「・・・・・・六道?」
「わかるの・・・・・・?」
すれ違い様、勘、といっていい何かに従って呟いた言葉に返ってきたのは、肯定にも似たそれ。
けれどその返答に関わらず、そこに居たのは想像とは異なる声色、異なる人物。

「君、誰?」

『あの男』と同種の制服に身を包み、髪型も、隠された右目も似ているが、確かに見知らぬ女子。
ただそこからは『あの男』の気配。けれど取り憑く際の存在感ではない。
かすかにまとわりついた残滓のような。
もちろん『あの男』本人ではない、間借りされてもいない、『何か』。

「私はクローム。クローム・髑髏。骸様の・・・・・・部下」
「あの男を様付けで呼ぶなんて、物好きだね。おまけにアナグラムか――・・・・・・」
あからさまに本名ではない名。『あの男』の名のアナグラム。
何故かあの男のまわりには、こうした崇拝者のような者ばかりが集まる。
はっきり言って理解に苦しむ。あんなふざけた男に。一生理解できないだろうし、する気もないし、したくもない。
「私は骸様の器だもの・・・・・・」
女子の言葉に悲壮感はない。何の含みもない、真実だけを伝える台詞だった。
「ふーん・・・・・・別に君が何者だろうと構いはしないけど。
君からは六道の気配を感じる。あの男、捕まってもまだ死んでなかったんだね」
「勝手に殺さないでくださいよ」

がらり、と

女子の空気が変わる。

同じ姿、同じ声で、けれど確実に数秒前の人物とは違う。
知っている。今度は残滓などではない、はっきりとした。
先程の女子の台詞を思い出す。

器。

(―――そういうことか)


「―――六道」
「お久しぶりです雲雀くん。沢田くんはお元気ですか」
「どこかの変態の命を心配して落ち込めるぐらいね」
ぴしゃり、と叩きつけてやった。
大した動揺はなかった。この男に関わることは基本的になんでもありだ。
そして、それに返ってくるのは喜びと悲しさと嘲笑を含んだような苦笑。
数秒沈黙して、小さく口を開く。
「―――霧の守護者に、選ばれました」
「そう」
霧。
説明を聞きはしたので、覚えてはいる。
雲雀のもっている奇妙な形のリングと同じ。あれは雲だったろうか。あの子どもを守る者の象徴。
6人の内の一人。
なんと馬鹿馬鹿しいことか。
雲雀本人はこのリングに必要性など感じない。あの鞭の男をやる気にさせる為に必要だから所持しているだけで、
それがなければ、別に今すぐ捨てた所で問題はないのだ。
マフィアの掟だかなんだか知らないが、あちらが勝手に決めたルールなどどうでもいい。
大体、雲雀はファミリーなどになる気はない。
むしろ全員咬み殺して終わりにしたいし、この男とてマフィア嫌いとその殲滅を公言している。
あんな猿山の猿よりも余程その『ファミリー』とやらを滅ぼす可能性の高い人間ばかりを選ぶとは
むしろ滅ぼして欲しいと言っているのだろうか。もしそうなら楽しそうではあるし、やぶかさではないのだが。

「ですが、あの子がいる」

雲雀の思考を読んだかのように、その言葉が返る。
あの子。
人のいいなりになどならない2人を、唯一縛り付ける、こども。
なんだかんだ言ったところで、彼らは血の争いに捕らわれてしまった子どもを見捨てることができない。
特に漆黒の少年にとっては、その身の内に存在する感情に気づいてしまった瞬間から、
それは確信としていすわっている。
己以外の者に傷つけられることなど、許容できるものではない。
だからこそ。
「・・・・・・さっさと勝ちなよ。僕で終わらせる」
馬鹿馬鹿しい余興に付き合うなど、一度で充分だ。



「そういえば君、いい加減、あの子を手に入れないのですか」
「五月蠅い」
殺伐とした空気をかもし出していたはずが、男はあっさりと場違いな言葉を吐く。
雲雀がその感情を自覚したのが最近だとわかっていて、あえてからかうように楽しげに。
争奪戦前でなければ殺してやりたかった。

「あまりのんびりしていると僕が奪ってしまいますからね」
「できもしないことを言うもんじゃないよ」

その。
あまりにきっぱりとした雲雀の返事に、男は一瞬呆けた。
からかいには苛立ちを見せたのに、それには動揺を示さない雲雀を、訝しむ。
けれど、それは、雲雀にとっては至極当然な事柄。


「君は、他の誰に手をだそうが綱吉にだけは手を出さない」


はっきりとした台詞に、男は息を呑んだ。
「・・・・・・何故ですか」
何故?それこそ愚問だ。





「君が僕達を見る目は、まるで神でも見ているようだよ」





「―――は」
男の口から、乾いた息がもれる。動揺していた。何に。

「僕は神など消えてなくなればいいと思っていますよ」
「そう、なら神じゃなく僕等を信じたいんだろ」


君は残酷であり残忍であり、人間を嫌い、憎み、世界を嫌っていながら――――



僕らを、愛した。



その矛盾した愚かさを嘲笑ってやりたい気持ちを胸の内でうずまかせながら。



けれど何故かそれは言葉にならなかった。





それは神への崇拝にも似た


それはなんて滑稽な話!


心底骸を愚かだと思っているのに、何も言えない雲雀さん。
あれ、こういう話だっけこれ(え



2007.11.4

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