「僕はマフィアが嫌いです」
「・・・・・・うん」
「その中でもボンゴレが最も憎い。他とは比べ物にならないほどに」
そう。マフィアを憎む元凶となったあの忌々しいファミリーよりも更に。
あんな薄汚い世界を再認識させられただけの想いなど。
この身の内を食い破りそうなほどの怒りに比べれば。
「骸・・・・・・!」
「事実です」
悲しそうに咎める片割れとは反対に、もう一人、その片割れの護衛である男は、
ただ静かに己の独白を聞いている。
「マフィアなんてこの世から消えてなくなればいい。一時的にでも
貴方の身をのっとって潰してしまおうかと考えたことなんて、もう数え切れない」
これには護衛はピクリと反応した。殺意を込めた瞳で己を威嚇する。
それでも動きはしなかった。
少なくとも、そんな台詞を言って即殺されない程度の認識をされている。
柄にもなくなんとも言えない気分になった。
いっそ泣きたい気分だ。
だからこそ己は、今だこの怒りを身の内にくすぶらせ続けているのだから。
「覚えておいてください」
「もし君達が死んだなら」
「僕は」
その先は続けなかった。
薄汚い世界よりも大事に想う。だからここにいる。
彼らは己をここに縛り付ける為の人質だ。憎む世界よりも大事だから、世界を滅ぼせない。大いなる矛盾。
憎んでも憎み足りないマフィアは彼らを人質に意を通し、けれど人質自身がそのマフィアの頂点であり。
その存在を愛してしまったもう一人も、束縛を拒否しながらもそこにいる。
だからこそ、その存在ごと滅ぼすこともできずに、己もまた、ここにいるのだ。
だから憎い。怒りで全てが焼き散られそうなほどに忌まわしい。決して許されない領域を侵したボンゴレ。
その存在が消えたのならもはや。
「貴方達を愛しているし、おそらく11代目も愛せるでしょう」
「うえぇえっ?!い、いきなり何をっ?!」
11代目、という台詞に、こんな状況であろうと真っ赤になる存在がおかしい。
ほほえましいと、そんなことを己が思う日がくるとは思わなかった。
「けれどいずれボンゴレは必ず消します。一人残らず跡形もなく」
けれど先ほどの台詞よりよほど冷たく、もはや決定事項となっている言葉を口にする。
一転してその表情が泣きそうな顔に歪む。もう一人は何の反応を示さない。
群れがどうなろうと彼にとっては知ったことではないのだろう。自身が死んだ後なら尚更。
世界と釣り合う正反対の二人。
ボンゴレも己を引き入れた張本人であるアルコバレーノも、沢田家光も。
せいぜい後悔することです。己などを身の内に入れたことを。
霧の守護者だなどとふざけた地位を与えたことを。霧などしょせん幻影だ。
天候が代わればいずれ変質する。
愚者はそうして狂気の笑みを浮かべる。
終焉を導く天秤
未来。いつかこの衝動が全てを超えて。
・・・・・・犬と千種はどこいった(爆)
2007.7.14