沢田綱吉、一応性別女。
オレには恋人がいる。


ふたり



障子を間に挟んで入ってくる日差しが眩しくて、オレはぼんやりと瞼を開く。
朝日に照らされている天井は木でできていて、それに伴う薄い森の匂い。どこか本能的な安心感をもたらした。
経験のない体験に、ここはどこだっただろうか、とぼんやりしながら、周囲も確かめようと横を見る。
「ひばりさん・・・・・・?」
そこにすやすやと眠る麗しき人の顔をみつけて、思わず名を呟いた。
ぼーっとしつつ何故彼が横で寝ているのかと首を傾げて考えかけ――そしてその瞬間、オレの脳内はコンマ1秒で覚醒した。
がばぁっ、とかぶっていた布団を跳ね除け起き上がる。
そうだ今オレは――
最後まで思考がゆく前に、さらり、と漆黒の髪が流れて、オレの声に反応してしまったのか、
それとも起き上がった気配に気づいたのか、その人も同じくその双眸を持ち上げた。
むくり、と上半身を腹筋の力だけで持ち上げ、覚醒したその瞳がじっとその光景を見ていたオレにそそがれる。
思わず正座をして姿勢を正す。緊張で身体が強張った。
「ひ、ひひひヒバリさんっ!」
「・・・・・・何」
寝起きで心なしかぼんやりとした声色に、うわあ、うわあ・・・・・・!!と内心心臓がものすごい音をたてる。
「おはようございますっ!」
「うん、おはよう」
混乱する思考の中、やっとの思いでそれだけをしぼりだせば、それにきちんと挨拶を返してくれて、慣れないやりとりに心臓が早鐘を打つ。

(現実なんだ・・・・・・)

ふあ、と見慣れたあくびをするその人は、何がどう転んで奇跡がおきまくったのか、大変麗しいオレの恋人である。
気高くてまっすぐで誇り高くて。信念を曲げない凛とした強さをもっているこの人に憧れて、それがいつのまにか恋になっていた。
月とすっぽん、分不相応、無謀、この想いが実ることを想像することすらできない。
この人は群れるのも弱い草食動物も学校を害する者も風紀を汚す者も大嫌いだ。
それに対してオレはいつも獄寺君や山本と群れてるし、ダメツナと呼ばれるほど弱いし、
マフィアやら死ぬ気弾云々で学校を破壊したりする。遅刻の常習犯だったり。
それでも京子ちゃんみたいに可愛かったら可能性もあったんだろうけど、残念なことにオレの容姿は
お世辞でも『可愛い』とは言い難い。ていうかそれ以外にしても人に誇れるようなことが何一つとしてない。
おまけにこの人を怒らせて咬み殺された事だって多数。
好かれるどころか嫌われるようなことしかしていない。

いっそ笑えるぐらい望みがなかった。

大体なんだってこんな危険すぎる相手に、オレってなんてチャレンジャーなんだとか
諦めろよ振られるってわかってるんだから、同じ振られるにしたってもうちょと優しい人を好きになった方がいいとか
でもやっぱり好きだとか。
うじうじと悩んでいたら、その鬱陶しさがついに我慢できなくなった家庭教師に「いい加減にしろ」と死ぬ弾を
撃たれて、次に気づいた時には雲雀恭弥、その人に告白した後だった。
ああせめてこっそり見ているぐらい許されていたかったのに、と徹底的な拒絶を覚悟した瞬間――

何を思ったか、それは承諾されてしまったのだ。

わかった、じゃあ付き合おうか。なんて軽く返されて、あれやこれやのままにお付き合いが始まった、らしい。
らしいというのはあまりに現実味がないからで、オレはかなり頻繁にこれは夢なのではないかと疑う。
しかし今まで一度も覚めたことはないので、どうやらこれは本当に現実らしかった。そんなばかな。
いや、覚めて欲しくはないんだけど。
オレの告白を受けてくれるなんて、どうやらヒバリさんは独特の感性をもっているらしい。
それか告白されたら断わらない性質だとか。そっちの方が可能性はあるけれど、それはそれで嫌だからできれば前者希望。
しかも意外や意外。かなり頻繁に咬み殺されるバイオレンスな関係になるのかできれば嫌だなぁとか思っていたら、
そんなことはなかった。
いや群れてたら咬み殺されるし、風紀を乱しても咬み殺されるんだけど、それ以外の所ではヒバリさんは結構許容範囲が広かった。
とろいオレがのろのろしてても待っててくれるし、お馬鹿な発言をしてもかなり冷たい目で見られはするものの、咬み殺されはしない。
きちんとした基準はわからないけど、とりあえず『群れ』と『風紀』の二大要素さえ守っていれば問題ないらしい。
これは嬉しい発見だった。
誰かと一緒じゃなければヒバリさんに会いに応接室に行っても許されるし、言いかけては止まりまくった
まるまる1時間かけた一緒に帰る誘いも受けてくれたし、なんとなんと、勉強だって教えてくれた。
(これがまた上手かった。何をしても上手くいく人間というのは存在しているらしい)
ものすごく機嫌がよければ笑顔だって見せてくれる。
なんかもうかなり幸せだ。一生分の運を使い切っている気がする。

そしてそうして付き合い始めて約半年。
昨日からオレはヒバリさん家に初めてのお泊りだった。
いや、まあ、なんというかそういうわけで。
つまりは一線を越えちゃったりしちゃったわけで。
(うわぁ・・・・・・)
今思い出しても恥ずかしい。はずかしいはずかしいはずかしいはずかしい。
起きたら目の前にヒバリさんがいて、上半身は何も着けてなくて、おかげで昨日のこと思い出しちゃったりなんかして!
あーオレ達って本当に付き合ってたんだーなんて思ってみたり。
(ヒバリさんて体格いいよなー)
細いけどしっかりと筋肉はあるというか。馬鹿力なのに昨日はとても優しくて。って違うだろオレ。
だってかっこよすぎるっていうか色っぽいというかぶっちゃけえろいというか。
・・・・・・恥ずかしくて顔を上げられなかった。
「?何してるの」
俯いたオレを怪訝に思ったのか、ヒバリさんはさ迷わせていた視線をオレに留める。
「い、いえ・・・・・・」
「・・・・・・身体辛い?」
「ええっ?!い、いえ平気です・・・・・・ちょっとだるいぐらいで」
「そう」
そういう雲雀さんは今までで一番穏やかだった。初めてだったオレの体調もきちんと忘れずにいてくれて、
なんだかむずがゆい思いをしているうちに、軽く肩を押されて再び布団に引き倒される。
「今日は寝ててもいいよ。甘やかしてあげる」
オレの髪をすきながら、機嫌がよさそうに柔らかく微笑んでくれて、その表情にきゅう、と胸がしめつけられる。
じわじわと気恥ずかしいような暖かいような嬉しさのような感情が湧き上がって、自然と頬の筋肉がゆるむ。

しあわせだな、とおもった。







「失礼しますーーーっ!!」
そう叫んで少女はものすごい勢いで走り去った。というか逃げた。
一体何度目だ。
ここ最近、1週間ほどだろうか。その少女はとにかく僕を避けるようになった。
会えばしばらく百面相をして目を会わそうとしてはそらし、じき我慢できなくなったように先程のように逃げ出す。
明らかな挙動不審である。それでもいまだ制裁を加えていないのは、あの少女が僕にとって特別な位置にいる人物だからだ。

僕のいわゆる恋人、と呼ばれるらしい存在の少女の名は、沢田綱吉という。
男の様な名前で、それと対応するかのように口調も男。私服もわりと男物が多い。
けれど並中女子の制服姿は、正真正銘、間違いなく女であることを表していて、本人もそれを認めていた。
よく群れる強いのか弱いのかわからない不思議な草食動物だと思っていたら、何がどうなってそういう経緯になったのか、
僕はその子にいわゆる好意を表された。

正直なところ、想いを告げられた当初、僕は正直この子が好きだったのか、よくわからない。
この子と付き合うようになれば赤ん坊と接触する機会が増えるかな、と打算的な事を思ったことも確かだった。
この子自身と戦える機会も。
けれど例えこの子以外が同じ事をしてきても受け入れたとは思えない。
その瞬間に湧き上がった感情は確かに悪い物ではなくて、こちらを見据えるその強い瞳も嫌いではなく。
前々から興味があったのだ。
群れていることだけでなく、野球や駄犬がこの子に触れるのが気に食わないと思ったこともある。
そう考えると、程度はどうであれ、やはりこの子が特別であったのは間違いない。
付き合い始めてからはいっそ笑えるほどだった。
寄ってくることが不快ではなくて、柄にもなく勉強を教えてやったりなんかして、自分自身で自覚できるほど、この子に甘くなった。
頻繁に挙動不審になるこの子は見ていて飽きない。それが楽しくて、からかってみたりして。
馬鹿みたいに時間をかけないと一緒に帰ろうとさえ言えない子を、可愛いと思ってしまった瞬間にはすでに末期だった。
手に入れて半年。
僕は待った。
今までの人生で一番といっていいほどに気を長くしたつもりだ。
初めキスするまでも大層奥手な少女相手では相当苦労したのだ。

会うたびにあげる悲鳴をやめさせるのに1ヶ月。
初めて一緒に帰ろうと誘われるまでに1ヶ月。

段々と少女の傍の居心地がよくなってきて、相手もへらりとした笑みを見せることが多くなり、
着実に己の中で強くなっていくその存在に、いつの間にか触れたいと思うようになった。
いや、元々そういう衝動は少なからずあったのだろう。
時折無防備に見つめてくる少女に、戸惑ったことも一度や二度ではない。
ただそれが表面に現れるほどの感情にまでなったのが、その頃だったのだ。
咬み殺したい、という衝動にとても近いそれを、どういった種類の感情なのか実は理解できていない。
理由もないのに早くしなければ、と追い立てられるような焦燥感。
なるほどこれが焦がれるというものなのか、といっそ感心してしまった。
(触れたい)
その瞬間、それだけが鮮明に焼き付けられるようで。
衝動のままに少女の唇に触れるだけのキスをして、さてどんな反応が返ってくるかと期待してみれば。

無反応。

少女はぴくりとも動かなくなった。顔色もまったく変わらず、ただその瞳だけがどこか虚ろで、
意識ここにあらず、といった風体。
いくら呼びかけても反応を示さない。
まさか、いくら奥手なこの子でも、キスだけでまるまる1時間茫然自失になるとは大きな誤算だった。
いくら放置しておいても旅から帰ってこなかったので、最終的に暴力という名の実力行使により
我を取り戻させたぐらいだ。照れるならおもしろみもあるものを、放心されてはどうしようもない。

キスして後の反応を照れる程度に移行させるまで更に1ヶ月。
触れるだけのそれから上の段階のものへと進ませるので1ヶ月。

馬鹿じゃないのか。と何度思ったか知れない。
はっきりと自覚してからというもの、日に日に強くなっていく今にも伸びそうになる手を押さえつけて。
今にも限界がきて苛立ちのままに少女を咬み殺してしまいそうなぎりぎりの所でようやく、
望む地点まで辿り着くことができた。
初々しい少女が可愛くて、それを知っていることが己だけであることに歓喜した。
少女の方も少々の照れは残るもののはにかんだように笑んでいて、嫌悪を見せなかったことに満足感を覚えていた。
愛しい、と、初めて思った。

(それはいいけど・・・・・・)

そうしてようやく少女を手に入れることができて、自覚できるほど機嫌がよかったというのに。
少女とてその翌日は嫌悪も何も見せず、むしろ幸せそうに笑っていたはずだというのに。


100歩ほど進んで300歩ほど下がってしまった気がするのは、何故だろうか。







(ど、どうしよう・・・・・・)
オレは今、猛烈に悩んでいる。あの幸せいっぱいな日から数日。
オレはとにかくヒバリさんから逃げまくっていた。

なんでこんなことになってしまっているんだろう。

オレはこうなってしまった経緯を思い出した。


前日からヒバリさんと二人きりで、夢見心地だったあの日。
ふわふわとした気分で住み慣れた家にたどりついた瞬間、オレを待っていたのは現実の嵐だった。
母さんがお帰りなさい、と言い、がきんちょ達がばたばたと走り回り、居間からはテレビの音が聞こえ。
直前までの余韻をぶち壊す現実そのものを表す日常。
そのせいで戻った意識はやがて照準を合わせ始め。

―――夢の様だった今回の事を、現実であったことなのだと、認識、してしまった。

朝の戸惑うような恥かしさなんてめではない。
とりあえずのたうちまわって叫びまくって半年前キレた時と同じような某家庭教師の素敵な笑顔に沈められた。ひどい。

学校が始まってしまったらもうとてもじゃないが平常心じゃいられなかった。
あの朝の日、なんでオレあんなに普通だったんだろう、って不思議なくらい、ヒバリさんに対してどうすればいいのかわからい。
というか恥かしい。とにかく恥かしい。
それでも恋人なんだし一緒にいたくて何度も会いにはいくんだけど、
相変わらずのあの人の前に立つと、付き合い始めた当初のように緊張してしまう。
なんだか今まで以上にかっこよく見えたりなんかしちゃってどきどきして
おまけにあの日のことも思い出してやっぱり恥かしさを我慢できずに逃げ去る。
はっきり言って挙動不審だ。

(どうしよう・・・・・・)

いい加減寂しいし会いたい。でも逃げたい。

結局踏ん切りがつかなくて、次の日も、その次の日もオレは逃げた。
最初の1週間ほどは単に怪訝そうにしていたヒバリさんも、それをすぎると段々と苛立った様子を見せ始め。
それにおびえながら、しかしもはやオレは、こうなってしまう前、どんな風に接してきたのか、思い出せない。
どうしたらまた以前のように付き合えるようになるんだろう、と気が遠くなり始めていた矢先、

それはおこった。

今日も今日とてオレはヒバリさんに会いに行く。会いに行っては逃げる。
すでに日課となってしまったそれを、馬鹿だとはわかっていてもやめられない。

いつものように逃げようとするオレを、いつものようにしてくれなかったのは、すでにはっきりと苛立ちを露にしたその人。

逃げ去ろうとしたオレの腕を掴み、身体全体で行なった抵抗をもろともせず、そのままずるずると引きずっていく。
ガタン、と荒々しく開けられた扉の音と同時にようやく開放されたそこは、こうなる以前は最もヒバリさんとの交流が多かった場所。
(応接室・・・・・・)
「いい加減にしなよ」
鋭い眼光とともに、恫喝のような声。
「なんのことかぐらいは、わかっているだろうね」
明らかに怒りをはらんだ。当たり前だ。
わかっている。
さすがのオレも、それがわからないほど終わってはいない。
こくり、と頷く。
「僕を嫌いになりでもした?」
オレが頷くのを確認して、一泊おかれてから、ぴしゃり、と切りつけられるように発せられた言葉には、
はっきりとした冷たさを感じる。
久しく向けられることのなかったそれに、心臓が大きく波打った。

嫌い?

まさかそんなことあるわけがない。
だって嫌いなら、こんなに気にしたりはしなかった。
考慮せずに拘束されてできた腕の痣が、熱をもっている。
あんなにも優しく触れるようになったこの人が、こんなにも。
「違うっ・・・・・・!!」
さぁっと、血の気が引いていくのが自分でもわかった。
心臓が鼓動を速め。
手足の先がかじかむ。
不安と焦りで、ぎりぎりと心臓がしめつけられるように痛んだ。

不快にさせた、怒らせてしまった、もしかしたら、傷つけてしまったかもしれない。

このまま、嫌われてしまうのではないか

怖くて怖くて、抑制できない感情が行き場をなくして、瞳を液体で覆う。
「ちがいます・・・・・・ひばりさんっ・・・・・・好きです、オレはヒバリさんを本当にっ・・・・・・」
嗚咽をもらしながらそれだけはわかって欲しくて、どうにかしてこの気持ちを伝えたくて、
縋るように言い募れば、ヒバリさんは少し表情をゆるめてくれた。
それだけでくずれおちそうなほど安堵したオレに、
同じく少しだけ剣呑さの薄れた声で、先をうながす。
「僕に会いたくない理由は何?」
「ぐ・・・・・・いやその・・・・・・」
当たり前だけど問い詰められたそれに、言葉につまる。
「言葉ははっきりと言いなよ」
厳しいけれど、この人にはその権利があった。
オレはきちんとこの人に応えなければいけない。

「だってこんなに恥かしいのにどんな顔して会えばいいんですかっ!」

「・・・・・・君、何かしたの?」
言葉にしてみればひどくばかばかしいそれに、ヒバリさんはまだ理解することができなかった。
「ち、違います!あ、う、いやしたと言えばしたんですけどむしろヒバリさんがオレにしてきたっていうか・・・・・・!」
どうやらそれでようやく思い至ったらしく、ヒバリさんは軽く目を瞠った。
「恥かしい、って・・・・・・君、その翌日はわりと普通だったじゃない」
なんで今更。と言うこの人には、乙女心などまったくわかっていない。
いや、わかってたらそれはそれで怖いんだけど。
あの瞬間は普通でも後から恥かしくなることだってあるんだあんなところをみられちゃった訳だし。
ああ本当今更だけどオレ呆れられるようなこととかしてなかっただろうか。
大体オレ幼児体系で凹凸ないし特別可愛いわけでもないし初めてだから上手いなんてありえないしヒバリさんとは違って。
そう、そういえばヒバリさんは上手かった。
「そ、そりゃヒバリさんは慣れてるかもしれませんけどっ」
「・・・・・・何を?」
「だ、だからそのっ・・・・・・ああいうことをですっ!」
とてもじゃないが直接的な言葉なんて出せない。
よくよく思い出すと終始余裕だったこの人はもしかすると経験があって。
その方が普通だろうってわかってるけど。
オレなんかとは違って大人だしもてるだろうし・・・・・・考えれば考えるほど落ち込む。
恥かしさ云々だけでなく余計なことにまで気づいてしまった。
せっかく今まで思い浮かべもしなかったお馬鹿な頭なんだから、いっそ最後まで気づかないほどひどければよかったものを。
渇くことを知らない液体が、溢れ出して頬を濡らしていく。ぬぐってもぬぐっても途切れることがない。


「まさか。だって初めてなのに」


けれど。
けれどヒバリさんの言葉は、そんなオレの思考をあっさり停止させた。


「・・・・・・はい?」
「僕は結婚する気もないのに手をだしたりしないよ」
「へ?」


いま、なんとおっしゃいました?


もう止まらないかもしれないと思っていた涙が衝撃で止まる。
ちょっと耳を叩いてみた。正常に聞こえてる、よな?
今、この上なく非常にはてしなく清清しいほどありえない台詞を聞いた気がする。
疲れてるのかな。
「ああいう事は結婚する相手とするものだろ」
「えええっ?!」
聞き間違いではなかった。疲れてもいなかった。ヒバリさんは重ねて恐ろしい台詞をはく。


(け、けっこんっ?!)


ちょっと待ってちょっと待ってちょっと待て!!
「君も承諾したんだから応じたってことだろう?」
ヒバリさんはいたって真顔だった。至極当たり前の常識を説いているようにのたまう。え。

けっこん。結婚?

(オレとヒバリさんが?)
付き合ってるわけだし、そういった可能性が零とは言わないが、まったく想像したことがなかった。
そもそもお付き合い、という時点で希望なんてまったくなかったのだから、そんな壮大な夢を見たことがないのも当たり前だ。
ていうか一線超えちゃったら結婚って。

(もしかしてヒバリさんって、ものすごく古風なお方?!)

もはや唖然とするしかない。
一般常識はどこふく風で、乙女心、むしろ人の心も大抵わからない、自己中心、唯我独尊、傍若無人を絵にかいたような人なのに、
社会ではなく己が規律だと言ってはばからない人なのに!
なんでこういうところだけ?!
意味がわからない。半年付き合ってちょっとはこの人の思考になれてきていた気がしていたけど、そんなの気のせいだった。

やっぱりこの人は謎だ。


なんだか遠くなってしまった思考の片隅で、あれ?とオレはあることに気づく。

まてよこれってもしかしてもしかしなくとも。

(チャンス・・・・・・?)

目一杯甘やかされたあの一日を思い出す。
恥ずかしかったけど、別に嫌って訳じゃなくて、ていうかすっごい優しくされたあの日はむしろ―――・・・・・・
「うわあぁあストップ!オレストップ!」
いきなり叫んだオレをヒバリさんがなんだか珍しい生き物のように見るが、駄目だ。どうしようもない。

だってオレはこの人が大好きだ。

この人が本気でそう考えているとしたら、本気で、オレとの未来を考えてくれていたとしたら。

(うれしい・・・・・・!)

本当は、恋人だと思っている一方で本当は。あまり自信がなかった。
束縛が大嫌いなこの人は、いつかオレをあっさり置いていくんじゃないかって。
そもそもが気まぐれだとしか思えない奇跡だったのだから、いつヒバリさんがオレに呆れて
気まぐれを終わらせるかと気が気じゃなかった。
ヒバリさんの気を引けるなら、嫌いな争いごとだって求められたらしただろうし、
どうにかしてあの恐ろしい家庭教師も利用しようとしたかもしれない。

なんと浅ましいことか。

初めてそういうことをして、その次の日にはすっごく甘やかされて、少しだけ。
ほんの少しだけ、自信がもてた矢先。
自らの行動のせいで怒らせてしまった。このまま終わってしまうかもしれないという絶望を、
この人はあっさりと、今までの不安と一緒に打ち砕いてくれた。
あの日から、オレがほんの少しだけ自信を持てたあの日から、この人はそのずっと先まで約束してくれる気だったのだ。
なんて馬鹿馬鹿しい不安だったんだろう。
瞼が熱い。
たまらなくなって伏せたその隙間から流れ出ていくものが、先程とはまったく違った意味をもっていた。
「ヒバリさん〜〜〜〜っ!!」
ぎゅうっとその身体に抱きついた。
「・・・・・・君って本当によくわからない子だね」
もはや呆れながらもヒバリさんはオレを抱き返してくれて、それがまた嬉しくて、泣けてきた。
ため息をついてから、そのままヒバリさんはさり気なくオレを抱きかかえ、ソファまで移動させると、ゆっくりと横たえる。
とさり、と背中が柔らかいクッションの感触を伝える。

(ん?)

そこでオレはようやく違和感を感じた。
「え?」
「初めてに半年、おまけにその後も逃げ回って2週間か。意外だけど、僕は理性が強かったらしい」
ふうん、と不思議そうに呟く声は、オレの真上から降ってくる。

(え、ええっ?!)
ま、まさかこの展開って。

「僕は充分まってあげたんだから、もう我慢しなくてもいいよね」
ヒバリさんはオレの額に軽くキスをしながら、視界がいっぱいになるほどの至近距離で囁く。
その声はいつもより低くて、かっこよくて、なんというか、色っぽい。思わず心臓がどくり、と跳ねた。

やばい。色々やばい。

「我慢大歓迎です!してください!ぜひしてください!オレ恥ずかしいんですってば!」
「僕は恥ずかしくないし」
「聞く気ゼロ?!」
「失礼だね。ちゃんと聞いてるよ」



効いてないだけで。



「もし何かあっても、きちんと責任持ってもらってあげるから心配ないよ」
「それがめちゃくちゃ心配だーーー!!!!」


そう叫びながら、心の片隅で、それで永遠にこの人を手に入れられるのならいいかもしれないと思ったことは。

たぶん、一生言うことはないだろう。





リクエスト第3弾。
いや、その、うん。あはははは(大汗)
書きながらあまりの恥ずかしさに身悶え。どこの小学生だよ(爆)
綱吉はしちゃったのが恥かしくて仕方ないけど、その直後は普通だったからそれに思い至らない雲雀さん。
雲雀さんは絶対に古風なお方だと信じてます。(え)
綱吉が16歳になったらさっさと貰いにいくんじゃないかな。
え、雲雀さんの年齢?そんなのきっとどうとでもしますよだって雲雀さんだもの!(お前は雲雀さんを一体なんだと
いきづまりまくってしり切れトンボ。・・・・・・ていうかこれ次の日じゃな(自主規制)
すいませんすいません!(汗)
光流様に捧げます&返品受け付けます。



2007.10.12

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