやる!」
それにぱっと目を輝かせた少女の方が、ぱたぱた雲雀の背中を追い同じくかけていく。
それを見送っていた綱吉は、へー、と感嘆の息をもらした。
「ひなちゃんって、料理とか好きなんだ?」
凄い。もちろん家事全般も壊滅的である綱吉からしてみれば、相当に羨ましい話である。
「ひなは花嫁修業中なんです」
「そっかなるほど――」
納得しかけた言葉はいきなり途切れる。
「は、はなよめしゅぎょぉおおお〜〜?!」
あんな歳で?!
「はい」
何の戸惑いもなくきっぱりと少年は言い切った。むしろうろたえているのは綱吉の方だ。
「も、もしかしてあれ?こ、婚約者とかがいたりするの・・・・・・?」
「婚約を希望中の相手が」
「・・・・・・ちなみにそれはどっちが」
「ひなと僕と・・・・・・両親もかな」
そっちかい。
なんという別次元の話だろう。綱吉は眩暈がする気がした。
普通あの歳なら、お父さんのお嫁さんになる!とか言ってる年齢のはずで。
いや、かくいう綱吉はそんなことを言っていた時期はなかったのだが。(何せ始めから雲雀のお嫁さんを熱烈希望していた)
でもそれは例外で、普通はそんなのはあくまでおままごとみたいなものなのだ。
なのにまさかここまで真剣に花嫁修業。
まじだ。
本気と書いてマジと読むあれだ。
「あー・・・・・・ふ、2人がそんなに好きなんて、よっぽどすごい相手なんだな」
「はい、素晴らしい人です」
喜色を声ににじませて、わずかに微笑む。
「あの人に娘ができたら絶対にもらいます。ああ、でもひなとの子どもだと血が近すぎますよね」
やっぱり無理なんですね、残念です。と心の底から残念そうに言うが、問題はそこではない。
いや、そこも問題といえば問題だが大前提が何かすでにおかしい。まあそれはさておき。
何か違和感がある気がするものの、本当に心底残念そうにふう、と溜息をつく姿に思わず慰めたくなる綱吉は、
まさかその相手が友人とも呼べる某老け顔の風紀副委員長だなんて、全く知るよしもないのである。
―――幸か不幸か。
「ひばりさん!いっしょにねてもいい?」
何の問題もない―むしろ大層おいしかったどうやら少女は料理に適正があるらしい―夕食もお風呂も終え、
パジャマ姿で子ども達とまったりとしていた綱吉は、その無邪気ながらとんでもないおねだりに、
ぶっ、と飲んでいたお茶を吹き出した。
ごほごほとむせかえる。
「な、ななな・・・・・・!!」
「・・・・・・」
言われた本人はといえば、さして動揺したそぶりも見せず、何かを確かめるようにじっ、と無言で少女を睨んだ。
少女の瞳はきらきらとした期待で輝いている。
「・・・・・・まあ、いいよ」
「ぅええええええ?!」
「やったぁ!」
更に数秒の後、あまりにも予想外な返事に混乱を極めた叫びをあげる綱吉をおいて、
少女は嬉しそうに万歳をして、はしゃいだ勢いのまま父親の胴体にしがみつく。
(え、ええーーーーーっ?!)
「ね、さわださんもいっしょにねようね!!」
そこはすでに決定事項らしく、顔だけ綱吉に振り返って確かめるように満面の笑みを見せる。
それにはぁ?!と再び叫ぶ綱吉をしり目に、少女はどんどん話を進めていく。
「ひなとおにいちゃんまんなか!」
両親とも忙しい人だから、こうして家族そろって並んで寝る機会なんて、
それこそ片手で数えられるほどしかない。嬉しくてしょうがない少女は、ここぞとばかりに甘えることにしたらしい。
それを少年はにこにこと微笑ましそうに見ている。もちろん止める気はゼロだ。
「ひ、ヒバリさん、いいんですか・・・・・・?」
子ども達に聞かれないように、近づいてから確かめてくる綱吉の顔を、
雲雀は先程少女と見ていたのと同じようにじっと見直して、「あの子・・・・・・」と呟いた。
「?どうかしましたか」
「・・・・・・別に、なんでもないよ」
結局少女に押し切られる形となって、全員ひとつの寝室内。
布団は2つだ。雲雀が普段使用している物と、以前綱吉が小さくなった時に買ってきたものらしい。(結局使わなかったらしいが)
どちらも1人用なので、子どもとは言っても4人もの人間が眠る為には、くっつけて並べるしかない。
雲雀が左端で、綱吉が右端。間に子ども達が入る訳だが。
綱吉は深く深呼吸をして、布団にはしゃいでいる少女に正座して向き直る。
「あ、あのさひなちゃん・・・・・・」
「?」
どきどきと心臓が波打つ。とんでもないことを言おうとしている自覚が、綱吉にはあった。
けれど気になるのだ。どうしても気になる。
「お、オレの方で寝ない?!」
「うん!」
あ、いいんですか。
恥を忍んで変な目で見られる覚悟さえもした綱吉の決死の懇願は、気が抜けるほどひどくあっさりと叶えられた。
常になくありえないほど子ども達(特にこの少女)に優しい雲雀に、一緒に寝ようとねだった少女。
雲雀が大好きだと訴える少女に綱吉が覚えたのは、非常に複雑な感情だ。
実は正直ちょっとショックだった。
綱吉は酷い自己嫌悪に襲われてがっくりと崩れ落ちる。穴があったら入りたい。
こんな小さな子に危機感を抱くなんてどれだけ余裕がないんだとあまりの情けなさにいたたまれない。
(しかもあっさり頷かれちゃったし・・・・・・!)
大体、婚約を希望中の相手がいると言っていたではないか。あまりに焦りすぎてそれさえも頭から抜け落ちていた。
馬鹿だ。馬鹿すぎる。
己の心配がどれだけ馬鹿馬鹿しいものなのかをぐさぐさと突き立てられた気分である。
綱吉がそんな酷い事を考えていることも知らず―ああ良心が痛む―、誘われたことに嬉々として、いそいそとすりよってくる少女に、きゅんとする。
(うう、可愛い・・・・・・)
こんなに警戒心が薄い子どもで大丈夫なんだろうか。仮にも初対面の男(いや女だけど)にこんな風に甘えて見せるとは。
うっかり可愛さにやられちゃう大人がいたらどうするんだ!
「おやすみなさい・・・・・・」
顔を覗き込める距離で、今にも閉じそうな瞼をして、幸せそうに呟かれるそれに、綱吉はなんだか胸をつかれて、
ぎゅう、と心臓が締め付けられる気がした。
「・・・・・・おやすみ」
軽く頭を撫でてやってから、自らもくっつくように横たわる。
その向こうでは同じ顔をした2人が同じように居て。なんと、いうか。
(家族みたい、なんて・・・・・・)
うわあーーー!と自分の大胆な想像に恥かしがって頭から毛布を被る綱吉は、確かに恋する乙女だった。
自分の短編苦手意識が憎くてならない今日この頃です。
やっちゃったよ前編ってアンタ…(ぶるぶる
すいませんすいませんすいませんーーーーっ!!(土下座)
な、なにはともあれ10万HIT、本当にありがとうございます!!
まさかこんなに早いとは私も思っていなくてびっくりです。
これもサイトにきてくださる皆さんのおかげです。
この感謝をどうやって伝えればいいのやら(泣)
とりあえずお礼文としてこのSSはフリーです。
ご自由にお持ち帰りください。煮るなり焼くなりお好きにどうぞ。
2008.1.31