クラスメイト、いやむしろ学校中の視線が痛い。
せっかく今まであんまり悪目立ちしないように、あの幼馴染との関係だって隠していたというのに!
もちろん、それもこれもマフィアやら死ぬ気やら無茶苦茶なことをいう赤ん坊のせいだ。
どうして自分がこんな目に。
しかも問題はそれだけではなかったのだ。
それさえも気にならなくなるほどの一番の問題は、自分がタンクトップとパンツ一丁(仮にも女なのに何なんだこの羞恥プレイ!)
で一世一代の告白をした憧れの少女の一言だった。
「やあ、綱吉。笹川京子に告白したんだって?」
教室の居心地も悪く、おまけに今すぐ相談したいことができて、それはもう一心不乱で
応接室に逃げ込んできたというのに、部屋に入った途端言われた台詞は、今まさに最も聞きたくない言葉だった。
黒い瞳、黒い髪、鋭い雰囲気、左腕には「風紀」の腕章、今の並中の制服とは違う学ランを身にまとい、
美しき獣のような幼馴染は、机に向かいながらの執務中、いきなりやってきた乱入者にも動じない。
むしろまちかまえていたのか、全てをわかっているように、意地悪げに、とても楽しそうに笑う。
いや、絶対わかってるんだ。
それでオレを思う存分いじめようと思索してるんだ。オレはその笑みを見てそう確信した。
「ヒバリさん、わかってて言ってますよね」
「何のこと?さすがの僕もまさか綱吉がそういう趣味だとはわからなかったよ。」
「そういう趣味」とはつまり、オレが家族(と最近とある赤ん坊ヒットマン)以外で唯一女の子であると知っている
幼馴染いわく、仮にも女であるオレが女の子に愛の告白をしたことを言っているのだろう。
いけしゃあしゃあと何を!
「違いますっ!オレはただ・・・・・・!!」
「しかも笹川をかけて剣道部の部員と戦って勝ったって?
やるじゃない。君ほんとおもしろいよね。ああでも「君」が勝ったって事はあの変な性質が治ったの?
ならもう場所も遠慮はいらないよね。殺りあう回数増やしたいんだけど」
その声色は心の底から楽しそうだった。
今現在、ヒバリさんしかいない所でしか戦えない自分への皮肉と、もしかしたらその現状が
変化するかもしれないという期待。子どものようにうきうきとした感情を隠していない。
「お願いですから結構本気でうきうきしないでくださいっ!
違いますから!本当に違いますから!オレはダメツナのまんまですから!
ていうかこれ以上回数増やされちゃったら冗談抜きでいつかオレヒバリさんに殺されちゃいますから!」
「なんだつまらない」
本気で残念そうだった。背中を冷や汗がつたう。
オレがいつまでたってもダメツナなままなのは、なんかこの人にも原因があるような気がしてきた。
いつでも戦えるようになりでもしたら、間違いなくとんでもないことになる。
「オレはただ『友達になってください』って言っただけなのになんでこんなことに・・・・・・」
噂がひろまってしまったのはその時の格好のせいだろうが、その内容がいまいちおかしい。
オレは京子ちゃんに友達になって欲しいと言っただけなのに、どうしていつの間にか「愛の戦い」云々になっているのだ。
心底意味がわからない。
そんなオレの疑問に、ヒバリさんは呆れ果てたようにため息をこぼす。
「あのね綱吉。『友達になってください』なんて世間一般の告白の代名詞みたいなものでしょ。
君、表面的にはまがりにも男の子で通ってるんだから、そう受け取られるのはむしろ当たり前だと思うけど」
「そ、そんなあ・・・・・・」
考えてみればそうかもしれない。でも自分にとっての認識では
笹川京子が恋愛対象になることなどなかったから失念していたのだ。
「オレは本当に友達になって欲しかっただけなのに・・・・・・」
「まあそうだろうね。君女の子だし」
「もうどうすれば・・・・・・」
「ほっとけば。そのうち噂も消えるよ。それとも何、何をどう間違ったのか承諾でもされちゃったの」
その言葉に、オレは大事なことを思い出して、大慌てで俯いていた顔をあげた。
そう、そもそもここを訪れた原因はそれだ。
初っ端のヒバリのからかいに気をとられていたが、自分の本来の目的はそれなのだ。
「そ、そうなんですっ!」
「・・・・・・本気?」
まさか本気で承諾されてしまったのだろうかとヒバリさんは驚いている。
ヒバリさんとて先程の言葉をまさか本気で言った訳ではなかったのだろう。自分は男だと思われてはいるが
学校全体の認識としては「全然駄目」な部類に入っている。運動も勉強もできなければ社交性があるわけでもない。
あまり他人にそういった好意をもたれるような生き方をしていないのだ。
誰もオレと付き合いたいなんて思わない。ヒバリさんもそれをわかっている。
だからどちらにしろ断わられたとばかり思っていたのだろう。
自分だって思いっきりそう思っていた。だからこんなに動揺しているのだから。
「君、本気で笹川京子と付き合うの」
この時、綱吉はあずかり知らぬ事実ではあるが、雲雀は内心複雑だった。
例え「友達になってください」の意味が本当は言葉通りであろうと、「告白」が他人の勘違いであろうと
そう受け取られてしまって承諾されたのであれば、この子どもは責任をとってそうしかねない。
例えそこに綱吉の意思はなくとも、なんだか非常に気に食わない。
(もしそうなら色々手を回してぶち壊してこようていうか咬み殺す)
と心に決めた。(それが物騒だなんて最凶の風紀委員長様は思わない)
「ち、違うんです!確かに承諾されたけどそうじゃなくて」
「?」
あわてながらの弁解もどきの言葉も、どうにも要領を得ない。この子どもは元々あまり頭は
よろしくないし要領も悪いが、ここまで言いたいことが解かりづらいことも珍しい。
「だから!本当に友達になってくれるって!」
「なんだ、よかったじゃない。僕の前で群れてたら咬み殺すけど」
それのどこにあわてるような要素があるというのか。
どうやら笹川京子は天然なのか真意を汲み取るのが上手いのか、きちんと言葉通りに受け取ってくれたらしい。
少なくとも綱吉にとってはいいことではないか。
「それがよくないんです!」
「何が問題なの」
「だって京子ちゃんの返事―――」
そう、だってあのひとつ間違えば告白まがいの台詞に返された言葉は。
―――私もツナちゃんと仲良くなりたいって思ってたんだ!
―――え
―――でもツナちゃん男の子のフリしてるし話しかけちゃ駄目なのかなって思ってたの。
―――ええ!!!!
こっそりと誰にも聞かれないように耳打ちされたその言葉。それはつまり。
「オレが女だってバレてたんです!!」
それだけ叫ぶと、今現在二人しか存在しない応接室に、静寂がはしった。
「へえ、驚いた。君の事気づくなんてなかなかやるじゃないその子」
本気で驚いた。それは自分にとって珍しい褒め言葉だ。
綱吉の男装は完璧だ。仕草も口調もくせも男のそれだし、生まれてきた頃からしてきただけあって堂に入っている。
しいて言えば小柄で少々声が高いかもしれないが、それだって声変わり前と言い張ればそうおかしくもない。
現に今まで一度も疑われたことなどなかったのだ。
「ど、どうしましょうヒバリさん!」
必死に言い募る綱吉はすでに涙目だった。
今まで必死でひた隠しにし、そのおかげかまったく疑われることもなく男装に自信を持って
すごしてきただけに、思わぬ事態にまともに思考できないほど混乱しているらしい。
どうしたらいいのかわからなくなって、条件反射で雲雀に助けを求めてきたのだ。
なんだかよくわからないが悪くない気分だ。
「手っ取り早い方法ならあるけど」
「な、なんですかっ?!」
「笹川京子を消―――」
「うわああ!駄目ですっ絶対駄目ですお願いヒバリさんやめてぇええ!!」
単に綱吉の近くに寄ろうと立ち上がっただけなのに、それをに実行しそうだと勘違いしたのか、
綱吉は抱きついて体全体で必死に押しとどめようとする。正直弱いので意味がないと思う。
ただその叫び声がすぎて、息はぜいぜいとぜえぜえと苦しそうだった。
・・・・・・あまりに必死になりすぎたらしい。
結果的に抱き合っているような状態になってしまって、見下ろせばすぐそこに子どもの頭。
なんとなくとりあえず視線の下に存在するそれを撫でてやる。
それに段々と落ち着いてきたのか、子どもの息づかいはだんだんと普通の音になっていき、体に入っていた力も抜けた。
「落ち着いた?」
「・・・・・・はい」
「で、きちんと誰か他の奴に話してないかの確認と口止めはしてきた?」
「・・・・・・う」
やっぱり忘れていたらしい。まあこの取り乱し具合で
あまり賢いとはいえないこの子がそんなことできていたらそちらの方が驚きだ。
「そもそも今までずっと気づいてて何も言ってなかったんだから、
そこまで心配する必要はないと思うけどね」
「あ」
本気で思いもしなかったらしい子どもはやはりあまり頭はよろしくない。
「まあ口止めだけして広めないように頼めば?」
多分、実はそれさえも必要ないだろう。笹川京子は誰にも喋っていないはずだ。
おそらくはこれからも。
綱吉はこれで人を見る目は確かだ。
その割りに自分と交流があったりするが(雲雀は自身の異質さはきちんと正しく認識している)
まあそれはこっちが無理やりねじ込んだものなので、別に綱吉が選んだわけではない。
人の性質に敏感で、どこか怯えている節さえある綱吉がここまで友人になりたがっているのだから、
言いふらして綱吉が困るようにするだとか、そういう類の人物であるはずがないのだ。言わないが。
「ありがとうございますヒバリさん!」
最もなアドバイスに安心したのか
そう言って笑いこちらを見上げてくる子どもの頭をもう一度なでながら
馬鹿の子ほどかわいいってこのことだろうか
と雲雀はため息をはいた。
幼馴染ヒバツナ♀。原作1話編。甘いのがかきたかったとか主張。
ツナは何かあったらとりあえず雲雀のとこにいってしまうの希望。
この時点ではまだ獄寺も山本もいませんからひとりになるのは結構簡単だったかと。
ちなみに綱吉はまだ抱きついたまんまです。
多分京子ちゃんと話がついて落ち着いて今日のことを回想した時に
気づいて(遅)一人赤面してると思います。でもやっぱり色々気づきません。雲雀さんは役得(?)。
京子ちゃんはそのうちツナの想い人(無自覚)を知って協力とかしてくれるんですよきっと!