「以上の生徒を、この学校の新入生として認定する」
式の中で校長によって厳かに語られる言葉。
まわりは全て同じ制服を着た同級生。数百人を内包しつつ、静けさを保っている体育館。
そうしてオレはその日、その中学校へと入学した。
お決まりの入学を祝う言葉と、軽い注意事項、学校の形態などを、新しく担任となった人物が説明している。
正直つまらなくて大半の生徒が眠そうに聞き流している中、突然、先生の雰囲気が傍目に感じられるほど真剣になった。
これだけは絶対にきいて欲しい、と前置きしてから、それこそ必死、と言われる表情で喋りだす。
「あー新入生の皆にはまず知っておいてもらいたいことがある。
並盛は割りと自由な校風ではあるが―――他の何をしても風紀委員には絶対に逆らうな」
逆らうな、っ・・・・・・て風紀委員?なんで風紀?
オレは先生の話を聞きつつ、内心首をかしげた。何かあるんだろうか。
(風紀風紀・・・・・・ん?なんかどこかで聞いたような・・・・・・)
確か―――・・・・・・いやまさか。
「特に風紀委員長の前で群・・・・・・ごほん、複数で行動したりはしないように!」
(群れ言いかけたーーーーーーーー!!!!)
担任の教員が目を激しくそらせながら言った言葉はあまりにも予想通りだった。
やっぱりあの人かそうだよなあの人だよなあの人しかいないに決まってるよな!
そういえば風紀委員長になったって言ってた。
草壁さんが副委員長だって言ってた。
やっぱり中学でも風紀とかいいつつ群れを咬み殺してるんですね・・・・・・!!!
本当に変わりませんね貴方・・・・・・!!
しかも教師のこの反応からしてすでに教職員含め権力者への脅・・・・・・いや掌握はすんでいるらしい。
この学校はきっと完全にあの人の所有物なのだ。
オレが悪い訳じゃないけど色んな人に謝りたい。
ああほんとにすいませんちょっと泣きたい。
「今までの話を聞いてなかった生徒もこれだけは本当に真剣に聞いてもらいたい」
先生の目はマジだった。
そうですねなにせ命かかってますもんね。
そうして綱吉はよくわからない哀愁にまみれつつ、教室の中で唯一、その忠告を正確に認識していた。
「ツッくん、改めて中学校入学おめでとう!」
入学式に出て、オレのHRが終わるのをまっていた母さんが、本日二度目のお祝いの言葉をかけてきた。(一度目は朝)
ちょっと照れくさい。
「ありがと。別にこなくてもいいって言ったのに」
「あらそんなの駄目よ!つっくんの晴れ舞台よ?!」
「晴れ舞台って・・・・・・別に普通の入学式だってば」
つくづく思うのだが、うちの母はどうにも乙女思考すぎはしないだろうか。
入学式なんて誰もがうんざりするような行事であり、入学生ひとりひとりなんて、全く目立つ場面なんてない。
「まぁ。もう、ツッくんがなんて言ったって今日はお祝いですからね。
そうだ恭ちゃんもこれから同じ学校なのよね!頼りになるわ〜せっかくだからツッくん
恭ちゃんに今日家にくるように言っておいてね!ご馳走いっぱい作ってまってるから!」
「ええっ・・・・・・!」
じゃーねーと母さんはさっそくとばかりに手を振りながら去っていく。
え、ちょっと貴方何の為にオレのこと待ってたんですか一緒に帰るつもりじゃなかったんですか。
そう思いつつ、すでに母さんは道の先で点になっていた。速い。
仕方が無いので母さんに言われたことを思い返してみた。
(恭弥さん・・・・・・)
今日はきてくれるだろうか。気が付けば、身体は勝手に校舎へと歩き始めていた。
母さんの命により恭弥さんを探すことになったオレは、まだ全然といっていいほど覚えていない校内を
ぐるぐると回っていた。ぶっちゃけ自分の教室がどこだったかさえすでに怪しい。
なんとか上級生の教室へ向かいたいのだが、さっぱりわからない。
恥も外聞も捨ててあえて言おう。迷子だ。
大体そもそもあの恭弥さんが素直に教室にいたりするのだろうか。
そんなことを悩みつつ歩いていた廊下の先に、見覚えのある人物を見つけた。
「あ、草壁さん。こんにちは」
「ああ、沢田か。そうか今年入学だったのだな」
その人はおや、といった感じにこちらを振り返った。
見るからにがっしりとした体格と、180はあるだろう長身。学ランにリーゼント、口には草をくわえ、何より左腕には風紀の腕章。
恭弥さんの補佐を勤める、風紀副委員長の草壁さんだ。
(ほっ・・・・・・助かった・・・・・・)
草壁さんは見た目はちょっと前の典型的不良で最初は怖かったけど、最近はそうでもない。
真面目だし温厚だし面倒見いいし中身はわりといい人だということがわかってきた。
そもそもあの恭弥さんの補佐をつとめてるぐらいの人物なんだから、相当すごい人なのは間違いない。
「はい。やっと追いつきました」
恭弥さんに。少し安心しつつ、先ほどの言葉に答えた。
少なくともこれから2年間、同じ学校の生徒だ。
小学校は校区が違って別だったから、初めてのこと。
中学に入って同じ学校へ行ける日を、同時に存在する恐怖だってはるかに超えて、とても楽しみにしていたのだ。
学生にとって学校というのは、時間のほとんどをしめる場所だ。
生活、人生のほとんどが学校での出来事だといっても過言ではない。
だからこそ生活のほとんどをしめる学校のせいで、オレと恭弥さんは、平日は滅多に会うことがなかった。
(なにせ恭弥さんは大の学校好きだ。意味もなく休んだりなんて絶対しない)
そのせいもあって、元々あまり好きではなかった学校はますますおもしろくなかった。
でも、これからはその日常の中に、恭弥さんがいる。
普通の日だって、校舎のどこかで見かけたりとか、時々は話せたりだとかもできるかもしれない。
嬉しい。
「ところで、恭弥さんがどこにいるか知りませんか?」
「ああ委員長なら応接室だろう」
「応接室?」
「風紀委員に割り当てられた活動場所だ。最も、正確に言うなら委員長の私室だが」
「応接室が私室・・・・・・」
一介の委員会がそんな部屋使って不公平ではないかなんて愚問、もちろん口にだしたりはしない。
あの人自体が並盛のルールであり、秩序なのだ。誰も口出しはできない。してはいけない。
「部外者が許可なく立ち入れば病院送りになった。気をつけたほうがいい」
「すでに過去形なんですね実証ずみなんですね・・・・・・!」
もはや独裁を通り越して恐怖政治だ。やっぱりいくのやめようかな怖いし。
そんなオレに草壁さんは苦笑して、一応フォローしてくれた。
「まあ、沢田なら大丈夫だろう」
「・・・・・・そうだといいんですけどね・・・・・・」
わりと許容されてるとは思うけどいまいち自信がない。
「案内が必要か?まだ校内を覚えていないだろう」
「はい、お願いします」
ドアの前に【応接室】のプレート。
その場所はもちろん立地条件がいいらしく、校内を見渡せる場所にあった。
「委員長、草壁です」
コンコンというノックと、身分を明らかにする掛け声。
入って、という声が、室内から聞こえる。その聞きなれた声に、思わずどきりとする。
―――この部屋の中に恭弥さんがいる。
学校での初対峙だ。なんだか新鮮でどきどきする。やばい、緊張してきた。
「失礼します」
そういって中に入る草壁さんの後ろからこれまたこっそり中に入る。
恭弥さんは仕事中らしく、何かの書類にとりかかっている。
しばらくの間こちらを見もしなかった。ようやく区切りが良いところまできたのか、
ちらりとこちらに視線をよこす。
「追加の書類ならそこの机に置い―――・・・・・・綱吉?」
まさかオレまで一緒だったとは思っていなかったらしい恭弥さんが、
珍しく驚いたふうに名前を呼んだ。うわあ。
「こ、こここここんにちはっ・・・・・・!!」
「はっきりしゃべりなよ」
あまりの緊張でどもりまくったら、恭弥さんがぴしゃりと言い放った。厳しい。
「こんにちは恭弥さんっ!」
「うん。・・・・・・君、なんでここにいるの?」
ちょっと不思議そう。はい?え、まさか恭弥さんわからない?!
「なんで、って・・・・・・オレ今日からここの生徒なんですよ?!」
「そうなの?この前会った時はそんなこと言ってなかったじゃない」
「言わなくてもわかってると思ってたんですよ・・・・・・」
自然と声が落ち込む。
(恭弥さん、気づいてなかったんだ・・・・・・)
なんか本気でショックだ。一緒の学校に行けると思って浮かれてたのはオレだけだったのか。
いやそりゃまさかオレだって浮かれてくれるとは思ってなかったけど
ちょっとは嬉しいとか思ってくれないかなとかせめて気にしてはいて欲しかったのだ。
「そういえば君、僕とひとつしか違わなかったっけ。もっと幼いと思ってた」
「ひどい?!」
恭弥さんはわりと失礼なことをあっさり言った。
今年入学どころがオレ、実年齢より下に見られてたってこと?!
(いくらなんでもそれって・・・・・・)
なんか・・・・・・あうとおぶがんちゅう?(何のだときかれると自分でもよくわかってないし困るけど)
もう泣きそう・・・・・・。
「ふーん・・・・・・君がね・・・・・・」
ふと意外にも上機嫌な声が聞こえて、思わず反応して俯いていた顔を上げた。
するとそこには、声と同じように上機嫌な表情をした彼の人。
あれ?なんか嬉しそう?
「綱吉」
「は、はい・・・・・・」
「入学おめでとう」
まっすぐ、その綺麗な黒い瞳でこちらを見て。
「―――え?」
「僕の学校へようこそ」
そう、楽しげに笑って。言葉、を、オレ、に。
じわじわと、胸の奥から嬉しさとむずがゆさがこみ上げてくる。
幼馴染の顔は、滅多にみれないほど優しい。暖かくて、どきどきして、切ないぐらい苦しくて。
「はいっ!!!」
オレはその日一番の、満面の笑みを返した。
雲雀さんは自分の好きな場所に綱吉がきて嬉しいんですよ。
説明しないとわからないっていう駄目っぽさ・・・・・・!!
2人は無自覚!!(プリ○ュア風に)
たぶんこれの数日後の話と草壁さん視点の話をそのうち書きます。
2007.7.27