「10日前黒曜中が3人の帰国子女にしめられた。リーダーの名を六道骸」
「六道・・・・・・骸?」
―――僕の名です。けれど、あまり口にしないほうがよいでしょうね。
その名を聞いて頭によぎったのは、時折やってくる、もう一人の幼馴染。
その幼馴染と同じ名の人物が、黒曜中を乗っ取り、フゥ太を誘拐し、ランキングにのった並中生を襲っている。
(―――まさか)
確かにまともなやつじゃなかったけど。
まともな素性も知りはしない。実際に胡散臭くて、何かにとりつく変な能力も持っている。
でも彼は、己と「彼」には、本当に優しい。むしろ、優しいというより、尊い何かを見るようそれ。
そのあいつが、こんなことをする理由がどこにある。
見せられた写真の六道骸は確かに別人で、オレはそれにほっとした。
事態は変わらないけど、別人ならばそれで終わりだ。
―――そのはず、なのに。不安にも似た嫌な感じは消えない。
黒曜センター。敵の本拠地。仲間が全てぼろぼろで、なんとかオレ1人辿り着いた先に。
一人椅子に座って悠然と微笑むそれは。
「むく・・・・・・ろ・・・・・・」
特徴的な髪型、どこか嘘臭い微笑み。黒曜中の制服を着た、男。
ランチアさんの話を聞いて、写真の人物が影武者であることを知り、まさかとは思っていた。
あたって欲しくなかった予感が当たって、見覚えのある、その姿。
―――ああ
―――そうでなければいいと、願っていたのに
「お久しぶりです沢田くん。雲雀くんはお元気ですか?」
いつもの挨拶。ひどく、場違いな。
唯一ここまで共にきた家庭教師が、その面識があることを匂わせる台詞に一瞬驚いて、どういうことだ、
と目線でこちらを問い詰めてくるが、それどころではなかった。
「なんで・・・・・・お前が・・・・・・」
「僕が、君がここに来ることになった理由の、元凶だからです」
「なんでこんなことっ・・・・・・!!お前っ・・・・・・!!」
どうして。どうしてだよだってお前、まだオレをそんな優しげに見るじゃないか。
いつものように、あの人のことを聞くじゃないか。
「決まっています。ボンゴレを―――」
「滅ぼす為、ですよ」
初めて聞くような冷たい声で、感情のうかばない表情で。
その瞳だけが、絶対的な本気を表している。背筋が冷えた。
「僕はマフィアが嫌いです。憎くて憎くてしょうがない。世界の中で、最も醜悪な存在だ」
愚者の言葉は続く。
「だからこそ、貴方にマフィアになって欲しくありません。どんな手段を使ってでも潰します」
「骸・・・・・・」
「ですから雲雀くんも預かっていますよ。彼は貴方がアイドルだろうがマフィアだろうが一般人だろうが、
ついでに性別だって、まったく気にしない人ですからね」
ひゅっと、息を飲んだ。
この人が騒ぎ出してから、オレはあの人を見ていない。ざわざわとした不安。
「ヒバリさんはっ・・・・・・!!」
「おもしろい病気にかかっていたので、それを利用して少し眠ってもらっています。
彼はこういう手段を使うと、おそらく、僕の邪魔をするでしょうから」
まあ、どちらにせよ後で殺される覚悟は必要ですけどね。借りばかりで後が恐ろしい、と苦笑して。
変わらないのに。
いつのまにかやってきて、いつのまにかオレ達を見て嬉しそうに笑ってそこにいて。
性格は本気で悪くて、確かに悪人に分類される奴なのに。オレ達を本気で傷つけたりしない。
変わらない、のに。
ボンゴレ自体がなくなれば、子どもがその頂点に立つこともなく。
今ならまだ。決定的な事実が無い今ならまだ、それで遠ざけることができる。
それは最後のあがきで。
これが失敗したならば、これまでの存在意義を否定しなければならなくなる存在に。
残された唯一の。
「いちいち五月蝿い。君はここで咬み殺す」
痛いほどの静寂の中、唐突に会話に割り込んできた声。そこに居たのは薬で眠らされていたはずの人。
あいかわらず学校の制服に身をつつみ、愛用のトンファーを構え、鋭い瞳は、その不機嫌さを表している。
「ヒバリさんっ・・・・・・!!」
「雲雀くん―――・・・・・・」
骸が呆然と呟く。それを視界の片隅で聞いたが、オレはそれどころじゃなくて、そこで悠然と立っているその人にかけよった。
「ヒバリさんっ!け、けが・・・・・・怪我ありませんか?!」
「眠らされてただけなのにある訳ないでしょ」
「よ、よかった・・・・・・」
こんな状況だけど、こんな状況だからこそ、その存在があることが、本当に心強かった。
無事なその姿が、心臓をしめつけるほどに嬉しい。
骸はそんなオレとは対照的に、信じられない、と言いたげに彼を見た。
「貴方・・・・・・あの状況からどうやって・・・・・・」
「僕をあんな薬ごときでどうにかしようなんて、百年早いよ」
「ごときって・・・・・・それでも念の為できるだけ強いやつを使用したんですよ。
それがそんな。貴方って人は本当に―――・・・・・・」
状況も忘れて感嘆さえしているような呟き。
本当にすごい人だ。オレだってそう思う。
けれどそんなことはどうでもいいプライドの高い並盛の支配者は、高らかに宣言した。
「この状況と僕の学校の秩序を汚した事。2、3回は殺さないと気がすまないよ」
「まってくださいヒバリさん!」
今にも飛び掛っていきそうなその人が、オレの叫びにぴくり、と静止する。
「何、まさか止める気じゃないだろうね」
「その気です」
「・・・・・・咬み殺されたいの」
「違います・・・・・・!!でも」
「オレが、やります」
「な」
「多分、オレがやらなきゃいけないんだ」
色んな人をまきこんで、獄寺君や山本にも怪我させて。
それがオレの為だったというなら。それを止めるのは、やはりオレでなければならない。
彼はそれに一瞬目を瞠ったけれど、オレの視線に何を感じとったのか、しぶしぶ腕をおろした。
「貸しひとつなんかじゃ、全然足りないからね」
「はい」
そうしてオレは愚かな道化師へと向き直る。
彼は呆然と、しかしどこかでそれをわかっていたかのように、まったく嬉しくはなさそうに、薄く笑った。
ああ。
家庭教師に新たな弾を撃たれて、恭弥さんと戦っている時のような、清んだ、慣れ親しんだ感覚を手に入れて。
たおしたあいてにばかだおまえ、とつぶやけば
あいてはそうですね、とあきらめたようにかなしくわらった。
愚者の嘆き
愚かな願いの最後と、今までの己を殺すことを決めた瞬間。
ヒバツナです。ムクツナではありません。(断言)
あくまでヒバツナ+骸です。
2人が大好きな霧です。(誰だよそれ)
ちなみに雲雀さん元気なので犬と千種は倒してきたけど
獄寺はおいてけぼりです。自分で出たので借りないんですね。
処方箋は多分渡されてます。獄寺損な役回りだな!
2007.7.29