ことの始まりは獄寺君の主張だった。
恭弥さんをファミリーにいれることについての。
「リボーンさんは本当にヒバリの奴をファミリーに入れる気なんでしょうか。
俺はぜってー反対です!!あんな奴信用できません!」
「まあまあ落ち着いて獄寺君」
興奮して今にもまたヒバリさんにしかけにいきそうな獄寺君をなだめながら、
オレは内心その言葉に同意していた。
ただその理由は獄寺君が言うように信用云々ではない。
いや、というか正直な話、実を言うと信用は獄寺君よりしていたりするし。
自称右腕が知ったら泣き出すかもしれないが本音だった。
更に正直に言ってしまうと、綱吉は今でも時々獄寺が怖い。
それもやっぱり泣いてしまいそうなので(というか悲しみのあまり勢いあまってそのまま自害しかねない)
言えないけれど。
そんな中、楽しそうにオレ達を見ていた山本が、ふと思い出したように爆弾発言をした。
「俺はヒバリって結構信用できると思うけどな」
「はぁ?!オメー頭いかれてんじゃねーか?!会うたんびにあんなことになる相手の
どこが信用できんだよ。おまけにあいつ群れが嫌いだろ。むしろ人間嫌いだろ」
「んー、でもさ、多分優しい部分あると思うんだよな。きっと好きな人間だっているはずだぜ」
世間一般であろうあの人への認識を、山本は否定してみせた。
これにはオレも驚いた。今まで恭弥さんが山本に優しさを見せたことなんてあっただろうか。
「どうしてそう思うの?」
大体、失礼かもしれないけど、あの弱い群れが大嫌いな恭弥さんに好きな人間なんているのか?
―――ああそういえばいた。オレの母さんと草壁さんとか。
あれ?草壁さんは「気に入っている」であって「好き」ではないのか?
というかそもそも風紀委員は「人」なのかただの「部下」なのか。
あの人の中でそのあたりの篩い分けの基準てどうなってるんだろう。
強い人?ていうか使える人?いやでも母さん違うしな。
「うーん・・・・・・なあツナはさ、ヒバリと仲のいい人間って知ってるか?」
迷っているような山本の問いかけでオレはようやく現実に引き戻される。
割と聞いてなかったのでぎくりとした。
「はっ?!いきなり何を?!」
「多分ヒバリより年下か、それか女子だと思うんだけど」
「あ、あの人の仲の良い後輩か女の人・・・・・・?い、いるの?」
ていうか女の人ーーー?!
お、オレそんなの聞いたこと無いよ?!いやあの人がそんなのいちいちオレに言ったりする訳ないけどでも!
「いや俺が気きたいんだけど。まあ多分」
「な、何を根拠に?!」
「?何焦ってるんだ?いやさ、あいつ、初めて応接室で会った時に、なんでかやたらと獄寺につっかかってたんだ。
俺には一撃で終わらせたのに、なんかしつこいぐらい獄寺ばっかり狙ってた」
「?タバコとか吸ってたからじゃないの?」
恭弥さんは風紀を乱す人間がそれはもう嫌いだから、
規則違反の(おまけにダイナマイトでよく校舎を破壊する)常習犯である獄寺君を
素行自体はそんなに悪くない山本より敵視するのは割と普通だと思うのだが。
「いや、それだけじゃない気がする。あの時はそれどころじゃなかったんだけど、
ヒバリがさ、言ったんだよな。『あの子が世話になったね』って」
「あの子?」
・・・・・・なんかそれだけで随分親しそうだ。
「ああ。だから不思議でさ。あれだけ群れるの嫌いな奴がそんな風に言う相手がいるんだ、って」
「あーそういえば言ってた気もすんな。むかついて忘れてたけど」
しぶしぶながら獄寺君が同意してみせる。本当なんだ。
「そうそう。だからさ、あいつは好きな相手の為にあれだけ怒れるってことだろ。
それってやっぱり好意とか、人を大切にするとか、そういう気持ちがあるってことだろ?」
「・・・・・・うん。うん。オレも、そう思う」
恭弥さんは確かに凶悪だし残酷だし容赦ないけど、おまけに唯我独尊で我が道をいく人だけど。
自分の気に入っているものとか、好きなものは本当に大切にする優しさをもってる。
本当に純粋に、一途に、真っ直ぐ、強く。見てて悔しくなるくらい。
獄寺君は10代目がそうおっしゃるなら・・・・・・とお決まりの台詞をはいて、
山本はオレの肯定の返事に、だよなーと笑っている。
「しっかしあのヒバリに好かれる人物なんてどんな奴なんだろうなー。
『あの子』っていうからには多分年下か女子で、獄寺となんかあった人物っぽいから
かなりしぼられると思うんだけど」
「・・・・・・誰なんだろ」
本当に心底気になる。あの恭弥さんが(母さんや風紀委員を除いて)好きな人。
風紀を乱したからじゃなくて、その子に何かしたから獄寺君につっかかるくらい、大事にしている。
(―――ま、まさか恋人とかいたりする?!)
今までそういうのを噂でも聞いたことなかったから知らなかったけど、その話はすごく嫌だ。
恭弥さんは確かにかっこいいし綺麗だし強いし仕事できるし割りと優しい(・・・・・・多分)だし
怖くて行動にでれない人が多いだけで、実際もてるかもしれないけどさ!
オレだって10年近く一緒にいたんだ。そんなの恋人できるのに関係ないけど。でも。
ああもやもやする。不安のような苛立ちのような悲しみのような。きっと全部だ。
―――胸が痛い。
「ツナ?どうした顔色悪いぞ」
「じゅ、10代目!どこかお加減でも?!」
「恭弥さんにそんな相手がいるなんてそんなまさかきっといやでも・・・・・・」
「おーい、ツナ?」
それからお昼の終了を報せる鐘が鳴って、俺たちは午後の授業を受ける為教室に
戻ったけれど、頭からそのことがずっと離れなくて、オレは午後の授業中ずっと苦しかった。
信じられない。信じたく、ない。しまいには頭痛までし始める。
オレいつの間にか風邪でもひいたのか?ともかく何かの病気?
そんなことばっかりで思考回路が滅茶苦茶だったオレは、とりあえず体調不良より
精神的な悩みから開放されようと、授業が終わった途端、2人に用事があるから別に帰る!
と一方的につげてから、『応接室』へと向かって走り出した。
「きょ、恭弥さん!」
オレの全力で応接室まで走りぬけ、ガラッと勢いよく扉を開いた。
後で聞いたところによると、鬼気迫っているようにさえ見えたらしい。あんまり覚えていないけど。
尋常ではない様子のオレに、恭弥さんは少々驚いていた。
「何、どうかしたの」
「あ、あの・・・・・・」
「うん」
「し、質問があるんですけど・・・・・・」
「どんな」
「えと・・・・・・」
オレには恭弥さんの恋愛事情なんて聞く権利はないのかもしれないが、どうしても知りたい。
それでも言いづらいのは変わらなくて、なかなか口にはだせなかった。
だって、肯定されるのは怖い。
「あのですね・・・・・・」
「・・・・・・さっさと言いなよ」
いい加減に焦れたらしい恭弥さんが少々苛立ちをにじませて詰問する。
それにオレはついに覚悟を決めた。
「年下で女の子で獄寺君と関係がある人物で知り合いっているんですかっ?!」
「・・・・・・は?」
「いやそのなんていうかえっと・・・・・・昼休みになんでかそういう話になってっていうか」
言った。言ってしまった。しどろもどろになりながら言い訳にならない言い訳を口にする。
案の定恭弥さんは呆れた目でこちらを見ていた。
「・・・・・・一体どんな話になったのか知らないけど。綱吉、君自分でなんて言ったかわかってる?」
「はい?いやだから年下女子で獄寺君と何かあったらしい人物の知り合いっていたりするのかなって」
正確には恋人がいるかどうかを知りたいのだが、さすがにそこまでストレートには聞けない。
「・・・・・・僕としてはそこまで言っておいて気づかない君のアホさ加減が心配なんだけど」
「な、なんでそういう話になるんですか?!」
「だって君でしょ」
「・・・・・・はい?」
イマイチよくのみこめていないオレを、恭弥さんは哀れなものを見るような目で見た。(失礼な)
呆れたようにため息をついてから問いかけ始める。
「僕と君の学年は」
「2年です。で、オレはひとつ下で1年」
「君の性別は?」
「男ってことになってますけど一応女です」
「あの駄犬は君にとって何」
「友達です。あっちはそう思ってないかもですが」
「で、君が探しているらしい人物の条件は?」
「だから年下女子で獄寺君と―――・・・・・・あれ?」
そこまで答えてからオレはようやくその違和感に気づく。
オレは年下女子で獄寺君と交流がある。そして恭弥さんの幼馴染(たぶん)である。あれ?
「お、おれぇえ?!」
「だから最初からそう言ってるでしょ」
え、だってそれってつまり。
―――『あの子が世話になったね』って
―――あいつは好きな相手の為にあれだけ怒れるってことだろ
山本の言葉が頭の中でリフレインする。
だって。
それって。
「あ、う、あ」
「綱吉?」
もはやまともな返答はできなくて、口からでるのは意味不明の単語にさえならない音ばかり。
「う、うわぁあああーーーーーっ!!!し、失礼しましたっーーー!!」
「え、ちょっ・・・・・・」
なにやら挙動不審なオレに、恭弥さんはさすがに何事かと思ったようで静止してきたけど無視した。
応接室から少しでも遠ざかろうと先ほどにもまして全力疾走だ。タイムを計れば死ぬ気状態時と同等の数値がでたかもしれない。
だって今は絶対顔を合わせられない。
幸いにも追ってまで問い詰めようとする気はないようで、血がのぼった頭の片隅でほっとする。
そうしてオレはようやく、先ほど知った信じられない事実を反復した。
それってつまり恭弥さんが怒ってくれたのはオレの為で。
(そういえば獄寺君と初めて会った日やたらと機嫌が悪かった)
改めて考えてみるとそうなのだ。ということはそれってつまり。うわあ!!
(オレって恭弥さんに大事にされてるっ?!)
やばい、やばいよどうしよう。
「どーしよう・・・・・・めちゃくちゃ嬉しい!!!」
嬉しすぎてどうにかなってしまいそうだ。
顔はにやけてるのが自分でもわかるし、心臓はばくばくして痛いぐらいだし、きっと全身真っ赤だろう。
(だって嬉しい!だって恭弥さんに恋人はいなくて大事にされてたのは俺で・・・・・・)
もうほっとしたし感動したし嬉しいしどきどきしてるし。
(今死ぬ気弾撃たれたらオレ間違いなく死ぬ!)
と考えたところで、思わずあの恐ろしい家庭教師がいないかどうか辺りを見回してしまった。
「い、いないよな・・・・・・?」
確かに今死んでも悔いは無いが、だからといって死にたくはない。もう少しこの幸せを感受したいし。
「それにヒバリさんに恋人がいないって事は、オレにもまだチャンスはあるってことなんだか―――・・・・・・」
ら、と続けようとしてなんだか今の自分の台詞に違和感を感じて止まる。
(・・・・・・あれ?)
「・・・・・・え?」
今自分は何と言った?
『それにヒバリさんに恋人がいないって事は、オレにもまだチャンスはあるってことなんだから』
「・・・・・・」
ちょっとまてちょっとまてちょっとまて!?
今オレものすごいこと口走りませんでしたか?!
(チャンスってなんだよチャンスって!!!)
それではまるで。
それではまるで、オレが恭弥さんの『恋人』になりたいみたいではないか。
「え、ぇえええええ?!」
そりゃなれるものならなりた―だからそうじゃないだろオレよく考えろ!?
だって普通恋人になりたいって思ってるってことは、相手を好きってことで。
(オレは恭弥さんを好きってことで―――・・・・・・)
好き?って誰が?誰を?
オレが、恭弥さんを。
すとん、と何かが腑に落ちた感じ。
今まで激しく暴れていた感情が、やっと居場所を見つけたような。
もちろん、恭弥さんのことは好きだった。大事な幼馴染だ。
でも、そうじゃなくて。オレは、つまり。
「う、えええええええっ?!」
ちょっとまてちょっとまてちょっとまて。オレって恭弥さんのこと?!
そういえばそう考えると昔からのあれやこれやそれや恋人がいるかもしれないと思った時の
この苦しい感情がなんなのかもはっきりしてしまって。
うわあ、どうして今まで気づかなかったんだ!
「オレ、ヒバリさんのこと好きだったんだ・・・・・・」
それも、ずっと小さい頃から、ものすごく。
本当に今更なことを思いつつ、全身真っ赤になって放心した綱吉は、
それだけで思考がいっぱいになってしまい、それからまるまる1時間、誰もいない廊下に突っ立っていた。
うちの綱吉はやたらとあほの子です(キッパリ
雲雀さんに大事だと思われていたことにあんまり気づいてませんでした。
いや、ほんとどれだけ鈍いんだ・・・・・・
ちなみにこれでも雲雀さんの気持ちに気づいたわけではありません(え
正直まだ自覚させる気はなかったのですが、よくよく考えるとこれって
ふたりをくっつける為のシリーズだったなとか思い出したりなんかして(忘れてたのか)
・・・・・・うん、少女漫画まっしぐら!(開き直った)
2007.7.13