「応接室にアジトをつくるぞ」

―――ついに見つかってしまった。

その言葉を聴いた瞬間、綱吉はそう思った。



であいはのぞまぬものでした





夏休みもすぎたある日の昼休み。
オレと獄寺君と、自殺事件がきっかけで仲良くなった山本。ここ最近の日常となったメンバーで
いつものようにお昼を食べていた時、それは唐突にやってきた。

「何とんでもないこと言ってんだよリボーン!」
内心では恐れていた事態に蒼白になりながら、必死でそれを悟らせないように叫ぶ。
背中を冷や汗が伝う。ごまかし通せるだろうか。いや。

―――絶対に通さなければ。

「マフィアにアジトはつきもんだぞ」

―――どうして。

「場所が問題だろ?!応接室っていったら風紀委員室じゃないか!」

―――どうして見つけてしまうんだ。

「ちっ」
「何だ今の『知ってやがったか面倒だな』とか言いたげな舌打ちー?!」

あの人を知らずにすごせるほうが難しいとわかっていても。それでも見つけないで欲しかった。

「よくわかってんじゃねーか」
「風紀? 委員会が応接室なんて使えるもんスか?」
「あの人に常識を求めちゃいけないんだよ・・・・・・」
「ああ、なるほど。―――ヒバリか」
転入生でありおまけに綱吉以外に興味が無い獄寺がその理由を知るわけがなく、不思議がるが、
山本の方はといえば、納得したように頷いた。
「ああ? ヒバリだぁ? 鳥か?」
「違うよ。雲雀恭弥先輩。並中の風紀委員長なんだ」

―――美しい獣のような人。

「そいつに何か問題があるんスか?」
「大有りだよ!ヒバリさんって言ったら不良のトップですっごく強くて
おまけに群れてる人間が大嫌いで、群れをみたら問答無用で咬み殺す、それこそ
最凶の風紀委員長様なんだから!そんでもって応接室はあの人の本拠地なんだよ!?
あそこにアジト作るなんてムリ!絶対ムリ!咬み殺されるって!!」
オレの必死の抵抗をよそに、『すっごく強い』なのか『絶対ムリ』になのか、
とにかくプライドを刺激されてしまったらしい獄寺君はいきりたった。
「ご安心を10代目!オレがそんな奴果たしてきてさしあげますから!」
(逆効果ーー!!!)
ああ、出番だとばかりにキラキラしている。彼が犬ならきっとしっぽはすっごいことになってるようん。
どうしていつもオレの言葉は望む方向と正反対にしか機能しないんだ!呪いか?!呪いなのか?!
しかし学校の風紀委員くらいと軽く見ているのかもしれないが、あの人には本当に常識なんて通用しないのだ。
ああせめて獄寺君があまりヒバリさんの逆鱗に触れることしませんように!と祈りかけてやめた。
絶対に無理だ。
この2人の相性がいい訳が無い。断言できる。
何せどちらも相性のいい相手を見つけること自体神業的な何かを必要とする気がする者同士だ。
(その神業を自身が体現できていることなんて綱吉は気づかない)

―――知られたくなかった。

リボーンにも、獄寺君にも。
正直自分は、恭弥さんに彼らと関わってほしくなかったのだ。
リボーンがきてから得た友人達は、皆マフィアの関係者、というか関係者にしようとリボーンが集めた人物達で。
(いや山本は違うんだけど本人は参加する気満々というかごっこだと思っているというか)

恭弥さんをマフィアになんか、絶対巻き込みたくなかった。
クラスメイトからもファミリーを探すようなリボーンだ。
並盛の恐怖の風紀委員長が自分の幼馴染で、
おまけにオレが実は割と仲が良い(といっていいのかはわからないけど多分)なんて知られてしまったら
絶対嬉々として入れる。ていうか例え幼馴染じゃなくてもいれる。
それだけの能力をもった人物だ。断言してもいい。
だからせめて、少しでもリボーンに見つかるのが遅れるように、決して話題に出さなかったし、
風紀委員とかかわる物事とは遠ざかるよう頑張ってきたのだ。
群れを嫌いな幼馴染だから、「ファミリー」なんて拒否するとは思うけど、
もれなくレベルの高い戦闘がついてくると言われでもしたら、
あっさりつられてしまう可能性があるので油断できない。

そりゃあマフィアとかあの人はおもしろがるかもしれないけど。
ていうか絶対おもしろがるだろうけど!それでも。どうしても嫌だったのだ。


―――マフィアなんて危険な世界。


恭弥さんにとってありがた迷惑だろうが、
家庭教師の銃をつきつける脅しだろうがなんだろうが、これだけはゆずれない。
だってあの人はオレにとって本当に。





―――見つけないで欲しかった。





―――巻き込みたくなかった。





―――オレのせかいで、ゆいいつだった、ひと。





そうこうしているうちに獄寺君がすっとんでいってしまって、それを追って更に山本までいなくなる。
足の遅い自分では追いつけなくて。
嫌々ながらも、オレは結局、同じように向かうしかなくなった。
家庭教師の楽しそうな表情が、本気でうらめしかった。










「テメーがヒバリとかいう風紀ヤローか」
雲雀は内心珍しく思っていた。命知らずな応接室への侵入者は2人。
服装にタバコ。あからさまに風紀を乱している銀髪の男とそれを追ってきたらしい黒髪。
気に食わなかったのでとりあえず銀髪男のタバコを消させる。
それに怒りを覚えたらしい男がぎゃんぎゃん騒ぎながら(まったくもって煩わしい)取り落としたのは円状の筒。
火をつけようとしていたところを見ると爆発物・・・・・・おそらくはダイナマイト。
以前あった爆発音のした事件を思い出す。こんな特殊な獲物を使う人物なんて滅多にいないだろう。なら。


(・・・・・・ふうん、こいつが)


綱吉に手を出した相手。


(―――殺す)


例えあの状態が事故だろうが何だろうが、関係があるのは確かだ。思考が冷える。
あの時と同じ、訳もわからない苛立ちに飲まれた。
けれど今することははっきりしている。この銀髪を咬み殺せばいい。
爆発しようとしていたそれを、タバコと同じく導火線ごと切り落とし、火を消す。

「あの子が世話になったね」
「―――なっ」

返事はいらない。意味が伝わる必要もない。
言葉が通じていない相手の顔面にとりあえず一発。避ける動作からして素人ではないようだが、まだまだ遅い。
気絶はさせない。
痛みがわからなくなるなんて論外だ。
顎下から割るように一発――これはぎりぎり致命傷は外された。小さく舌打ちして
一発鳩尾に直撃させて吹っ飛ぶ身体を追って、なおも追撃しようとしたところをもう1人の黒髪が阻害する。
「邪魔」
「うおっ」
邪魔をされて苛立ち、先に咬み殺しておこうとしかければ、避けられた。
手加減はしていたが、先程の奴よりも動きがいい。強くはないが、まあまあの相手だ。
場合によってはもう少し時間をかけて遊んでもよかったが、今はそれよりもあの男への苛立ちの方が上だった。
右腕をかばっているらしい男に蹴りをひとつくれてやって吹っ飛ばせる。
バンッ、と衝撃音がした。壁に叩きつけられたらしい。
その頃にはすでに視線を銀髪に戻していたので、音での判断だ。
「っ野球バカ!」
「自分の心配をしたら? どちらにせよ君は必ず咬み殺すけど」


―――生まれてきたことを後悔させてあげるよ。



「獄寺君!山本!」

そう決めた瞬間、ドタドタとやってきた乱入者は、小さな幼馴染だった。
一瞬驚いて、あまりタイミングが良くない、と思う。
この子どもはどう育てられたらこうなるのか、ありえない程にお人好しなのだ。
「何、君もやりにきたの?」
「違いますっ!やめてくださいヒバリさん!」
目一杯身体を広げると、予想通り、くずれ落ちている2人の前に立ちふさがって庇う。
「10代目!」
「ツナ!」
心配と、咎めるような口調だった。どうやら面識が無いわけでもないらしい。
そういえばこの前言っていた、最近できた友人なのかもしれない。なんだかますます気に食わない。
「どいて。咬み殺すよ」
「っ、嫌です。やめてください!」

想像以上に機嫌が悪いのを感じ取ったのか、びくりと怯えるように震えたが、
それでも庇うのをやめる気はないらしい。厄介だ。
言葉ではああ言ったものの、平時にこの子を咬み殺すのは、本当はあまり好きじゃない。

どうすべきかと迷っていたその、瞬間に。

向かってくる何かを、反射的に弾いた。弾丸。自分にではない。

(―――綱吉)

自分以外からは身を守ることのできない子ども。

「―――誰」

綱吉との間を遮るように、撃ってきた方向に向き直る。撃ってきた割には殺気はなかった。
そこにいたのは以外にも非常に小さな影。子どもさえ通り越して赤ん坊。ただしその手には不釣合いな拳銃が握られている。
「ほんとにつえーなオメー」
「・・・・・・僕のモノに勝手に手を出さないでくれる」
「それは悪かったな。戦闘の邪魔をする為じゃなかったんだけどな」
相手はその台詞を「獲物」と受け取ったらしい。
自分でもそういった意味なのか、または違うのか、よくわからない。別にどちらでもいい。
全身黒尽くめの規格外な赤ん坊は、ニヤリと笑って謝罪する。
反射的に咬み殺そうとしたが、完璧に止められた。十手に止められたトンファーが、微動だにしない。
「ワオ、素晴らしいね君」
状況も忘れて思わず感嘆の息をもらしてしまった。
背後から、リボーン、と子どもの呟く声が聞こえる。知り合いだろうか。
「本当はツナとも戦わせたかったんだが、しょうがねーな」
「!」
そう言って手には巨大な爆発物。ぎりぎりまでもっていたらしいそれには、火を消せるほどの長さはない。

―――視界が真っ白になった。






部屋中を覆っていた煙がはれて、次に視界が開けた時には、そこにはすでに誰もいなかった。















「アジト云々があの人に会わせる為って・・・・・・!!
わざとあの人に会わせたのか?! またなんつー危険なことを!」
「覚悟していったんだけど、全然かなわなかったのなー」
軽い口調とは裏腹に、山本は結構本気で悔しそうだった。意外と負けず嫌いらしい。ああまた厄介な。
「くそっ、ぜってー次はあんなすかした風紀ヤローなんか果たしてみせます!」
苛立ちと決意に満ちた獄寺君の、「すかした風紀ヤロー」という台詞に思わずむっとする。
そう言いたくなる気持ちは非常にわかる、わかるけど!でも恭弥さんを馬鹿にされるのは嫌なんだってば!
「オレの撃った死ぬ気弾まで弾き返しまうとは期待以上だな雲雀恭弥」
リボーンはひどくご満悦らしい。その分それに反比例してオレの内心は最悪だった。
まだ決定的でないにしろ、巻き込んでしまったことに自己嫌悪していたし大体。

(せっかく久しぶりに会えたのになあ・・・・・・)

最近は学期の始まりで風紀の仕事が忙しいらしく、ほとんど会えていなかった。
夏休みだって頑張ってリボーンのいない時間という滅多にない機会だけで会っていたので、
その回数は本当に少ない。(おまけにあっちは戦闘しかけてくるし!)
そんな貴重な逢瀬(?)があんな終わり方だなんてあんまりだ。

(ああそれに恭弥さんなんだかんだでオレのこと助けてくれたんだよな死ぬ気弾のけてくれたし。
それなのにこっちは一方的にしかけて応接室で爆発おこして・・・・・・本当に何やってんだオレ・・・・・・!!)

巻き込むよりはずっといいけど、それとこれとは別でやっぱりへこんだ。









「―――『あの子』・・・・・・?」
そんな各々がそれぞれの思考に捕らわれている中で、
首を傾げて、思い出したように小さく呟いた山本の言葉は、誰にも聞こえることはなかった。




皆出会いました編。山本云々は・・・・・・まあ機会があれば。
リボーンはまだ2人の関係を知りません。
右腕候補達は綱吉が女の子ってことさえ知りません。
・・・・・・管理人は獄寺好きですよ?(言い訳じみてきた

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