一体何をどう間違ったのだろうか。
うまれ落ちて数年、信じられないほどの平和な日常を享受しつつ、
自分はつくづくそう思っていた。
その信じられない環境の中、同時にまさか、と考えたことがなかったわけではない。
いやしかしいくらなんでもそれはないだろう、と勝手に信じていたのだ。
そこまでいったらまさしく誰かの差し金としか思えない。
なのにまさか。

「ほらむっくん、貴方の弟よ。かわいいでしょう〜。
名前は綱吉だから、むっくんとそろえたらこの子はツッくんになるのかしら」

まさか、こんなことになるなんて。






あの時代の生を終えて、もう随分とたつ。
マフィアを憎んでいながらマフィアのボスを守護していた己も、
その己に付き従っていた3人も、もういない。
けれどこの身は相も変わらず前世の記憶を持ち続けていた。
一体何をどう間違ったのか何の因果なのかはたまた神か何かのお遊びなのか、
己の両親は沢田家光と沢田奈々。
そう、かつてボンゴレと呼ばれていたお人よしな男の、親。
この時代の家光はマフィアとは何の関係もないらしく、いたって普通の父親だった。
年の半分が行方知れずなわけでもなく、当たり前のように毎日家へと帰ってくる。
だから己も自然と、そういった事柄に関係することもなく。
そこでいっそばからしくなるほどの平穏な日々、というのをおくりながらここまで過ごしてきた。
ありえないことではないが、やっぱりありえないと思う。

己の母親となって数年たった女性は、まもなく2人めを身ごもった。
いつ生まれてくるのかと楽しみにしながらはしゃいでいるその人を、なんとも言えない気持ちで見ていた日々。
己に血の通った兄弟ができるという事実が、不可思議でしょうがなかった。
けれど時間は瞬く間にすぎていく。

そうして今日、目の前には小さな赤ん坊。
何故かどちらの親とも違う黒い髪とは違う、まだまだ薄い琥珀色の髪と、おだやかな寝顔。

ああ彼なのだ、と知った。それは直感だった。
全然関係のない誰かではなく、姿が同じだけの別人でもなく。
かつて見知った、かつて過ごした。
いつも雲の守護者である男のことで迷惑ばかりかけられて、何度も殺されかかって。
それでも結局は最後までその茶番に付き合ってしまった彼と、魂さえも同じくした。


それに泣きたくなってしまった己は、いつの間にこんなにも。



ただ、偶然かもしれなかったあの瞬間





やあ、ようこそ新しい世界へ!



2007.8.22

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