「・・・・・・それ、なんですか」
本当は聞きたくない。本当に聞きたくない。でも聞かなければならない。
数日ぶりの知人の手には、見慣れない銀色の棒のようなものが収まっていた。
あれは自分にとってよくないものだ。
断言できる。それはもう見ただけでわかる。嫌な予感がひしひしと伝わってくる。
「トンファー。色々試したけど、これが一番僕にあってる」
「つかうんですか」
戦闘で。その言葉を続けることはでいきなかった。しかし相手にはきちんと理解されてしまったらしい。
「当たり前でしょ」
「・・・・・・」
(いや当たり前でしょって!!!)
この人と出会ってもうすぐ一年はたとうとしている。
しかしその間、いつかは慣れるだろうと思っていたはずの危機感は、一向に薄れない。
日に日に腕が上がってきて(この相手は成長の限界という言葉を知らないらしい)ただでさえ辛い戦闘に、
そんなもの持ち出された日には冗談じゃなくオレ死ぬんじゃ。
「殺しはしないよ。そんなことしたらもう戦えないじゃない」
「きょ、きょうやさんなんでかんがえてることわかるんですか!」
しかもどちらにしろ先行き不安な理由には変わりないし!
「君って全部顔にでるよね」
「うう・・・・・・」
諦めるしかない。そう諦めるしかないのだ。武器投入によりこれからの戦いがより悲惨なものになろうとも。
ああどうしてこんなことになってるんだろう。あ、涙でてきた。
そんなこっちの気持ちなんてまったく考えず、きょうやさんは新しい武器を構えて準備万端。
どこかそれに遠い気分になりつつ自分も気持ちを切り替える。でなきゃ死ぬ。
そうして今日も彼らは戦うのである。(主に片方の超個人的理由により)
雲雀恭弥は今までにないほど悩んでいた。
戦闘直後のひととき。
いくつかくらってしまった攻撃に、体のあちこちは少々痛むが、
戦闘自体は満足のいく内容だったので機嫌はいい。いいのだが。
目の前に倒れているのは先ほどまで戦っていた相手。
沢田綱吉。
これが問題だった。
この子どもは実におかしい。
出会ってそろそろ一年はたつが、相変わらずおかしい、よくわからない、という感想しか抱けない。
こうして自分と対等に戦える能力をもつくせに、それ以外だとまったく駄目だ。
運動神経のかけらもない。これだけの動きができるはずの身体能力なんてどこ吹く風で、
どじでとろくて、何もないところで転んだりするのも日常茶飯事。
戦う際にしか発揮できないかと思えば、それさえもない。
以前、図体だけはでかい近所の悪ガキ、にからまれているのを発見し、あっさりのすのかと観察していた所、
この子どもは反撃どころか、逃げることにさえ失敗していたのだ。
結局思う存分殴られて、悲惨なことになっていた。衝撃だった。
自分と戦う時はあれだけの動きをするくせに、どうしてそうもあっさりと。
それからある程度月日がたってわかった事実。
どうやらこの子どもが力を発揮できるのは
自分が相手、なおかつ周りに他に誰もいない。
というふざけた条件がついているらしい。実に不便だ。
戦うにはわざわざ人気のない所を探さなければならないし、戦闘中、異常なまでに気配に敏感なこの子どもは、
どれだけ気配が小さかろうが隠れていようが誰であろうがこちらを認識できる距離に人がいれば気づき、
とたんに能力を失うのである。時には自分さえ気づかなかった気配にも気づいた。
それはそれで大した力でおもしろいが、そのせいで戦闘を頓挫されてしまったことも、一度や二度ではない。
そこまで徹底されると呆れるしかない。しかもどうやら本人は無自覚なところでそれはおこっているらしい。
それでもこの子との戦闘はおもしろいし、楽しい。
草食動物に見えるけれど違うような、しかしやなり草食動物のような子ども自身も、不思議と嫌いじゃないと思う。
そのふざけた条件も、自分だけに制限されているものならば我慢しよう。(他の奴が対象になっていたらまず許さないが)
あるいはそれは執着ともいえるかもしれない。
だからこそ面倒を押してまでこうして会いにくるのだ。
そして今回、最終的に綱吉が気絶したことによって終わりを告げた戦闘には、思わない問題が残ったのである。
気絶=つまり今綱吉には意識がない。
さすがに武器初投入は綱吉にとって厳しかったらしい。現実逃避も入っているのか、もう結構な間このままだ。
いつもなら戦いが終わると別れを告げる雲雀は、しかし今回はどうすべきかと困惑している。つまり。
放置していくか、否か。
他の者なら当然放置していく(というか捨てる)のだが、
何故かこの子ども(最もひとつしか違わないが)にするには戸惑われる。
それにまがりにも満足のいく相手だったのだし、このまま放置して風邪でもひかれたら
次また戦えるまで時間がかかってしまうではないか。
そうこうしているうちに起きないかと期待してみるのだが、そんな気配はまったくない。
そういう攻撃をしたのだから自業自得といえなくもない。
仕方ない、とため息をひとつこぼして、くったりとした同年代の子と比べても小さな体を背中に背負う。
いわゆるおんぶ、だ。
本当にあきれるほど軽い。
この子の家は、一応前にこの子について調べた時の情報の中にあったので知ってはいる。まあそこは問題ないだろう。
首筋にあたるくせっ毛な色素の薄い髪が少々くすぐったい。
そういえばどこかに外国の血でも混じっているのだろうかとふと思う。
日本人とは少々違うその色を、この子自身と同様、やはり嫌いではない。自分にしては珍しく。
しかしこれから先もまたあるかもしれないこの状況に、まさかこれが習慣になってしまいやしないかと一瞬だけ思ったが。
もう一度ため息をついてから、子どもの家に向かって歩きだす。
背中の重みとぬくもりは、思っていたよりも悪くなかった。
幼馴染ひばつな。いつまでネタばかりかいてるんだって話。
このあと雲雀さんはママンと初対面をはたします。
たぶん目覚めたツナはびっくりします。
そんなこんなで幼馴染になっていく2人。結構幼年ネタ多いな。