いやだから、オレはマフィアになんかならないんだってば!!
もう何度目になるかわからないツッコミを内心でしつつ、オレはここ最近の自分の運命を呪った。
そもそもの始まりは転入生がやってきたことだった。
獄寺隼人
イタリアからの帰国子女らしい。リボーンと同郷か。
さらさらの銀髪と瞳の色は、確かに異国の血を感じさせる。顔立ちも整っていて、
日本からでたことのないオレにとっては、なんだかまるで別世界の人間だった。
他の女子達はすっかりこの転入生に夢中で、すっごくかっこいいとか赤くなってささやきあっている。
(そうかなあ・・・・・・?)
確かにそうかもしれないけど、恭弥さんのほうが絶対かっこいい。
そんなことを思いながら見ていたら目が合って、睨みつけられた。
おまけにずかずかと近づいてきて、オレの目の前で止まると、なんと机を蹴った。
ガンッと机が痛みに耐えたような音がする。条件反射で身体がびくっと震えた。
見下ろしてくる視線には、明確な敵意が浮かんでいる。
(こ、怖いっ!! ま、まさか恭弥さんのほうがかっこいいとか思ってたのばれて怒ってる?!)
言い訳をするなら、そもそも気の弱いオレは思わぬ転入生の行動にパニックだったのだ。
怖いし意味わからないし後ろめたいこと考えてたし、なんて、まともな思考回路ではなかった。
「ひっ・・・・・・す、すいませんっ! あなたも十分かっこいいですからっ!」
ていうかそんなわけないだろ!と思わず謝ってしまってから気づく。
リボーンでもあるまいし、人間が人の考えを読めるわけがない。
転入生は、は? って顔をしていた。自分から墓穴を掘ってどうする。オレってほんとダメツナだ。
(大体何ナチュラルに恭弥さんのほうが〜とか思っちゃってるんだオレ!)
だってそう自然に思ってしまったのだから仕方がないじゃないか!
恐怖で冷めてしまっていた頬が恥ずかしさとよくわからない何かで熱くなる。
ふと敵意のない視線に気づきちらりと横を見ると、オレのそんな百面相を見ていた京子ちゃんが微笑んでいた。
・・・・・・穴があったら入りたい。
「おまえみたいなカスを10代目にしちまったらボンゴレファミリーも終わりだ」
うんそうだね。オレもそう思うよ。だからね。
(お願いもーほっといてってば・・・・・・)
スモーキンボムとかいう物騒な通り名のあるらしい彼は、吸っているタバコで火をつけ爆発物を使う。
わかりやすい、実にわかりやすい危険物だ。ああ目をそらしたい。オレここで死ぬのかな。
(タバコはよくないようん。あーこんなとこ鬼の風紀委員長様に見つかったら大変なことになるんだろうなー
恭弥さん絶対怒るよなーていうか消させるよなー実力行使で)
とか現実逃避してみたりする。
転入生はおもいっきりマフィア関係者ていうかマフィアだったらしい。
この時期のイタリア、そして柄の悪い人物って時点で気づけよ、オレ。
そしてあまりに駄目なオレにこの人は怒っているらしい。気持ちはわかる。解かるけどさ!
確かにオレ何やっても駄目だし見ていていらいらするだろうけどさ!でもね?!
(だからオレはマフィアになんかなる気ないんだってば!)
当初からの変わらない気持ちを内心でつっこみつつ、はっきりいって10代目云々はかなり本気で譲りたかったのに、
なんだかんだでオレは転入生に勝ってしまったらしい。死ぬ気弾撃たれてダイナマイトの火消しただけだけど。
人間爆撃機の彼は(どこにしまわれてるんだろうあれ)オレのファミリーに入るそうだ。
命まで預けられてしまった。
怖くて「いらない」とも言えなかった。
・・・・・・あまりの情けなさにちょっと泣けてきた。
できれば今すぐ家に帰りたい。
獄寺君は役に立ちたいらしいけどすることなすこと心労ばかりだし(先輩のしたり)、格好的にも。
死ぬ気弾を受けるとこれが一番嫌だ。前も思ったが何の羞恥プレイだ。
そりゃあタンクトップの下に更にベストもつけてるけど下着だってカモフラージュ用に上から着てるやつだから
感覚的にはズボンみたいなものだけど考えようによってはキャミソールと短パンぐらいな感じだけど恥ずかしいものは恥ずかしい。
まがりにも自分はこれでも一応女なのに!
ちなみにお嫁にいけなくなったらどうしてくれるとつっこんだらお前男として生きてるんだから
どっちみち嫁にはいけねーだろと言われた。もっともだがひどい。
しかもこの格好になっても男ではないと気づかれないあたりまた複雑だ。いやばれるのは非常に困るしそれこそ
とんでもない自体だが、まったく疑われもしないというのもそれはそれであれなのだ。乙女心って難しい。
ていうか何より恭弥さんにこんなとこ見られたらオレは死ねると思う。
ひかれちゃったらどうしよう。
その後獄寺君はリボーンがさせたいことがあるとか言って連れて行った。(本人はオレについているとか不満気だったけど)
正直それはありがたい。あの人怖いし。オレこんな格好だし同級生の男子と一緒なんて激しく嫌だ。
しかしそこで大問題が発生した。
(どうやって帰るんだよオレ!)
この後授業を受けるにしろ家に帰るにしろ、まずは服を探さなくてはならない。
確か教室には体育用のジャージがあったはずだが、今は授業中だ。それこそこんな格好では入れない。
だからといってこのまま帰ってしまえば学校どころかご近所さんにまで変質者扱い、下手をすれば補導だ。幸先真っ暗だ。
八方塞がりで意気消沈してその場に座り込む。
もう何も考えたくなくなって、ここ最近の運命を呪いつつ泣きそうになっていた所に。
バサリ、と頭から何かを被された。
色が濃いらしいそれに、一瞬目の前が真っ暗になる。
慌てて顔を出して何なのかを確認した。簡単に退けられる。服?
「・・・・・・綱吉、どうしたのその格好」
「き、じゃなかったヒバリさんっ?!」
突如現れた声に驚いて振り向くと、そこにいたのは最凶の風紀委員長様で。(人のこと言えないけど授業は?)
よくよく見ればそれは学ランだった。自分の上着をかけてくれたらしい。なるほど、真っ黒だ。
「あ、ありがとうございます・・・・・・。あの、どうしてここに?」
「爆発音が聞こえたから何か起こってるのかと思って。咬み殺しに」
ああ獄寺君だ。そうだよここはこの人のテリトリーだ。ていうか学校自体ある意味この人の私物だ。
明らかに何か起こってるような異変があれば縄張り意識の強いこの人がでてくるのは当たり前じゃないか!
関係者だと判断されてオレも一緒に咬み殺されるかもしれない。
あせってあたふたしていると、恭弥さんの目がすっと細められた。ただでさえ目つきが鋭い分、
それだけで怖さは倍増する。慣れているはずのオレでも相当怖い。
「それ、誰にやられたの」
「は?」
「君をそういう目にあわせた相手」
そういう目? ああそういえば自分は今まともに服は着ていないしダイナマイトのせいで
体中すすやら土やらで汚れていた。上だけは学ランで隠されているが、お世辞にもみられたものではない。
いきなり現れた事実に驚いていて忘れていたけれど、今自分はとんでもない格好なのだ。
ピシリ、と世界が止まった。
ちょっとまてちょっとまてちょっとまて!!
前から薄々思ってたけど確かにさっきちょっと呪っちゃったけどそんなにオレが嫌いですか神様!!
(きょうやさんにだけは見られたくなかったのに・・・・・・!!)
なんでよりにもよってこうもばっちりと!
恥ずかしいやら情けないやら自己嫌悪で涙が浮かんでくる。
恭弥さんただでさえ風紀に厳しいのに!これはそんなものをとっくに通り越している。
これで呆れられたり、前の事件の時の周囲のように変態とか言われてしまったら、もう死んだほうがましだ。
もし、それで嫌われてしまったら。
頭から血の気がひいた。がくがくと脚が震える。
俯く。反応が怖くて顔を上げられなかった。唇を噛み締めるが、涙が止まらない。どうしよう。
泣いてなんかいたらまた。
「・・・・・・咬み殺す」
もう自己嫌悪でどうにかなりそうな時、突如聞こえたあまりに冷たい声に、驚いて思わず顔を上げてしまった。
そこには仕込みトンファーを取り出した幼馴染。
滅多にみないほど、その表情は険しい。オーラがいてつくほど冷え冷えしくて、本能で身体がすくむ。
え、もしかして恭弥さんものすごい怒ってる?
その声色は今にも人を殺してきそうだった。滅茶苦茶冷たすぎて逆に平然とさえ聞こるほどに。
しかもどうやらそれはオレが考えていたことと違って、こちらに向けられたものではなかった。
「きょ、恭弥さんっ?! ど、どうしたんですか?」
「どうかしたのは君でしょ。で、誰なの」
「ええ?」
「さっさといいなよ。ただでさえ不愉快なんだから」
「な、何をですか?!」
「さっきから言ってるでしょ。君は誰にやられたの」
「ええ?!」
「心配しなくても死体はちゃんと処理させる。答えなよ」
なんか物騒な台詞聞こえたんですけど?!
「ち、違いますっ! これはもちろん趣味なんかじゃありませんけど
そうなんというか事故というか訳があって!だから別に誰かにやられたわけじゃ・・・・・・!」
いや誰にやられたかといえばある意味獄寺くん(とリボーン)なんだけど、何故か今の恭弥さんに言ったらいけない気がする。
その言葉に一応恭弥さんの動きが止まった。信じていないのか、疑わしげにこちらを睨みつけている。
「・・・・・・本当だろうね」
「はい!」
「嘘をついてたら咬み殺すよ」
「本当ですってば!」
「・・・・・・」
もう背中は冷や汗でいっぱいだ。嘘ではないが真実でもないので心臓はばくばくいっている。
恭弥さんはそれで一応は納得したのかしぶしぶトンファーはしまったが、何故かまだ憮然とした表情だった。
感情がおいついていないらしい。
「ヒバリさんなんでそんなに怒ってるんですか? 何かあったんですか?」
虫の居所が悪かった時に遭遇してしまったのだろうか。
そう思っての台詞だったんだけど、ひどく心外だ、という表情をされた。
怒っているのは当たり前だろうと、責められているような。何故?
なのに返された言葉は、そうではなかった。
「なんで? こっちが聞きたいぐらいだ。意味がわからない。わからないのに不愉快だ」
その口調には、珍しい困惑の色と、訳のわからなさからくる苛立ちがにじんでいる。
どうしてなのかは自分でもわからないのに、とにかく怒りを覚えていることだけはわかる。
その状態がさらに気に食わなくて、悪循環しているらしい。そういうことってあるんだろうか。
本人は気づいていなくても何かあったのかもしれない。不安になった。
しばらくしてもう一度恭弥さんは口を開いた。
「わからない」
「けど」
何かを断定している響き。その人は指でまだ乾ききっていないこちらの涙をぬぐう。
意外にも優しさを感じるそれを、オレはただ呆然と受け入れた。
「君を傷つけていいのは僕だけだよ」
まっすぐ目を合わせて言われた言葉。
息が止まった。
(―――え?)
(え、ぇぇええええ?!)
かぁああと顔が真っ赤になっていくのが自分でもわかった。
な、なんだか今すごい台詞言われなかったかオレ!
え、でもちょっとまて今の台詞って赤くなるような台詞だっけわかんないのになんでおれこんな
どうようしてるんだっていうかどうしてなんか嬉しいような気がしちゃってんの?!
ああもうわからない。心底わからない。今日は混乱することばっかりだ!
恭弥さんの方といえば大変なことを言ったという自覚はないらしい。
激しく動揺したオレに少し驚いているようだった。
「何で赤くなるの?」
「な、なんででしょう・・・・・・?」
「・・・・・・」
「・・・・・・え、えと」
結局どれだけたっても上手く言い表せないオレに、はあ、と恭弥さんのため息がひとつ。
「とりあえず応接室においで。予備の制服貸してあげる」
「あ、はいっ」
先程の言葉含め、なんだかあまりにも色々あってパニックになりすぎて何が何やらわからないけど。
でもとりあえず。
(嫌われはしなかったんだよな・・・・・・?)
今までの反応から考えるに。それだけはものすごく安堵した。
それに今肩に感じる学ランの重さだとかが、ちょっとは心配してくれたらしくて、嬉しい。
それだけですっかり満足してしまって、まあそれでいいや。と自己完結する。
わけのわからない色々なことはひとまずおいておいて、オレ達は応接室に向かった。
忠犬さんがやってきた編。
だから雲雀さんも綱吉も無自覚なんですってば(本気)。
自分で書いておいてあまりにあれな台詞にパソコンの前で
本当にかいていいのかなんて長時間フリーズしてたなんてそんなことはない。(爆)
更には本当は手でぬぐうんじゃなくて舐めとった方が雲雀さんぽいんじゃないかとか
思ったのは秘密。(言ってるよ)だってあの人動物ぽいよ!
あれです、どこかのサイト様でいってたけどヒバツナは少女漫画なんです!(開き直った)
綱吉は呼ぶときは「雲雀さん」ですが内心では小さい頃のくせで「恭弥さん」呼びです。
やってきた編のわりに獄寺後半忘れ去られてます。なんだか意味がありません。
ちなみにやらされているのは例の消火器内改造の手伝いです。どうでもいいですね。
その空回りっぷりとむくわれなさがいいと思います。管理人は獄寺大好きです。信じてください。(え