うちにまた変わったお客さんがやってきた。



ないしょのはなしもあるんです




目の前には子犬のしっぽが見えてきそうなくらいオレに懐いたランキング少年。
右隣には大型犬のしっぽがこれまた見えそうな自称右腕。
左隣にはそんな右腕候補を牽制するがごとくオレの腕をとるポニーテールの少女。
そして部屋の端の方にそんな光景をおもしれーとかいいつつ笑って見ている大物。
我関せずを決め込む家庭教師。
「10代目から離れやがれバカ女!」
「ハルの名前はバカ女なんかじゃありません!」
そう対抗してますますオレにしがみつく。
ハルは京子ちゃんに続いて2人目の女の子友達だ。これがまた美少女で、オレは嬉しい反面、なんか色々悲しい。
オレもこれぐらい可愛かったらなぁ・・・・・・と色々どうしようもないことを考える。

ちなみに、性別もばれてしまった。

ていうか、タンクトップ一枚で水の中、なおかつ抱え込んで泳ぐという密着っぷりで、ばれないほうが嘘だ。
あれでばれなかったら、むしろオレは泣くしかない。
まあそんな感じで溺れるのを助けてからというもの、すっかり好かれたらしい。
獄寺さんとその他危ない男の人からツナさんを守ります!と意気込んで、頻繁に遊びに来るようになった。
ていうか何で獄寺君オンリーで名指し。
ハルに聞いた所によると、乱暴で暴力的でガサツで一番オレに迷惑かけそうな上危険だからとか。

例えば
爆発物を持ち歩くなんてデンジャラスです!ツナさん女の子なのにそのせいで火傷でもしたらどうするんですか!
とか
男の人なんですから警戒しないと!
とか
もしかすると獄寺さんのせいでツナさんが女の子だってばれちゃうかもしれません!
とか。

・・・・・・まあさすがにそれは言いすぎだと思うけれど。
(・・・・・・ごめん獄寺君)
否定できない。(2番目はともかく)



「フゥ太くんって本当にすごいんですねー占い、ばっちりあってます!」
「いや、占いじゃないから」
フゥ太に色々ランキングしてもらって、すっかり上機嫌なハルにつっこむ。
やっと獄寺君とのやりあいからはなれてくれたのはいいけれども、
フゥ太のはあくまでランキングであって占いとは違うと思うんだけどなぁ。
そんなことをつらづらと考えていたら、小さな赤ん坊の口からナチュラルな台詞。

「いよいよ次は、ツナの愛してる人ランキングだな」
「うん。って、はぁああああああああああっ?!」

ちょ、ま、はぁああああっ?!
何ナチュラルにとんでもないことを言い出すんだこの赤ん坊!!
「あ、ああああ、ああいいいいぃぃいいいい〜〜〜〜っ?!!」
(あ、愛って、愛してる人って・・・・・・!!!)
わざわざそういう言い回しでおもしろがっているにしろ、なんつーこっぱずかしい台詞だ。
大体、そんなことになったら、あ、あの人の名前がばれっ―――・・・・・・!!

さぁ、っと急激に、血が下がった。

そうだ。ここでバレでもしたら―――――・・・・・・
ああ自覚しておいてよかったこれ無自覚だった時なんて絶対とんでもないことになってた――って違う!!
(ど、どうしよう・・・・・・!!)
家庭教師はやると言ったらやる。今のオレには止めるなんて芸当できるはずもない。
いや、それがバレるだけならなんとかなるのだ。
恥も何もかもはき捨てて、最悪、幼馴染ってことだけ隠せれば―――
「ツナもいいと言っているぞ」
「ちょ、おま・・・・・・!!」
言ってない。ひとっことも言ってない。つっこむ暇もないまま、どんどん話は進んでいく。
この鬼畜家庭教師・・・・・・!!!
「はひ!ハルもすごい気になります〜〜〜っ!!」
「じゅ、10代目の・・・・・・!!」
「へーおもしろそうだなー」
何故かノリノリな皆の神経を疑う。なんで皆オレなんかの好きな相手に興味津々なんだ。
あくまで遊びとしか思っていない山本の呑気な声が逆にオレにとっては絶望的だった。
でもここで無理矢理やめさせるのも、怪しまれてしまうかもしれない。
どうしろっていうんだ。
「じゃあいくよー?」
フワリ、とやはりなにがどうなっているのかさっぱりな超常現象と共に、フゥ太のランキングが始まる。
まるで神のお告げだ。

「ツナ兄の愛してる人ランキング1位は―――・・・・・・」
(もう駄目だ―――・・・・・・!!)

どこか機械的なフゥ太の声を聞きながら、オレは最悪の事態を覚悟する。
(ごめんなさい―――・・・・・・!)
でもきっときっとそれだけは。絶対絶対知られちゃいけない事だけは、隠してみせるから。
絶対に、巻き込んだりしないから。
涙を溢れさせながら、切望に似た覚悟するオレを、神様は見捨てていなかった。


淀みなかったはずのフゥ太の声が、ピクリ、と身体が震えると同時に、止まる。


「え・・・・・・?」
静止してしまった空間の中で、ひどく間抜けなオレの声がよく通った。
他の皆も、困惑しつつ、渦中の人物を見守っている。
そんな、何事かと見守るオレ達を素通りして、その人物の宙を彷徨っていた瞳は、窓の外へと向けられていた。
「雨・・・・・・」

ぽつり、と。

その呟きと同時に、ドサリと宙に舞っていたオレ達の身体が、床へと叩きつけられる。
「っ・・・・・・!!」
痛みと混乱で支配されている意識が、正常さを失わせた。
ざぁっ、と屋根に叩きつけられる雨粒。その音が、鼓膜を震わせる。
ごろん、と不機嫌な猫のように、フゥ太の身体が床に転がった。だるそうに口を開く。
「僕のランキング・・・・・・雨の日はデタラメになっちゃうんだ・・・・・・」
「ええっ?!」
影響はそれだけではないのか、体調まで雨を嫌う猫と同様に悪そうだった。
その中告げられた衝撃の告白に、思わず驚きの声をあげてから、オレはこの事実の意味を考える。

(ランキングが、できない?)

ランキングができない。それはつまり、オレのランキングも、知られることはないということで。

た、
(たすかったぁ・・・・・?)

安堵のあまり、へたりと身体から力が抜ける。
(よかった・・・・・・よかったぁ・・・・・・!)
「あ、あはははは・・・・・・」
ランキング星との交信云々の話が耳をすり抜けていくが、聞いちゃいなかった。
とにかく嬉しくて嬉しくて、我慢できない安堵感に、自然と顔の筋肉が緩んだ。
ちっ、と舌打ちする家庭教師に、ほっと胸を撫で下ろす。



それだけですっかり安心していたオレは、フゥ太が意味あり気にこちらを見ているだなんて、まったく気づきもしなかった。












「ツナ兄」
「どうしたフゥ太」
皆が帰って散々になった頃。
すっかりのんびりした気分だったオレは、声をひそめて言われたそれに、心臓が凍りついた。
「ツナ兄って、本当は女の人なんだね」
「え―――・・・・・・」

つなにいって、ほんとうはおんなのひとなんだね


つなにいって―――――


「ええええええっ!!ちょ、ま、なんでっ?!」
大いに取り乱すオレに、フゥ太は悪戯が成功したようにクスリと笑う。
「本当はさっきのランキング、雨が降る前だったから、正しいのわかってたんだ」
「え?」
「でも、ツナ兄の愛してる人ランキングが・・・・・・知らない人だけど、男の人だったから」
(ギャーーーー!!!!!)

ある意味『女の人』発言よりもたちが悪かった。
ばれた。フゥ太にばれた!!!!安心してる場合じゃなかったよオレ!!
ばれてるよ色んな事ばれてるよどうしようどうすればいいですか恭弥さん!!
ついついいつもの癖でその場にいない幼馴染に助けを求める。
その場にいなくて本当によかった。本人に相談してどうするんだオレ。

「もしかしたらって思って男女別になるランキングしたんだ。そしたら」
「オレ女の方に入ってたんだ・・・・・・」
「うん」
まさかそこでばれるとは思ってなかった。
男装のことだけはオレにも自信のある事柄なので、あちゃーといった気分だ。
そこはオレではどうしようもない。
不思議と気分は落ち着いていた。多分、ここにあの家庭教師がいないということ、
そして何より、フゥ太が。あの瞬間に黙っていてくれた事への信頼があるのだろう。
なんとなく、大丈夫なような、そんな気がしたのだ。
「だから隠してたみたいだし、ばれるような事言っちゃ駄目だと思って。
本当に男だった場合でも言うとまずいだろうしね」
「ふ、フゥ太・・・・・・」
なんていい奴なんだ・・・・・・!!!
最近周りが恐ろしく自己中な連中ばっかりの為に、こういう優しさが身に染みる。
オレ、お前が今度狙われても頑張って守るよ!!・・・・・・この際羞恥心は無視して。
「皆はツナ兄のこと知らないの?」
「うん。リボーンは知ってるけど、他は知らないんじゃないかな」
「・・・・・・ツナ兄の好きなヒバリって人も?」
「ぶっ!!」
思わずふきだした。だって油断していたんだよまさか名指しくるとは思わなかったんだよ!!

(は、恥かしい・・・・・・!!!)
かぁああああと頬が熱くなる。
オレの反応を不思議そうにきょとん、と見上げてくる純粋な瞳が、ますます羞恥心を誘う。
そりゃあ最近自覚したけど他人から言われるのはまた違うというか100%当たるっていうランキングで
改めて恭弥さんが一番なんだなんて太鼓判押されるとそれはもう恥ずかしいにきまってるじゃん!
だって普通他人に知られるなんてそんなの恥ずかしすぎだろう?!
(うう・・・・・・)
今すぐ逃げ出したいを気持ちをフゥ太への感謝からなんとかぎりぎり押さえ込む。
本当、ここに誰もいなくてよかった。あの人が好きだなんて、きっと皆オレの正気を疑うだろう。
いや知ってるか否かだけで聞かれればそれはまあ。
「し、知ってる・・・・・・」
「よかったじゃんツナ兄!もしかしてもう恋人同士なの?」
「ま、まさかっ!!!」
あ、ありえない。以前京子ちゃん相手にも即答したが、恭弥さんがオレとこ、こ、恋人なんてっ!!不釣合いにもほどがあるだろ?!
いや、不釣合いだってわかっててそういう関係になれたらなーとか思っているオレは相当図太いというか
あつかましいというか、身の程知らずっていうのは自覚している。
いいんだ。夢見ることは自由だ。

「え?でも教えてるぐらい仲いいんでしょう?」
フゥ太は不思議そうだ。
「いや教えたというかあっちがいつの間にか気づいてたというかていうかそもそもなんで気づいたんだろう
やっぱり野生の勘かなあの人のことだから調べてっていうのもありだけどそこまでオレに興味があったとは
思えないしやっぱりそれは自意識過剰だよな第一あの頃いくつだったと・・・・・・まあ何知ってても不思議じゃない人だけど」
「ツナ兄ー?」
「あ、ごめん。うん知ってはいるけど恋人なんてありえないから」
「そうなの?」
「うん間違いなく。オレの片思い」
これだけは自信を持って言える。そもそもそんなの想像するだけでおこがましいだろう。ていうか恐れ多い。
「あ、僕その人の愛してる人ランキングもやってこようか?」
名案、とばかりにフゥ太が提案してくるが、とんでもない。
「だ、駄目っ!!絶対だめ!!!危険だから!!本当に危険だから!!」
それはもうフゥ太を狙ってきたマフィアなんかまったく目じゃないほどに。何が逆鱗に触れるかわからない人なんだから。
「え〜?」
せっかく役に立てると思ったのに、と不満そうな顔をされても、譲れないものは譲れない。
「駄目なものは駄目!第一そんな、人の好きな人とか、本人が知らないうちに勝手に知っちゃうなんて失礼だろ。
それにやってみなくてもあの人のランキング1位は絶対学校だから。それか並盛」
「・・・・・・それ人じゃないよ?」
「それでもでるから」
「いやでもそれ人じゃ・・・・・・」
「でるんだよ」
「・・・・・・そ、そうなの?」
オレの常にない剣幕に、フゥ太がたじろぐ。
っていうかそれ以外で本当に人がランキングに入ってたらオレ立ち直れないし!
もし母さんが1位だったりしたらどうするんだ・・・・・・って
(本気でシャレにならねーーーーー!!!)

「あ、やばい自分の想像に泣けてきた・・・・・・」
「ツナ兄?!」

アホかオレ。うん抹殺。そんな考えは精神安定上よくないから頭から排除するに限る。

「と、とにかく!オレが実は女だっていうのも、その・・・・・・お、オレの好きな人のこともっ!!!
誰にも内緒にしてくれな?!あ、リボーンにも!!」
「う、うん・・・・・・」



フゥ太に脅迫まがいなお願いをしつつ思う。
恭弥さん。オレ、自分の気持ちを自覚してからというもの、何だか内緒の事でいっぱいです。





フゥ太はいい子だと信じて疑わない(ん?

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