「あら、いらっしゃい恭ちゃん!メリークリスマス!」
「やぁ、奈々。・・・・・・クリスマス?」
そろそろ子どもと殺り合おうと、いつものように沢田家を訪れれば、
その日の出迎えはいつもと違った。
「きょーやさんこんにちは!めりーくりすます!」
やってきたのが自分だと気づいてぱたぱたとやってきた子どもも、奈々と同じような挨拶をしてくる。
それに普段の挨拶を返し、首を傾げる。
確かに今日は12月の25日ではあるが。
「この家、クリスチャンだったの?」
「くりす?」
「キリスト教徒」
「?」
一応日本語で言い直してみても、子どもには何の効果もなかった。
目に見えるような疑問符を浮かべ、首を傾げている。
「・・・・・・キリストを信じている人間のこと」
「きりすとさんってだれですか?」
「・・・・・・」
この子は馬鹿だ。もう何度目かになるかわからない事実を再認識する。
きょとん、と無垢な瞳で見つめられて、溜息をもらした。
「ちなみに君、クリスマスって何の日だと思ってるの」
「ケーキたべたり、さんたさんにぷれぜんともらえるひじゃないんですか?」
子どもの返事に戸惑いはない。心底それが正しいと信じきっている。
そういうものだろうか。
いや、今現在の日本の風習だけを考えるなら、そう間違っている訳でもないが、
そもそもクリスマスはキリストの聖誕祭だろう。
そんな実在するかもわからない人間の誕生日になど興味はない。
自分はクリスチャンでもない。神を信じてもいなかった。
「奈々」
子どもでは埒が明かないと判断して、その親へと質問対象を変更する。
視線を向けられた本人は、にこにこと楽しそうな笑みを浮かべていた。
「うふふ、違うわよ。でも、何だか楽しい気分にならないかしら?
こういうお祝いってとても好きなの。恭ちゃんのお家はしないの?クリスマス」
「しない」
生まれてこの方、人生にそんなものは存在しなかった。
この家のように、ツリーを飾ったり、ケーキを用意したり、プレゼントを貰ったりなど、
むしろ別世界の話のように感じる。
と、いうか。
「僕1人暮らしだし」
1人しか居ない住人がそういうことに興味がないのだから、あるはずもない。
「「ええっ!!」」
何故そこで綱吉まで驚くのだ。
すでに家まで連れて行ったことのある子どもに対して、呆れによく似た感情がわく。
あの家に自分以外の住人の気配なんてなかっただろうに、そんな事にも気づかなかったのか。
「恭ちゃん、ご家族は?」
「さあ。どこかで生きてはいるんじゃない」
あまり気にしていない。家族、という単語にも違和感のあるような面々だ。
「じゃ、じゃあ、こういうお祝い、したことはないの?」
「お正月はするけど。まぁ、こういう行事はしない」
それを別に気にしたことなどなかったのに、『1人暮らし』という事実もあいまって、
それは沢田家の面々に大層な衝撃を与えたらしい。
劇的に変化した形相で、奈々に肩を掴まれる。滅多にない様子に、軽く困惑した。
「恭ちゃん!」
「何」
「今日は泊まっていって頂戴!」
「は?」
いきなり何を言い出すのだろうか。
「一緒にお祝いしましょう!ね?」
「別に・・・・・・」
自分は綱吉と殺り合いにきただけで、クリスマスはどうでもいいのだとという思いは、
口からでる前に、遮られる事になった。
「きょーやさんとまっていくんですかっ?!」
横で話を一応聞いていたらしいものの、ちんぷんかんぷんという表情を隠していなかった子どもが、
そこだけは理解したのか、大仰に反応して、ぱぁああああ、と笑顔になって、きゃーとはしゃぐ。
「ごちそういっぱい作るわね!あ、そうだ。つっくんの靴下の予備があるから、
そっちもだしておきましょう。恭ちゃん用に!」
「やった!えへへ、きょうやさん、いっしょにねましょうね!」
きらきらと期待の篭った瞳が4つ。ものすごく微妙な空気がただよう。
「・・・・・・」
雲雀が、自分は沢田家女子の『お願い』に弱いのだと自覚するのは、これからおよそ数年後の話である。
朝起きたら――ちなみに寝床は子どもの希望通り綱吉の部屋である――玄関先には、
大きく膨らんだ特殊サイズの靴下が2つ、仲良く並んでいた。
いつの間に、という感心と、一応感じる感謝の念。しかしなんとも言えない複雑な心地だ。
そんな心境にもちろん気づかない子どもは、純粋に大喜びである。
「きょーやさん!さんたさんってすごいですね!きょうやさんがここにいるってわかってるんですね!
まほうみたい!おれもそのまほうつかいたいです!おしえてくれるかなぁ。さんたさんってどこにいるんだろう・・・・・・?」
サンタを信じて疑わない無邪気な子ども。
きょうやさんはしりませんか?という、恐ろしい質問。
僕にどうしろと。
クリスマスに間に合ってさえもいないクリスマス話。(・・・・・・
こうして雲雀さんは沢田家のイベントが習慣化していきます(爆)
すいません、間に合ってなくてすいません。
あ、雲雀さんと綱吉は一緒に寝てますが雲雀さんは何もしてませんよ
大丈夫です。(当たり前だ)