『なんかこわい』

その言葉は、一瞬オレの頭を真っ白にした。


りふじんなそのひとはきれいなけものでした



昔から(というかそう言えるほど生きていないけれど)不思議と、色々なことがわかった。
例えば何かをなくした時、なんとなく思う場所にいくと、必ずそこで見つかった。
例えば体を動かそうと思ったとき、なんとなくこうしたほうがいい、と思った動きをすると、
どう考えても他の子よりずっと良いい動きができた。
例えば人が何かを隠しているとき、それがどんな嘘の上手い相手であろうと、何か嘘をついているなとわかった。

どれもこれも、何か根拠があるわけでもないのに、オレがなんとなく、
で思ったことは絶対はずれなかった。

いわゆる勘、だ。

それをオレは、大して変なことだと思っていなかった。
というか、そんなことに気づけるほど頭はよくなかったともいえる。
なんといっても、女の子なのに男のフリをしろ、と男として育てられてきた事にさえ、
疑問をもっていなかったのだから、相当なものだ。





ただ、それが。





「ツナってきもちわるい」
「え?」


ある、公園で。
同じ年頃の、確かグループ内ではリーダー的な少年が言ったのが始まりだった。

「な、なんで?!」
「だってなんでもわかるんだもん。うそついてもぜったいばれるし」

その頃、オレは近所の子ともまだ普通に接していた。
少なくとも公園で会った時に、一緒に遊ぶ程度には普通だった。
時々、嘘ついてることを見破ってびっくりさせたり、その運動能力で体を使う遊びは最強だったけど。



初めのうちはまだよかったのだ。勘が当たったとしても「すごいね」ですませられるうちなら。
でも回数が増えていくにつれて、おかしくなった。
例えば誰かが物を無くした時、大抵それはオレがみつけられたけど、
年々鋭くなっていく「勘」で、そのうち
「なくした」
と言われなくてもそれがわかるようになったオレは、当たり前のように

「あれ、なにかなくしたの? きっとすべりだいのしたにあるとおもうよ」

と、本人に言ってしまった。
言われた子はびっくりしていた。それはそうだろう。
だってオレはその日公園にきてその子に挨拶した直後にそう言ったのだ。
出会い頭、しかも一瞬、おまけに何もいっていないのに。顔をみただけで。



そういうことが何回か続いて、さすがになにかへんだと感じ始めたらしい。
あまりにわかりすぎるものだから、時にはオレが隠したんじゃないかと疑われたこともある。



オレは異質だった。その「勘」の鋭さも、それによる身体能力も。



それは、無意識に「異質」を嫌う(いやむしろ恐れる、というのかもしれない)子ども達の間では
決して受け入れられないものだった。


その日をかわきりに、薄々オレのことをおかしいと感じていた子達はオレを避けるようになったのだ。


それでもあまり理解力のないオレはいまいちそれがどうしてなのか、よくわかっていなかった。
避けられはじめたことが悲しくて怖くて、
必死でどうして、ともう一度問うだのだ。その、答えが。


「だってツナくん、なんかこわい」


そういった子の一人が。決定的なその言葉を言ったその瞬間に。
頭が真っ白になって、がんがん痛み出して、ショックで血の気がひいたのが自分でもわかった。
心臓はばくばくと大きな音をたててしめつけられる。写る景色はチカチカして、目の前がまともにみえない。
そうしてぐらぐらと倒れそうになりながら、オレはやっと理解したのだ。





自分は受け入れられない存在であることを。






それから先、オレはどうにかして普通であろうと努力した。
変なことは言わなかったし、小さな見た目的にいじめやすいオレにからんでくる相手から、
うまく逃げることもしなかった。
今までだって戦いはしないものの、自分の能力を頼りにいつも逃げ出していたけれど、それさえもやめた。
ひどい怪我をしないように受け身だけはきちんとしてやりすごす。

そうこうしているうちにあの一目見ただけで全てわかるようなあの感覚も薄れていって、
『こわい』と称されたオレの能力はだんだんと衰えていった。
それを不思議に思いつつも、どこかでオレは安堵していたのだ。


彼と会ったのは、そんな頃だった。





「僕の前で群れるな」


その日、近所の公園さらにその隅っこ。
恐れが排除にかわった集団―――まあいわゆるいじめっこ達に囲まれていたオレは、
致命傷はさけつつ、彼らの攻撃を大人しく受けていた。

そんな中、その少年が突然現れたのだ。
やけに目つきの鋭い、顔立ちの整った人だった。
自分とそう年はかわらないように見えるのに、
言葉には子ども特有の、ろれつのたりなさだとか幼さだとかはまったくなくなくて、はっきりとしていた。
そしてその意味不明な言葉を堂々と言い放ち、その少年はあっさりとオレを取り囲んでいた集団をのしていく。
ドカッだとかバキッだとか、殴ったり蹴ったり、まるで漫画の効果音のような音をさせながら、屍(いや生きてるけど!)
の山をきづいていく。

「僕は弱い草食動物の群れが嫌いだ。だから君達全員咬み殺す」

(なんだそれ?!)
いきなりきていきなり言い出した。
頭の悪い自分でもその理由がものすごく無茶苦茶なことだけはわかった。
明確な苛立ちと冷たさを殺気を含んだ声が心底恐ろしい。
何これ何この人。

ビュッ

空をきる音がするほどの攻撃が、顔のすぐ横を過ぎていった。
(はやい・・・・・・!!)
初めて体験する「焦り」を感じるほどのそれに、冷や汗をかく。
こんな相手は初めてだ。
せいぜい四、五歳だというのに、この容赦の無さと場慣れしている動きは
とてもじゃないがまともな子どもではい。
そんなことを考えているうちに、いつの間にか自分以外の子どもは全員地につっぷしていた。
意識のある者は1人もいない。
当然その少年はオレに向き直って、向かってくる。
「ひっ・・・・・・!」
当たり前のように蹴りつけようとして、みぞおちにクリーンヒットしそうだった脚をなんとか少々ずらし、致命傷だけは避けて
ふっとぶ。それでも痛い。涙がでてきた。
ところが少年は顔に驚きの表情を浮かべながら、それをみて「へえ」と感心するように呟く。

「きみ、本当は強いだろう?」
「なっ、なんのことですかっ?!」
「僕は咬み殺そうとしたのに、きみはまだ無事だ。
あの状態から受け身もしっかりとってるし、致命傷は避けてる」
なんでそんなことまでわかるんですかこの人!本当何者なんだよ!
「立ちなよ。本気で勝負しよう」
「イヤです、っていったら……?」
「咬み殺す」
ひどい、この人本気でひどい。っていうかどっちにしろ咬み殺すのは変わらないんじゃないか!

宣言通り全力でかかってきた相手の攻撃をなんとか受け流し、
最近は衰え始めていたはずの「何か」が身体を無意識に支配していく。
それは身の危険を感じた身体の、防衛本能なのかもしれなかった。
そうした一瞬たりとも油断できない攻防の後、どちらも満身創痍になりながら、
それでも結局、最終的にはオレの方が先に膝をついた。
そう、負けた。
本気で身の危険を感じたから全力だった。今まで、明らかに他とは違う身体能力をもっていて、
どんな大柄な相手でも年上でも、こんな力が及ばないと思ったことはなかった。なのに。
自分とそう年齢の変わらない相手に。
いくら相手も満身創痍で、そこまで大きな差ではないとはいえ、初めての経験だった。
こちらを打ち負かした相手は傷のことなんて気にしていないように、満足そうに笑う。
オレはそれを呆然とみていた。

この存在は、一体なんなのだろう。



「君、名前は?」
そう聞いてくるその人の声は、どこまでも明瞭だった。戸惑いもなく、不安もなく。
「さ、さわだつなよし・・・・・・」
「そう。僕は雲雀恭弥」



(ひばりきょうや―――)


そう言って笑うその人を。何故か。



美しい、と



思った。


異質なオレを、いいものを見つけたとばかりに、楽しそうに。
今まで戦う事に必死で気づかなかったけれど、そこにいる人は本当に綺麗だった。
漆黒の髪、確かな意思をもった鋭い瞳、姿勢のよい、しなやかな立ち姿。
この人もまた、異質だった。あきらかにこれは、この年頃の子どもがもつ雰囲気ではなくて。
ただ戦いを求め、強い相手を好み、向上することを苦としない。
それはまるで野生的で本能的な。





(あ―――・・・・・・)





気づいた。

この人はきっと、そうなのだ。
人ではない。むしろ獣。決して屈服しない、野生の肉食獣。

だから自分を、たやすく受け入れる。
だってこの人のありようは、そんな些細のことまったく気にしないのだ。
獲物を狩る獣は、相手の毛の色が何かなんて気にしない。





「またね綱吉」





それだけ言って彼は公園の入り口から、どこかへ去っていった。
今だ地べたに座り込んだオレは、ただそれを見送る。







またね―――







泣きたく、なった。





はっきりとした聞き間違えようのない声色が、ずっと頭に響いている。
その、もう一度の縁を含んだその言葉を。唯一、誰もくれなかった言葉を。自分は。
自分はきっと。拒絶できない。それどころか。







一生、忘れられない、のだと。







勘さえも通り越した何かで、不思議と。けれど確かに、思った。




ひばつな出会い編。綱吉がやたらと雲雀さん好きです。怖がってるのに。
それにしても綱吉視点でかくのはともかく
幼年ならば表記はもっとひらがなでいくべきなのかが微妙です。
そもそもこんなにきちんとしゃべれるほど綱吉は頭よくないよ!(おい
それにしてももう少しギャグっぽくするはずが。

back