※パラレルです。ツナは女子高生。ボンゴレの存在を昔から知っています。
ザンザスは9代目の実子で、交流有。雲雀さんは年上。すでに財団を立ち上げた後です。



「お前がボンゴレ十代目に選ばれた」
最近できた家庭教師が、いきなりそう言い始めた。
「はぁっ?!」
「これからオレがねっちょりと鍛えてやるから覚悟しろ」
「嫌だよ!!っていうか何で?!ザンザスいるじゃん!」
なんとうちのご先祖様はマフィアの創設者らしい。幼い頃は半信半疑だったが、成長するにつれて
面識を持つようになった赤ん坊やら遠い親戚らしい9代目ボスやらその息子やらのせいで、信じるしかなくなってしまった。
けれど綱吉自身はいたって普通の一般人であり、例え初代ボスの血をひいていようとマフィアになんか関わりたくない。
幸い跡継ぎにはザンザスという9代目の息子がいるのだから何の心配もない、と安心していた矢先――

「あいつは最近暗殺家業に目覚めたらしくてな。そっちを本業にするんだと。
『ボスの座はくれてやる。せいぜい上手くやれよチビガキ』だそうだ」
いらねぇよ!てか何その理由!!
「嫌だ!オレはマフィアになんかなりたくない!」
「お前に拒否権はねえ」
ちゃきり、と眉間に当てられた銃は、冷たかった。




誰よりも強く




「何だよリボーンのやつ!オレはマフィアになんかならないっての!」
とてもじゃないが本人には面と向かって言えない悪態を吐きつつ、逃げ込んできた神社の階段に座る。
(あー家帰りたくないなー・・・・・・)
あの赤ん坊が「午後から出かけるぞ」と言っていたのだから、絶対にろくなことにならない。
できることならこのまま家に帰りたくないと無理だとわかっていることを願っていたら、
ぽふっ、と頭に何かが乗る。わずかな重み。ふわふわとした感触に、へっ?と上を見上げれば
「・・・・・・鳥?」
悪びれた様子なく人の頭の上に乗っていたのは、黄色くて丸い、小鳥。
ふわふわとした羽毛が気持ち良さそうだ。すると小鳥は可愛らしいくちばしを開いて。
「みーどーりたなーびくー、なーみーもーりーのー」
「ぶっ・・・・・・!」
思わず吹き出した。その歌には聞き覚えがあった。つい最近まで、綱吉も通っていた場所の。
「お前それ、並中の校歌じゃん。どこで覚えてきたんだ?」
というか、何気にすごい。まさか校歌を歌える鳥がいるなんて。
なんだか楽しくなって、自然と小鳥に向かって指を差し出そうとすると、
背後からガサリ、という葉のこすれる音。
反応して振り返り、音のした方向をみやった瞬間、


とん、ととても木の上から飛び降りたとは思えない身軽さで着地する人影。


呆気にとられる。この辺りの木はなかなかにどれも高さがあって、どう考えても飛び降りるには向いていない。
よっぽど身体能力に自信があるのかそれとも何も考えていなかっただけか。
体格的には成人のそれで、綱吉より頭2個分は高いだろうその背を持つのは、どうやら青年らしかった。
バランスをとるため俯き加減だった相貌が、ゆっくりとあげられて――




どくり、と心臓が大きく波打った。




(う、わ・・・・・・!)
黒曜石のような漆黒の髪と、同じ色をしたつりあがった瞳。それと対比させているような、白い肌。
ものすごく綺麗な人だ。でも、動揺したのはそれだけじゃなくて。
射られるような鋭い視線、何もかも見透かされてしまうようなまっすぐさ。
何もしていないのに、身がすくむ力を持っていて、反射的に身体が萎縮する。
バランスの取れた長身の体躯は白いワイシャツに黒いスーツで包まれている。
そこに存在しているだけで、身が引き締ってしまうような、凛とした立ち姿。
空気全体がぴりぴりしているようで、怖いのに、目がそらせない。
青年も綱吉の存在に気づいたのか、鋭い瞳をさらに細めると、おや、と軽く目を瞠って、指差す。
「・・・・・・その子」
「うひゃいっ?!」
ぼぉっとしていたら、予想外にも突然話しかけられて、変な声が出た。泣きたくなった。
(うわー声までかっこいいー・・・・・・!)
恥かしいのと感動したのと微妙な感じに顔の筋肉が歪んでいる。
変な目で見られたけれど、何もつっこまれなかった。頭の上の鳥に視線を移して、もう一度呟く。
「その鳥・・・・・・」
「え?あ、ここ、この子ですかっ?」
「そう」
珍しいな、と小さく呟いた声が聞えた。何が珍しいのだろうか。
鳥ともこの人物とも初対面の綱吉にはわかるはずもない。
「・・・・・・あなたの鳥だったんですか?」
「違う。勝手に懐いてついてくるだけだよ」
「はぁ・・・・・・」
まあ本人が言うのならそうなのかもしれない、と納得しておく。
とりあえず飼い主とかそういうのに近い存在であることだけは確からしい。
「あ、すいませんじゃあこの子――・・・・・・」
頭の上の鳥を捕まえようと手を伸ばせば、飛び上がり避けられた。
あ、と手が追いかけたところで、届くわけが無い。
どうしよう、と手を降ろせば、今度はあちらから近づいてきて再び頭の上に止まる。
何度か同じ事を繰り返し、どうやら鳥はわざともわざとらしい事にようやく気づく。
これって鳥にまで遊ばれてるってことだろうか。ちょっと情けなすぎやしまいか。
むきになって追い掛け回すが、相手はおちょくるように、ひらひら綱吉の手がぎりぎり届かないあたりまで逃げては再び頭にぽふっと戻ってくる。
「……」
「……」
「……君ってさ」
「その先は言わないでください!」
情けない所ばかり見られて恥ずかしくてならない。更なる羞恥を誘う台詞を遮る。
初対面の相手に何やってるんだろう。綱吉とて好きでこうしている訳ではないのだ。
けれどこれでは鳥を返しようがなかった。途方にくれて、熱くなった頬のままに飼い主らしき人物に目を向ける。
それに気づいてくれたらしい。

「おいで」

たった、一言。
低くよく通る声が、小さくそう呟くと、今の今まで綱吉の頭から離れようとしなかった小鳥が、ぴくり、と反応する。
バサッ、と飛び立ち、そのまま拍子抜けするほどあっさりと、小鳥は男の肩へととまった。
「……」
「……何?」
「……何でもないです」
ありか。それはありなのか。
なんだか泣けてくる。ちょっと恨みがましい視線を鳥に向けてみてから、頭の上へと手を伸ばす。
ほのかな温もりが残っている気がした。
(この重さがなくなったらそれはそれで寂し―――って違う!)
一瞬しゅんとなってぶんぶんと首を振る綱吉を、興味深そうに観察してた男は、しばらく何かを考え込むそぶりを見せ、視線が真横、
自身の肩でおとなしくしている存在へと向けられる。
何かを決めたのか、その足が再び役割を果たし始めた、
こつこつ、と、乾いた靴音が、だんだんと綱吉へと近づいていく。
その事に攻め寄られている綱吉本人が気づいた頃には、その距離はわずかに一歩半となっていた。
(あ、やっぱり背高い……)
近づかれた事ではっきりした男の身長は、やはり精一杯仰がなければ、その表情を窺い知ることはできないほどで。
まっすぐに向けられる漆黒の瞳に無言で見惚れていると、そこまで完璧なのかと文句をつけたくなるような長い指が小鳥の前に差し出され、
素直にそれに従った小鳥が、ちょこん、ととまる。
それを見た綱吉がちょっと微笑ましくなっていると、その指はそのまま綱吉の頭上へと向けられ――

ほふん

「へっ?」
再びの重みと温もりに、きょとん、とその表情はますます幼くなる。
「え、あ、ちょっ、ええ?!」
(おかしいオレこの人に鳥返していや結局自分で帰ってったんだけどそれがなんでまたオレの頭の上?!)

てかこれどういう意味?!

それをなした相手を窺い見れば、うん、と納得したように頷いている。
その行動の理由がまったく理解できずに、とにかく困惑するしかなかった。
「あ、あの……?」
「何だい?」
「いえ、この子貴方の……」
「別に構わないよ。必要になったら自分で帰って来る」
「え」
人の意見を聞く気はまったくないらしい。
言うなり近くの枝に下げてあった上着を羽織り、用はすんだとばかりにあっさりと踵を返す。
ネクタイもズボンも上着も、シャツ以外その色彩が全て真っ黒で、なんだか喪服のようだと思った。
「じゃあね」
その背は一度も振り返ることがなかった。







その後ぽーっと夢見心地のままうっかり帰宅してしまい、玄関にはニヤリと素敵な笑みを浮かべた家庭教師様が待っていた。しまった。
「きちんと帰ってきたな、偉いぞ」
「あ、あはは・・・・・・」
ああもうオレの馬鹿!と内心は愚かな自身を罵倒する声でいっぱいである。
「アカンボウ」
へっ?
聞きなれない声が聞きなれない呼び名を発し、それが家庭教師の事を指しているのだと理解すると同時に
一体誰だと思ったところではた、と気づく。
(そーいえばこいつ、ついてきてたんだっけ・・・・・・)
頭上にどうやらそのまま乗りっぱなしだったらしい黄色いふわふわの物体。
どうやら先ほどの台詞の発信源はこいつらしい。家庭教師を赤ん坊、と呼ぶなんて豪胆というかなんというか
それが間違ってないあたり大したボキャブラリーというか。
それを見た家庭教師が、元々丸っこい目をさらに丸くする。
「オメー、その鳥・・・・・・」
「え、あ。何か懐かれたっぽい。ついてくるし。飼い主っぽい人もほっとけって言うし」
あれ、むしろあれは渡されたのか?
「会ったのか」
「誰に?」
「その鳥の飼い主に」
何にかは知らないが驚いているらしく、その声にはいつもの嘲るような含みがなかった。
「うん。それが?」
「・・・・・・運がいいな」
珍しく感心してみせる家庭教師に首を傾げる。飼い主の許可をもらえたことを言っているのだろうか?
少なくとも綱吉はこれまでの『ダメツナ』人生、しかもこれからマフィアになれと強制されている時点で、
あまり運がいいとは思えないのだが。
(そういえばあの人の名前も聞いてないや)
どこか神秘的というか、近寄りがたいというか、威圧感というか、とにかく不思議な雰囲気を持つ人だった。
本当に大丈夫なのかなこの鳥。色々。
「―まあいい。ツナ、出かけるぞ」
「ええーーやだよオレ!!」
何かに結論を出したらしい家庭教師に反抗の声をあげる。
「なんか言ったか?」
「・・・・・・イエ、なんでもないです」
ちゃきりといつぞやのように向けられる銃口にあっさりと意見を翻す。所詮綱吉のなけなしの反抗心など
そんなものである。
「ツナ、ツナ」
甲高い声が諦めさえ見せていた綱吉の名を呼び、驚く。どうやら家庭教師が呼ぶ名を聞いていたらしい。
「覚えたのか」
物覚えがいい鳥だ。頭がいいのか。
「皆ツナって呼ぶけど、オレ、本当は沢田綱吉っていうんだ」
「ツナヨシー」
なんとなく教えてみると、きちんと直してくり返してくれた。
・・・・・・かわいいかも。
あの黒い人(としか言いようがない)もこんな風に思って可愛がっていたりするのだろうか。
なんとなく楽しくなってしまった。
(また会えるのかなぁ・・・・・・)
自然とそう思ってしまった自分に、綱吉が気づくことはなかった。










「覚悟はできてんだろうなぁ嬢ちゃん」
いえ、できてません。ええできていませんとも!
見るからに柄の悪いおっさん達に心の中で即答する。平和なはずの日曜の午後、
綱吉はヤクザの事務所のど真ん中に座らされていた。
それもこれも原因はもちろん件の家庭教師様だ。他に誰がいるというのか。
むしろいたら、あまりの厳しさに、自分はすでに死んでいるに違いないと綱吉は思う。
なんだか最近私生活がデンジャラスにも程がある。あまり関係ないが今度英語の小テストがあったら
この単語だけは覚えられる気がする。Dangerous。現実逃避だ。
もしかしてこの状況、自分の命は風前の灯ってやつではないだろうか。
家庭教師の外出先はこの辺りで武道派と有名なヤクザの本拠地だった。事務所の扉のまん前まで
一体何の場所かわかっていなかった綱吉からしてみれば、『扉を開けると地獄でした』とでも言いたい。
わざわざヤクザのうちの1人を殴って『殴りこみにキタゾ』だなんて、確実に寿命が10年は縮められた。
このままばらされて内臓とか売られちゃったらどうしよう。コンクリート詰めとか。
「一体お前こんなとこに何の用があったんだよっ!」
やっさんに青くなり怯えつつ、元凶である家庭教師をせめたてる。
「お前の度胸をつける、って理由もあるが、目的は『この場所』じゃねぇ」
「はぁ?」
要領を得ない家庭教師の返答に頭を悩ませていると、バン、と扉を勢いよく開く騒音。
がたがたと見っとも無いほどに震えた以下にも下っ端です、といった風体の男が、声さえも震わせて叫ぶ。

「た、たいへんですっ・・・・・・!」
「なんだ」
今まで綱吉を脅していた――どうやらそこそこの地位にいたらしい――男が、邪魔するなとばかりに不機嫌に返す。
しかし乱入してきた男はそれどころではないのか、混乱も露に叫んだ。


「ヒバリが、来ます・・・・・・っ!」


ぴしり、と場の空気がはっきりと変わった。
みるみる顔を青ざめさせていく彼らは、もう綱吉のことなど思考の片隅においやられている。
(ひばり・・・・・・?)
何それ。
確か鳥の名前にそんなのがあったはずだが、まさか鳥の雲雀にこんなに動揺するはずがない。
最も容量の小さい綱吉の頭には雲雀がどんな鳥だったなんてまったく入っていないのだが。
「な、なぜあいつがっ!ま、まさか例の件がばれたのか?!」
「すでに仲間の半数はやられています、ここへくるのも時間の問題ですっ・・・・・・!」
「相手は1人だぞ?!化け物め・・・・・・!」
「に、逃げましょう・・・・・・!」
「この並盛でどうやってヒバリから逃げるって?ちっ、国外にコネを作っとくんだった!」
・・・・・・。
はっきり言ってついていけないが、とにかく大変らしいことはわかった。
どんどんスケールが大きくなっている。
「一体何がどーなってんのさリボーン!!」
「言ってたろ、ヒバリがくるんだ」
「だからなんだよヒバリって!!」
「見りゃわかる」
家庭教師の言葉通り、扉のすぐ向こう側から、何かが壁に叩きつけられる音、ぐほっとかぐはっとかいう悲鳴、
べキッ、とかバキッ、とか出所を知りたくない効果音ばかりが耳に届く。
(ヒィイイイイイ……!!)
ヤクザ連中の会話からすると綱吉達と同じく―綱吉的には大いに否定したい―殴り込みにきた少なくとも生物らしい。
しかし場の空気からしてもあの恐ろしい効果音からしてもどう考えた所で(ああついにずりずり、なんて音までしだした!)
綱吉をピンチから救ってくれるヒーローとはとても思えない。
「な、なななななんかくるよリボーン!!!」
「そーだな」
恐怖に身を竦ませる生徒とは裏腹に先生は呑気だ。むしろ楽しそうでさえある。


「やぁ」


淡々と。
騒然とするこの場に似つかわしくない静かな声で。


「僕に無断で随分並盛の風紀を乱してくれたみたいじゃないか」


咬み殺す、とよくわからない言葉を繋げて。



支配者、が、踏み込んでくる。



「む、無断だなんて・・・・・・!!次の集金で報告するはずだったんです!申し訳ありませんでしたヒバリさん!!」
今の今まで綱吉達を脅していた強面の連中が、今度は揃いもそろって完璧な土下座。
綱吉はあっけにとられてもはや声もでない。
「そんな事どうでもいいよ。どちらにしろ咬み殺すから」
ばきり、とリーダー核らしい人物を叩きのめすと、その人物は嬉々としてヤクザの皆さんを屠っていく。
時折銀色の残滓が瞬くように視界に入るのだけれど、綱吉にはそれがなんなのかわからない。
あっという間に最後の1人を地に沈めて舌なめずりすると、その圧倒的な力を持った侵略者は。
綱吉達の方へと向き直った。
おや、とその表情が、凶悪なものから変化する。
「ヒバリ、ヒバリ」
「え?」
小鳥が、羽をばさばささせて鳴く。そこでようやく、綱吉はまともにその男の顔を見た。
「あ・・・・・・」
漆黒の髪、瞳、すらりとした立ち姿。鋭い、身の引き締まるような雰囲気。それにデジャヴュを感じる。


「朝の人・・・・・・」


そうだ。今朝会ったあの人。この鳥の飼い主。
「君・・・・・・」
その男は鳥を見て呟くと、ああ、と得心いったように頷く。
「ということは、今朝の女子」
「は、はいっ」
「なんだ、ここの関係者だったの?」
「違いますっ!」
どうやら覚えていてくれたらしい。少し嬉しかったものの、とんでもない事を言う人に力いっぱいの否定を返す。
もちろん綱吉はヤクザなどと何の関係もない。できればマフィアとも何の関係もないと言い張りたい。
それ以前に、ここで関係者と言おうものなら彼らと同じく屍にされそうで恐ろしい。
「チャオッす、ヒバリ」
「ああ、久しぶりだね、赤ん坊」
親しげに交わされる軽い挨拶。
(え、知り合い・・・・・・?!)
「リボーン、この人のこと知ってんの?!」
「ボンゴレが取引している組織のボスだぞ」
「ええっ?!じゃあこの人もマフィア?!」
「違うよ」
きっぱりとした否定が返ってきて、ぎくり、と口ごもる。
「ヒバリは正確にはマフィアじゃねぇ。誘っちゃいるんだがな」
正確にはって何だ正確には、って。ならばマフィアと似たようなものではあるのだろうか。
いやそれは今までの言動を見ていてもわかる。これが堅気であってたまるものか。
「群れは嫌いだ。君こそ、珍しいの連れてるね」
「ああ。お披露目はまだだが、ボンゴレの十代目だ」
「ワオ、その子がかい?」
愉快そうな声色に冗談じゃない、と思ったのは当の本人だ。
「なっ・・・・・・!ちがっ、だからオレはマフィアにはならないって!」
「オメーは黙ってろ。丁度よかった。ヒバリ、頼みてーことがある」
「何だい?」
内容と条件次第では引き受けてあげるよ。と涼しげな表情で余裕を崩さない雲雀に、
生徒の意見をきっぱり黙殺したリボーンはニヤリ、と笑んだ。




「こいつを嫁にもらえ」




「・・・・・・は?」
間抜けな声をあげたのはもちろん綱吉だ。今、この家庭教師は何と言った。
男の方も予想外の言葉に少々驚きを感じているらしい。動揺した気配を感じる。

よめ
ヨメ
YOME


・・・・・・。

(嫁ぇえ―――っ?!)
「ちょ、リボーンなんだよそれ?!」
「丁度お前の旦那候補を探してたんだ。マフィアのボスの夫だからな。
生半可な相手じゃつとまらねぇ。その点、ヒバリならばっちりだ」
つえーしこの世界をよくわかっているしボンゴレの利益にもなる、と。
なんだそれなんだそれなんだそれ?!
それはある種の立派な政略結婚ではないか。
綱吉は別に恋人がいるわけでも意中の相手がいるわけでも恥をしのんで白状するならば
今までそういう相手がいたこともない。この年になって恋をするというのは難しいらしいとか
馬鹿馬鹿しいことを真剣に考えているぐらいだ。それでもまだ『結婚』というものに夢ぐらい持っていた。
少なくともそれはこんな状況でこんな風に決められることではなかったはずだ。
なんとか同じく動揺していたもう一人へと縋るように目線を向ける。

「それ、僕にメリットは?」
なんでそんな冷静なんですか貴方。

「こいつが嫁になるくらいだから、むしろデメリットしかねぇな」
本人はダメツナだしお前はボンゴレには利用価値はあっても興味はないだろうし。
まておい。
さすがの綱吉もあまりの貶しっぷりに物申したくなる。
確かに勉強も運動もついでに芸術面も更には容姿だってぱっとしないダメツナではあるが、
何もそこまで言う事はないではないか。
「ふぅん」
じっ、とヒバリと呼ばれた男は、綱吉を観察するように見下ろす。

「ヒバリ、ツナヨシ、ツナヨシ」

綱吉の頭の上に埋まっていた小鳥が、主に向かってどこかしら自慢気にそう鳴いた。
「つなよし?」
「は、はいっ!!」
居心地の悪い空気の中、呼ばれた名に反射的に返事をしてしまってから、しまったと口を押さえる。
「・・・・・・君の名前?」
「そ、そうです・・・・・・沢田綱吉、です・・・・・・」
「へぇ」
おもしろい名前だね、楽しそうな口調。バサリ、と鳥が飛び立って、当然のように雲雀の肩へと止まる。
雲雀には驚く様子も気にする様子もない。
やっぱり飼ってるんじゃないのかなぁと綱吉は現実逃避気味に少々ずれた事を思う。
「ヒバリ、ツナヨシ、ヨメー」
「んなっ・・・・・・!」
ひとつひとつの単語も、繋げられるとなんだか別の意味に聞こえてしまう。
あたふたと赤くなって慌てる綱吉を見ていた雲雀は、ふっ、笑んだ。
この日が初対面の綱吉は知るよしもないが、かなり上機嫌だ。
「うん、いいよ。僕が貰う」
「へ?」
本日何度目かわからない間抜けな顔をさらした綱吉をよそに、あっさりと。
予想外の。



「僕は雲雀恭弥」



これからよろしく、沢田綱吉。
若干柔らかい表情で言われたそれに、綱吉は頬を真っ赤に染めたまま、絶句した。
心臓がどくどくと煩い。





家庭教師は仲人にもなるらしかった。



リクエスト第8弾。
リボーンに「こいつを嫁に貰え」と言わせたかっただけです(うん皆わかってるよ
ノベルスといいドラマCDといい、リボーンのヒバツナ推奨っぷりは
尋常じゃありません素敵です家庭教師様万歳。(真顔)
・・・・・・しかしおかしい、政略結婚ものを書いてたはずなのに(え
ボンゴレのお嬢様綱吉と取引先の社長雲雀(初対面)とかを書くはずだったのに。
しかもやっぱり長くなりました。半分ぐらい切りました。尻切れトンボ。
白状します。本当はこの後の話がメインでした。(爆)アホです。
紗奈様に捧げます煮るなり焼くなりお好きにどうぞ!
・・・・・・もちろん返品も受け付けます(ぼそっ

2008.3.6

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