蒸発したはずの男が帰ってくるらしい。
「母さん、ちょっと待って。今なんて言った?」
「だから、お父さんが帰ってくるんですって!今日ハガキが届いたの!」
興奮に頬を紅潮させて、ふわっと嬉しそうに笑う母は初々しい。
付き合い始めた彼氏と初めてのデートに行きますって感じに――いや意味不明だからそれ。
母が若いとか乙女だとかはどうでもいいことだよだってさそれより大事なことあるよ絶対あるよ
っていうか
「父さんって蒸発したんでしょ?!」
綱吉の父親は綱吉の小さい頃から神出鬼没。どこからともなくやってきてはいつの間にやら去っていく。
幼い頃なんて年に数回見れば多いほうで、たまに会うと顔を忘れていた事もあれば、本当の
父親ではないんじゃないかと疑った事もある。
なにせ母親の遺伝子をきっかり受け継いでいる綱吉は、かけらもその男に似ていない。
父親の顔を思い出した綱吉はげんなりした。正直思春期の娘にとって好ましくないことは確実である。
とにかくここ2年はそんな機会さえもなかったら、ついに蒸発したものとばかり思っていた。
14年。これだけ交流が少なければ自分に父親はいないんだと思うには十分な期間である。
「やーねーツナったら!だったらツナの学費や食費は誰が稼いでるの?」
「ええっ?!恭弥さんじゃなかったの?!」
「……」
「……」
そうくるか。
「まあ!ふふ、それはすっごく素敵だけど、ちょっと気が早いわツッくん。
母さん子どもに養ってもらうなんてもうちょっと先よ〜せめて孫を見てからぐらいじゃないと!」
ええー。
爆弾発言されたはずの母親は驚きで取り残される周囲をしり目に、一人だけにこにことんでもないことを言っている。
ちょっとまて今のわが子の台詞は他につっこみどろが満載ではなかったかと誰もつっこむことはできなかった。
ちなみに言った本人は自分の発言がおかしいだなんて欠片も考えていない。
あの雲雀だ。母――奈々が苦労するなら沢田一家(この場合もちろん父親は含まれない)を
養うぐらいあっさりやってのけるだろう。一時期は毎日のように食事をとりにきていたし、
一週間ぐらい連続で滞在していたこともある。生活費みたいなつもりもあるのかな、と思っていた。
(それにしても子どもって……母さんってば恭弥さんさえ息子扱いなのか……)
そういえばちびっ子達も『うちの子』と大衆の前で宣言してみせる人物である。我が母ながら偉大だ。
(孫かぁ……孫……恭弥さんに子どもってできるのかなてか結婚なんてすんのあの人。
もしするとしたら相手はやっぱり着物の似合う和風美人とか――わーーーっ!なしっ!
今のなしっ!!恭弥さんのお嫁さんにはオレがなんの!!恭弥さんそっくりの子どももオレが産むの!!)
母と娘の間には大きなくい違いがあり、会話は成り立っているようで実は本質的には成り立っていないのだが、
しかもより真実に近い、正しい認識はどちらかといえば母親の方なのだが、最終的にいきつくところと
結論が同じでやっぱり会話が成り立ってしまうあたり不思議である。
とりあえず沢田綱吉が雲雀恭弥と結婚して子ども――母親にとっては孫――を産むのは共通事項らしかった。
娘の方でだけ雲雀そっくりの、と限定しているのはご愛嬌、恋する乙女の夢なんてそんなものである。
大体、話題の人物である雲雀本人でさえ、既成事実云々を大真面目に考えているわけだから、
どっちもどっちなバカップルである。付き合っていないが。
そんな結婚不純な理由からできる子どもは、だがある意味何より望まれて産まれてくると言えるのかもしれない。
付き合ってはいないが。
「ともかく!お父さん帰ってくるの。楽しみよねー」
母が嬉しそうにしているのは嬉しい。嬉しいが。
それに頷くことはできなかった。
リクエスト第9弾。
……言い訳のしようもないですすいません。
遅すぎでもうほんとすいません。(土下座)
返品もちろん受け付けます。
とりあえず序章です。そして続きます。
2008.12.25