一目見て間違いないと知った。
さらさらと流れる漆黒の黒髪も、不機嫌そうな鋭い眼光も、楽しそうに人を屠るさまも、何ひとつだって変わってはいなかった。
彼もまた、あの子どもの傍に寄り添う様にまた巡り回ってきた魂。
ああ初めまして!かつて迷惑ばかりかけてくれた君!

「クフフ、初めましてですね、雲雀くん」
「君、誰」

案の定、彼は訝しむ様子を隠しもせず問うてくる。
『ここ』では初めて聞く声。ああその口調もまったくそのままに。
「僕は骸といいます。いつも弟が世話になってますね」
「・・・・・・弟?」
「沢田綱吉ですよ」

ぴく、とはっきり彼の眉が釣りあがった。
不愉快そうな顔にはでかでかと不信の2文字。

「似てない」
「おや、知っていましたか」

まだ子どもの顔も知らない段階かと思ったら、そうでもなかったらしい。
子どもの口ぶりでは自分のことなんて存在を知りもしないだろう、という話だったのだが。
思わぬ収穫だ。ニコリと傍目には爽やかな笑みをうかべてみせる。
「そうなんですよねぇ、僕も生まれたころからつくづくそう思ってます。
血は繋がってるはずなんですが」
少なくともこの世界では正真正銘親を同じくして生まれているというのに、
綺麗さっぱりこれっぽっちも、いっそすがすがしいほど似ていない。
ちなみに中身はもっと似ていないが。
彼の眉間の皺が増える。

からかってやろうかと口を開きかけた所で、それは意外な声に遮られた。
「って骸?!お前何してんのこんなとこで!」
「おや綱吉くん」
やってきたのは小さな弟。ここは彼らの通う中学校の正門前であって、己には関係のないはずの場所。
『彼』に会うためだけにやってきた。ここは『彼』の世界の境界線だ。犯したなら表れるとふんで。実際にその通りだった。
予想通り困惑をあらわにした弟に笑みをひとつ。つられて弟も呆れた、諦めたような乾いた笑みを返してくれる。

それ、の。一体何が気に障ったのか、その一瞬の後に目の前には銀色の棒。
彼愛用のトンファー。何故目の前にあるのかといえばそれは己もまた愛用の三叉槍で止めたからで、
そうでなければ今頃己は地に沈んでいる。

「咬み殺す」

低く、怒りと憎しみを隠しもしない、絶対零度を感じさせる声色。
ああその台詞を受けるのも久しぶりだと楽しくなってしまった己になんだか恐ろしい物を感じつつ、
むかってくる攻撃を受け流す。

「え、ちょ、ヒバリさんっ?!なんで2人戦い始めてんの?!」
「僕も聞きたいですよ!何故ですか!」
先程までは不信と苛立ち程度だった向けられる感情が、今はまさしく怒りをあらわにしたひややかな殺意。
「君が嫌いだから」

どきっぱり。わお、わかりやすい答えありがとうございます。
「ってちっがーーーう!!!逃げよう!逃げるぞ骸!」
「そうですねぇ、話を聴いてもらえそうにも無そうですし・・・・・・」
「逃がさないよ」
「……この手はあまり使いたくなかったんですけれど」
骸の目の奥がかすかにうずく。熱をもったようなその感覚。

次の瞬間。

雲雀の目の前には一面の桜の花。
あまりにもありえない光景に驚愕した一瞬、目の前にいたはずの人物は桜の花びらとなって舞う。
現実離れした光景だった。けれど美しい。
やがて夢をあらわしたかのような儚さで消えていくその『世界』が終わるころには、そこには誰もいなかった。





「お前なんで雲雀さんに目の敵にされてんだよーーー?!」
「さあ、彼に聞いてくださいよ。僕は何もしてませんよ」
今回は。
「ううこれでオレまでいっしょくたに敵扱いされちゃったらどうしよう……」
「彼はそういう性格ではないでしょう」
「なんでお前が雲雀さんのことそんなにわかるんだよ」
ずるい。という言葉が今にも聞こえてきそうな拗ねたような口調だった。無自覚にも嫉妬しているらしい。
「てかお前何がしたかったんだ?わざわざうちの中学まできたりしてさ」
「まあ雲雀くんに実際に会うのが一番の目的でしたけど」
そうして何がしたかったのかと聞かれると、おそらくは―――

(ああ、毒されている)

2人の仲介をしようと思った、などと。あれだけ苦労しておいて、何とち狂ったことを。
まったく自分でも何故こんなことをしてしまっているのかわからない。
案の定また彼に目の敵にされて殺られかかるし、
可愛い弟はくだらない惚気にも近い悩みばかり相談してくるし。

「はやまったかもしれませんねぇ・・・・・・」

それでもやっぱり辞める気がないのは、一体全体どうしたことか。

理由なんていりませんただ好きなんです





それでも彼らが好きなんて、だって知らなかったそんなこと!



2007.8.27

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