その日綱吉は珍しく家にいた父親と共に、テレビを見ていた。
内容は世間の新婚さんとおしゃべりをしたりして笑う娯楽番組。
しかし、それを見ていた綱吉は少し疑問に思ったのだ。
この人達はある一定の条件を満たして出演しているらしい。
しかしその条件というのがいまいちよくわからない。
「けっこんってなに?」
まだ四つかそこらの綱吉には、「けっこん」という言葉はどういった意味をもつのか
まだよくわかっていなかった。それでその時一番近くにいた大人――父親に、そうきいてみたのだ。
その娘の疑問に父親―家光はちいさな子どもにもわかりやすいよう答える。
「そうだなあ、ずっと一緒にいようって約束することかな。結婚したら好きな人とずっと一緒にいられるんだ」
「ずっといっしょ・・・・・・」
おとうさんはおかあさんがだいすきだからけっこんしたんだぞ〜と娘相手にのろける父親は、
職業上滅多にもてない、けれど非常に可愛い娘との交流に、その瞬間までは上機嫌だった。
「ツナは結婚したい人はいるのか?」
まさかそれを後々後悔するとは露ほど思わず、当然の流れとして聞いてくる父親に、綱吉は考えた。
(けっこん?ずっといっしょにいるひと?)
これから幼稚園にいっても小学校にいってもさらに中学にいったとしてもずっと一緒にいる人。
その時点ですでに少々何かが違ったが(そもそも結婚は16歳と18歳からだ)
綱吉は大真面目だ。そんなに長い時間を、ずっと一緒にいたい人。
そう思って何も考えず、真っ先に浮かんだのはある人物で。
その後なかなか返事をしない娘の反応を父親が不安になるぐらいの間、ぐるぐると考えてみてそう思うのも、
やっぱりその人だった。
漆黒の髪とそれと同じ色をした瞳、目つきは鋭くて、戦うことが大好きで、
完全に我が道をいく、けれど憎めなくてどうしようもなくどこか真っ直ぐなあの。
「きょうやさん・・・・・・?」
その、瞬間。
もっとほのぼのとした返答を期待していた(むしろお父さんと娘に言って欲しかった)
父親は凍りついた。結婚したい相手をきいて出てきたのは知らない男の名前なのだ!
これを男親として衝撃を受けずに何に衝撃を受けるというのか!
家光にとっては敬愛する(こんなところで引き合いにだされていると知ったら呆れるだろう)九代目に
クビにされるのと同じぐらいの重大事だ。
「つ、ツナ・・・・・・?! きょうやってだれだ?! ツナの友達か・・・・・・?!」
なんであわててるんだろう。自分が父親にとっての爆弾発言をしたという自覚のない綱吉は不思議になりながら、
しかし誰ときかれても、と疑問に思う。
(ともだち・・・・・・?)
いやそれは何か違う気がしなくもない。
普通会うたびに殺り合うような相手を友達とは言いはしない・・・・・・と思う。
じゃあ一体きょうやさんとオレの関係ってなんだろう。
今まで考えもしなかった、しかし意外にも切実な問題に、綱吉は再びうんうんとうなる。
親友・・・・・・論外だ。ますます遠ざかる。
仲間?なんの?
ライバル・・・・・・なんかやだな。
敵、はなんだかすごく悲しくなるので却下。
兄弟じゃないし親戚でもないし。
いきづまる。
「すきなひと・・・・・・?」
いきづまりすぎて、なんともなしに呟いた疑問まじりの自分の言葉に、思いのほかしっくりきた。
(うん、これだ)
友達でも仲間でももちろん敵でもなくて、
でもやっぱりきょうやさんのことは好きなんだから、好きな人で間違ってない。
いまいち関係性を表している言葉とはいえないところのある結論に、けれど綱吉はうんうんと満足がいってすっきりしている。
なので綱吉は、世の父親達のロマンあふれる夢を跡形もなくぶち壊し、
おまけに恐ろしい台詞に決定的なダメージをくらわしてしまったことになど気づかない。
おまけにそのせいで、動かない灰と化した父親にも、もちろん気づかなかった。
いや、その、幼馴染ネタをかくなら
これを書く義務があるよなと(思い込み
雲雀の位置づけを間違ってるのに無意識に間違ってないツナ。
おまけ。数日後。
「きょうやさんきょうやさん」
「何」
「けっこんしてください」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「意味わかってる?」
「ずっといっしょにいるんですよね?」
「うんまあそうだね」
「いやですか?」
「そうでもないけど」
わかってるんだけどわかってないなとわかっている雲雀さん。(何の言葉遊びだ)
そうでもないけどはうんいいよと同義と主張。
それでも相変わらずお互い無自覚(え)なふたり。