獄寺準人という人間にとって、主、沢田綱吉は、神にも等しい存在である。
彼は自分の乏しい語彙などでは到底あらわせない程、強く、優しく、聡明で、かっこよく、そしてしぶい。
それはもう、素晴らしいお方である。
と、主に対して思っていたし、実際口にも頻繁に出す。(特にしぶい云々は微妙な顔をされることも多いが)
そんな主に仕えられる事が誇りだったし、その為ならいくらでも命をかける。

盲信というか妄信というか、それがどれだけ主にとって益をもたらしているかはともかくとして、
とにかく彼は沢田綱吉ただ1人に忠誠を捧げているのである。




僕らはそれでも生きていく




数ヶ月ほど前の話だ。
獄寺は少々席を外している間に教室から消えていた主を捜し求め、校内をくまなく回っていた。
なかなか見つからない主に、焦りと苛立ちを感じながら、
よく不良の溜まり場となっている校舎裏にきたところで、獄寺のできの良い聴覚が主の声を拾う。

ただ、それは主1人のものではなかった。

誰かが主と言葉を交わしている。
男の声だ。一瞬、いつもの様に山本かと思ったが、聞きなれたそれとは異なっていた。
しかし主の交友関係はそう広くない。他にこうして会話するような相手はあまり思いつかなかった。
たまたま喋っている知らない相手かと考えたが、そう決め付けるにしては、何故かこの声には聞き覚えがある。
とにかく、自分が思いつきもしない相手のくせに10代目に話しかけるとはなんというふてぇ野郎だ。
声の発信源である建物の角をまがった先。
獄寺は聞き覚えがあるような気がした声の持ち主を知った。
黒い髪、黒い目、きっちりと制服を着込み、腕には忌々しい赤地に金の腕章。
とにかくいけすかない、大嫌いな風紀委員長を勤める男。

ヒバリが、柔らかく笑っていた。

いつものような、獲物を見つけた際の獰猛な笑みではなく。
上機嫌に、優しささえを感じさせる、柔らかい。
ぞっ、と何か恐ろしく冷たいものが、獄寺背筋をはしった。

(き、気持ちワリィ・・・・・・!!)

なんと恐ろしく気持ち悪い。というか気味が悪い。
ヒバリが笑っている。
胡散臭い笑みだった。少なくとも獄寺はそう思った。
「10代目!」
この恐ろしい、視覚への暴力から10代目をお守りしなければ!
決意を新たに割ってはいると、ヒバリがぴくり、と反応を示す。

「・・・・・・」
今までの笑みが嘘のように、その瞬間にヒバリの表情はいつもの仏頂面へと戻っていた。
それに獄寺は内心胸を撫で下ろす。
あんな恐ろしいもの、1分1秒だって長く見ていたくない。

「・・・・・・気分がそがれた。帰る」

そのまま戦闘に持ち込まれるかとダイナマイトを構えていた獄寺の予想に反して、
ヒバリはそう言うとあっさり去っていた。
しばらく呆けていたが、数秒ほどたつと我を取り戻す。


「なんだってンだ?」
常にない行動に首を傾げつつも、まあ10代目を危険な目にはあわせられないのでよしとする。
「しっかし雲雀があんな顔するなんて明日は槍でも降るんスかね10代目」
同意をもらえることを疑わない台詞。
しかしその返事はいつまでたっても返ってこなかった。
「……?」
無視などするはずのない相手だけに訝しく思い、顔を向けると、そこにいたのは

顔を真っ赤にして放心している主

「じゅ、じゅうだいめ……?」
「え、あ!ご、ごめん獄寺君何?!」
顔の前で手を振ると、やっと獄寺の存在に気づき、慌てて返事をするものの、
依然として顔は赤いままであり、やはりどこか上の空だった。
何故だろう。



やな予感がした。








それからというもの、主の様子はおかしい。というか、終始そわそわしている。
休み時間になると窓の近くに常にいるようになったし、移動教室では廊下を歩きながら、
きょろきょろと何かを探しているそぶりを見せる。
そして大抵、授業の始まる鐘と共に、はあ、とちょっと残念そうな顔をするのだ。
もちろん主の悩み事は全て取り除いて差し上げたいと四六時中思っている男なので、
その憂い顔は激しく獄寺のやる気に火をつけた。
という訳で、一度獄寺は「何かお探しでしたらオレが見つけてきますが」と申し出たのだが、
当の主はきょとん、とした顔で「え、唐突に何?」と言っただけだった。
自分の行動に自覚はないらしい。
「何かを探されているようでしたので」
「ええ?オレが?」
探す?とぶつぶつ呟きながら、しばし考え込み―――はっ、と顔を強張らせて、次の瞬間には
かぁああああ、と頬を紅潮させた。
「な、な、なんでもないから!なんとなくだから!気にしないで!!」
「はぁ、10代目がそうおっしゃるなら・・・・・・」
慌てふためく主に首を傾げつつも、忠実なる部下である男は追及を終えた。
後でそれを後悔するとも知らずに。









それから数ヶ月ほどたっただろうか。
その日の放課後、珍しいことに獄寺は「大事な話があるから」と主に呼び止められた。
部活へと向かう山本が心得たように、頑張れよ、と告げ去って行く。
内心訝しみつつ、素直に主の言葉に従う。主の命令、お願い、とにかく表現などどうでもいいが、
主が願うことならなんだって叶える。
しかし綱吉は、「話がある」と言ったわりに、中々それを切り出そうとはしなかった。
人目を気にしているのか、ちらちらと教室内の人間を確認し、最終的に2人きりになるまで待つと、
念入りに誰もいなくなったことを確認し、ついでに廊下にも人が通っていないことまで確認して、
ようやく獄寺へと向き直る。

「あ、あのさ獄寺君・・・・・・オレ、獄寺君に言わなくちゃいけないことがあって・・・・・・」
「はい、なんなりと!」

主から賜る言葉はなんでも嬉しい男は、爽やかな笑顔で受け入れる体勢にはいる。
しかし言いたいことがあると言った張本人は、その獄寺の態度に、
気まずそうに俯き加減で視線を泳がせた。心なしか、窓から差し込む夕日以外にも、頬が高潮している。
(可愛らしいすぎます10代目・・・・・・!!)
俯き加減、そしてもじもじとした仕草の可愛らしさに、主馬鹿な男は、身悶えそうになるのを辛うじて堪える。

「オ、オレさ・・・・・・」
「はい」

こ、これはまさか。と獄寺は胸を高鳴らせた。
夕日の差し込む、誰もいない教室。
親愛なる、ぶっちゃけそれ以上の感情も持っている、何よりも優先される最愛の主。
頑張れよ、という山本の言葉。
しかもその様子は恥かしげで、戸惑いと、何らかの決意を感じさせる。
獄寺にとって見に覚えのありすぎる展開だ。
ただいつもならあきあきするだけのそれが、今はとんでもない緊張をはらむ。
意味もなく叫びだしたい衝動にかられる。もちろん理由は歓喜だ。

こ、これはいわゆる―――

「いきなりこんなこと言って、困惑すると思うし、もしかしたら軽蔑されちゃうかもしれないんだけど・・・・・・」
「10代目を軽蔑なんてありえません!」
そこで、ああ、うん、ありがと、と複雑な顔をされる。
この人相変わらずだな、と思われていたのは知らない。知らない方がいい事もあるものだ。
「その、あの・・・・・・オレ」

ごくり、とつばを飲んだ。
どくどくどくどくと、心臓が期待から早鐘を打つ。
もちろんオレもです永遠に貴方だけです大好きです愛して―――・・・・・・




「実はオレ、ヒバリさんのこと好きなんだ!」




脳天に核ミサイルが打ち込まれた。



「・・・・・・はい?」
「うわっぁあああや、やっぱひくよねぇ?!気持ち悪いよなオレだって今までならそう思ってただろうし!」
その姿はすでに半泣きだ。
先程までの戸惑いや恥じらいが抜けて、ただただ向けられる感情に怯えている。

ちょっと待って欲しい。

いま、今、大事な大事な大事な(以下略)主は何と言った?

98%が先程の台詞で壊滅状態にある脳内が、何とか再びそれをリピートさせる。



実はオレ、ヒバリさんのこと好きなんだ!

オレ、ヒバリさんのこと好きなんだ!

ヒバリさんのことすきなんだ



ヒバリが、すき?



「んなーーーーーーーーっっっっ?????!!!」
獄寺は叫んだ。それこそ学校中、いや、並盛中に響くかと思われる大絶叫だった。
さりげなく、いやまったくさりげなくは無いが、失恋である。
けれど獄寺には、失恋の絶望を感じる余裕もなかった。

よりにもよって、雲雀恭弥。

山本ならまだわかる。絶対にわかりたくないし、認めたくないが、基本的に顔もいいし中身もむかつくが5億歩ほど譲ってよいと
言ってもいい。学校の人気者で人望もあるし、運動も得意。むかつくことに主が尊敬の目で見ていたことも知っている。
絶対に認めはしないが、この際まだそれなら理解はできた。

なのに、よりにもよって、雲雀恭弥。

恐怖の風紀委員長であり、群れを嫌い、争いごとが大好きで、口癖は咬み殺す。
その台詞通り、まともな対応などされたことはないし、
許しがたいことであるが、獄寺はあの男に勝利したことも無い。
大事な大事な(以下略)主も、何度もぼこぼこにされている。
事件によっては共同戦線をはったこともあるし、助けられたことも口惜しいながらもあるけれど、それとこれとは別だ。
気に入らないものは気に入らない。忌々しいとしか言えない、相手。
とにかく思考が真っ白になって、口から漏れるのは言葉にならない意味不明な言葉ばかり。
むしろ正常であるなら今すぐ窓から飛び降りていたかもしれない。

「いや、オレもびっくりしたんだよ?!一応勘違いじゃないかすっごい悩んだし!
でもヒバリさんカッコイイし綺麗だし、誇り高いとことか憧れるし、
時々拗ねたりかわい―っていやそれはいいんだけど!」
獄寺の反応の理由を単に『相手が男だから』だと誤解している綱吉は、必死で弁解になっていない弁解をする。
そんなこと、絶好調現在形で主を恋い慕っている獄寺にとって何の問題でもない。
問題はその相手だ。
カッコイイだとか綺麗だとか、こんな所がいいんだとか、男を好きになった理由を理解してもらおうとしているのかもしれないが、
半分惚気だ。ぶっちゃけ聞きたくなかった。
なのに綱吉は延々と似たような事を言って無意識に傷をえぐっていく。

(ダメです10代目、あの男を可愛いだなんてオレには絶対に思えません・・・・・・!!)

泣きたい。

「そ、それでさ・・・・・・いや、実はこれが本当の本題なんだけど・・・・・・」

獄寺にとってありえないことに、昨日までの自分なら信じられないことに、初めて、主から逃げ出したいと切実に思った。
今すぐ扉を開けて廊下へ飛び出したい。


とてつもなく嫌な予感がした。
今まで降り積もった予感の集大成のような。


「さ、最近―――」
「そんな所で何してるんだい君達」
ガラリ、と扉の開く音と同時に遮った声は、低く良く通るテノール。知った声だった。
今まさに衝撃の告白をされていた獄寺にとって、最も聞きたくない、忌々しい。

「ヒバリ・・・・・・!」
「ヒバリさん!!」

雲雀恭弥、張本人。

「僕の前で群れるな。咬み殺すよ」
「うわああすいませんっ!」
「10代目、謝ることなんてありません!テメーがこっちに近づかなきゃいいだけの話だ!果てろ!!」
大事な大事な大事な(以下略)の主の想い人=傷つけたら悲しむ、なんてすっぽりと頭から抜け落ちている。
頭をしめるのは大嫌いな大嫌いな大嫌いな(以下略)この男をしりぞけなければ、ということだけ。
今度こそ果たす、とダイナマイトを構えた。
それに雲雀はぴくり、と眉を反応させる。
「邪魔なのは君だ」
睥睨して吐き捨てると、こちらもまた、当然のようにトンファーを構える。

「ひ、ヒバリさんやめてください!獄寺君も!」
「しかし・・・・・・」
「却下」
必死の懇願は獄寺をわずかに逡巡させ、雲雀にいたっては何の効果もなかった。
「ヒバリさん・・・・・・!」
「綱吉」
びくり、と綱吉の身体が硬直する。
「大体、僕は特にその駄犬とは群れるなって言ったはずだけど」
はっきりと苛立ちを示す声色に、くしゃりと綱吉の表情が苦しそうに歪む。
「て、てめっ、何図々しく10代目を呼び捨てに・・・・・・!」
「僕がこの子をなんと呼ぼうが君に意見されるいわれはない」
「なんだと?!10代目は高貴なお方だ、お前なんぞが軽々しく呼びすてにする権利はねぇ!!」
「あるよ。当然だ」
別になくても関係ないけれど。と、続く。
「あ゛ぁ?!」
雲雀は、何故そんなことを言われるのかわからない、といった表情をして、
しかしそれは、何かに気づいたのか、すぐに得心がいったものに変わる。
「ああ、君、知らないのか」
「・・・・・・?」
視線をちらりと綱吉に向けると、「今まさに言おうとしていた所です・・・・・・」と、よくわからない返答をしていた。

「一言じゃない」
「それが大変なんですよ!普通、友達に、その、男同士の恋愛ごとなんて言い辛いに決まってるじゃないですか!」
「僕は気にしない」
ああそうだろうよ。
獄寺は思わずそう内心つっこむ。この男は殴り倒したくなるほど周囲を気にしない。
苛立ちを感じる獄寺とは別に、綱吉は拗ねた様子で、口を尖らせる。
「・・・・・・人からどう思われているかなんてヒバリさんは気にしませんよね」
「そうでもないよ」
「嘘でしょう?!」
「本当。一応、君にどう思われているかは気にしたし」
まあ他は気にしていないけれども。
その台詞にぼんっ、と顔を林檎のように真っ赤に染める。
「ヒバリさんて・・・・・・」
責めるような口調なのに、その顔はでれでれだ。


何だ。
何なのだこの空気は。
獄寺は思わず後ずさった。
とてつもなく嫌な感じがする。今すぐこの場から逃げ出すか、最善策は今すぐヒバリを果たしたい。
「ふざけんな!テメーが守護者以外に10代目と何の関係があるってんだ!」
そこまで言えた精神力は、正直褒められてしかるべきだと言ってもいい。
しかしそんなこと、もちろん雲雀には関係なかった。



「恋人」


「は?」


「この子は僕の恋人だ」
あまりにも堂々と、さっぱりと。言い切られる。
信じられなくて、信じたくなくて、否定を求めてゆっくりと主に目線を向ければ、
「あ、あはは・・・・・・」
肯定を表した、照れ笑い。

「せ、先週から付き合うことになったり、したんだよね」
駄目もとで告白したら、何故か。

視界が暗転した。








「じゅうだいめええええええええ!!!」
がばり、と獄寺は飛び起きた。はぁ、はぁ、と荒くなってしまった息が、ひとりきりの部屋に響く。
辺りを見回すと、そこは見慣れた己の部屋。
「ゆ、夢か・・・・・・」
胸を撫で下ろす。

なんということだ。
なんという悪夢。
なんという縁起の悪さ。
そしてなにより、なんと10代目に失礼な夢であったことか!!

あの本当に本当に本当に(以下略)本っ当に素晴らしいお方である10代目が、
よりにもよってヒバリを好きで、しかも、こ、恋人同士だなどと!
これは10代目が自分に寄せてくれている厚い――少なくとも獄寺はあると思っている――信頼を、
手酷く裏切る行為(?)ではないか!
いくら最近10代目のご様子がおかしいからといって、これは最悪すぎる。
「申し訳ありません10代目・・・・・・!オレは右腕失格です・・・・・・!」
ベッドの上で相手もいないのに土下座し始める男は、心底後悔した様子でがくり、とうなだれる。
ああだがしかし。

「夢でよかったぜ・・・・・・」


本当に。
獄寺はベッドにへたりこんだ。






その日の朝、主、沢田綱吉は、今朝の落ち込みを引きずっている獄寺とは裏腹に、大層、それはもう非っ常に機嫌がよかった。
獄寺がおはようございます10代目!と、いつもの様に挨拶をすると
「おはよう、獄寺君」
にっこり。そう形容するのが最も適切な満面の笑顔で、応答したのである。
ふわりと花開くような、獄寺にとっては神々しささえ感じる笑顔の、あまりの破壊力に、獄寺はクラリと視界がぶれた。
(やっぱり10代目は素晴らしいお方だ・・・・・・!!)
今朝の悪夢をあっさりとぶち壊してくれた主に、より一層の思い(それはもう色々な)を積もらせる。
ああそれにしても、本当に今日は主の機嫌がいい。
「な、何か良いことでもありましたか、10代目」
「え、あ、あはは・・・・・・」
照れたような笑みに、主の悩殺スマイルにやられているはずの脳内が、何故か嫌なデジャヴュを覚える。
「・・・・・・?」
「よっ、ツナ、獄寺」
そこへ、快活な声が違和感を覚えた獄寺の思考を遮った。
「あ、山本。おはよう」
「げっ、野球バカ・・・・・・!」
せっかく10代目と2人きりだったものを!!
邪魔された怒りで殺気を向けるが、あっさりと流されて、拳を握りこむ。

(こいつもいつかぜってー果たす)

もちろん1番はヒバリだ。あの悪夢の恨みは深い。できるできないは置いておく。
そんな獄寺の呪いもなんのその。山本は朗らかに綱吉に話しかける。
「なんかツナ嬉しそうだなー。いい事あった?」
「え、オ、オレそんなに態度にでてる?」
獄寺君にも言われたし。と、綱吉は自分の顔を確かめるように両手で触れる。
もちろんそんなんでわかるはずもない。
「うーん。なんかさ、全身から『幸せです!』オーラが出てる」
「しっ・・・・・・!」
そこで何故か綱吉は口ごもり赤くなった。
それを見た山本が、何かに思い至ったのか、「ああ!」と納得とばかりに笑顔になる。
「もしかして、やっとあいつと上手くいったのか?」
「っ・・・・・・!!」
「そっか、よかったじゃん、ツナ。いやぁ、長かったよな。わりとどっちも解かりやすかったのに、
結局数ヶ月かかってんだもんな」

「あいつ?」

不思議そうな獄寺の声に、山本がえ?という表情でへと視線を移した。
「まさか、獄寺気づいてなかったのか?」
「何がだよ」
「あ、いや・・・・・・」
朗らかだった口調が口ごもり、困ったように目だけでツナへと助けを求める。
ツナは明らかに、しまった、と顔に書いてあった。
「あー、遅刻しちゃうし、お昼にでもね」

困ったように笑う主の姿は、しかしやはり嬉しそうだった。






「げ」
校門に、本日見たくない顔ベスト1が、堂々と正門前に陣取っていた。
(そーいや、今日から風紀週間だとか言ってやがったな)
ちっ、と舌打ちしようとした所で、
「ヒバリさん!」
綱吉が雲雀の元へ駆け寄った。
その行動に慌てて獄寺が雲雀の魔の手から主を守ろうと同じく駆け出したと同時

「おはようございます!」
「おはよう」

意外にもヒバリは上機嫌にそう返すと、あろうことか。



綱吉の額に口付けた。



されている本人といえば、恥かしそうに顔を真っ赤にしたものの、
へにゃり、と嬉しそうに笑っている。
拒絶も何もあったものではない。
いやいやいやいや。
ちょっとまて?!



あんぐり、と大きく開いた獄寺の口は、現実外の光景に、閉じる様子を見せない。


デジャヴュ。
激しいデジャヴュを感じる。
今朝の夢が走馬灯のように脳内を駆け巡った。
だらだらと大汗が背中を流れていく。

まさか。

まさかまさかまさかまさか・・・・・・!!

そんな獄寺の心境なんていざ知らず、綱吉は雲雀の服の裾を握ると、駆け寄ってきた獄寺へ
向き直り、無邪気な爆弾発言をした。


「あのさ、獄寺君、オレヒバリさんと付き合うことになったんだ!」


昨日から!
笑顔だった。

それはもう、溢れ出す嬉しさを隠しもしない、満面の、ほころんだ、笑顔。

倫理も世間体も何もかもすっとばして、とにかく幸せだとはにかみ、頬を染め。
いきなりの主の同性――しかもその相手がヒバリであるということは頭から追い出そうとしている―同士の恋人宣言に
衝撃を受けた獄寺への配慮は頭からすっかり抜け落ちているらしい。


「綱吉、放課後応接室」
「はい!」

上機嫌な雲雀。戸惑いなく頷く主の姿。その後ろにはハートマークさえ見える気がする。
他人(主に獄寺)の視線もなんのその、ラブラブだ。


何かとても大切なものがガラガラと音を立てて崩れていく。


「あー・・・・・・」
真っ白に灰と化した獄寺の肩を、山本が慰めるようにぽん、叩いた。

2人の姿は、すでに見えなかった。







自称右腕の勘は、なかなか捨てたものではなかった。


ただ


現実は夢よりちょっと厳しかっただけで。





リクエスト第7弾。
山本は全てを知っている(え
獄寺はやられキャラだと信じて疑いません。可哀想です。
おかしいな、最初の予定ではここまでじゃなかったのに(ちょ、おま
・・・・・・そんな彼が大好きです!!(ええー
よくある展開ですが、ぶっちゃけ楽しかったです(酷
ami様に捧げます。煮るのも焼くのも返品だろうが文句だろうが受け付けます。

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