「起きなよ、沢田綱吉」
耳元で囁かれる低い声に、びくり、と反射して目が覚める。
急激に頭に血が上って意識が鮮明になって、その分いらない気恥ずかしさまで比例する。
「ひ、ヒヒヒヒバリさんっ!いい加減その起こし方やめてくださいっ!」
おまけに勝手に部屋に入ってるし!
ここはオレに割り当てられた1人部屋で、基本寮生は部屋主の許可なく他の居室に
入ってはいけないはずなのに、そんなのはこの人には何の関係もないらしい。
「普通に呼びかけても起きない、君の寝汚なさが悪い」
ぐ。
反論する言葉が見つからず口篭る。
確かに自分は寝汚い。
こうして起こしてもらえなければ、5分とかからない学校まで毎日遅刻確実なぐらい寝汚い。
実際中学の頃は遅刻の嵐だった。
この人お得意の、実力行使という名の暴力が出ない分、かなり譲歩してくれているのも事実。
本来なら感謝すべきなのだ。わかってはいる。
が。
(心臓に悪いんだってば・・・・・・!!)
朝っぱらからこんな脳天直撃ボイスで起こされてしまったら、
早鐘を打つ心臓が、あまりの過剰労働に役目を放棄しかねない。
(だって色っぽいしカッコイイしなんていうか、こう・・・・・・!)
いやいや落ち着け自分。
理由が何だろうと、とにかく困るものは困るのだ。
「それと君、いい加減、鍵をかけることを覚えなよ。何の為に部屋ごとについてると思っているの。
君の場合、寝ている間に誰かが入ってきても気がつかないだろう。何があっても知らないよ」
それはわかっている。男子寮なんて食料類の盗難程度はしょっちゅうだ。
委員会が盗難対策で施錠を促していたことも記憶に新しい。ただ。
「・・・・・・忘れちゃうんです」
嘘だけど。
この人は知らないだろうけど、オレが鍵を開けたまま寝るのも、朝起きられないのだって、
本当は理由がある。言えないけど。
「君、そこまで物覚えが悪いの?つくづく馬鹿だね」
言葉のわりに口調は険しくない。むしろ、学校と寮、両方を牛耳る、
鬼の風紀委員長様であるこの人にしては、優しいんじゃないかとさえ思う。
さっさと準備して学校へ行きなよ、遅刻したら咬み殺す。
いつもの様に恐ろしい脅しをして、あっさり扉から出て行く背中を見送りながら。
やっぱり、部屋の鍵は開けて寝ちゃうんだろうなぁと思った。