ああ、消えてしまえばいいのに。


ふいに、まるでなんでもないことのように、思った。



「君、本当にあの子の兄弟なんだ」
「おや、雲雀くん」
憎々しげな声に振り返ってみれば、そこにいたのはある意味予想通りな人物。
「調べたのですか?随分、あの子を気にしているんですね」
「別に」
その言葉とは裏腹に、視線が心情を表すように地面へとそらされる。
「・・・・・・やっぱり似てないな。あの子は脆弱すぎるほどなのに」
辺りに散らばった血と絡んできた奴らの成れの果てを無感情な目で見下ろしながら彼は言う。
この状況を見れば己が何をしたのかすぐわかるだろうに、ただあまりの子どもとの違いを認識しているだけで、
そこに嫌悪も恐れも驚きもないのが彼らしいというべきか。
「そうですね。まあ、死んではいません。一応、大人しくしてますからね、『ここ』では」
あえて意味深な台詞でもって返す。
殺しちゃいない。別に死んでもあまり気にはしないが、隠蔽工作もばれた時の子どもとのごたごたも面倒だった。
この男達が襲ってきた理由は何だっただろうか。
単に己が気に食わなかっただけか、それとも金銭を要求でもされたのだったか。
覚えるまでもなかった理由。

(ああ、薄汚い―――・・・・・・)

欲望と浅はかさと嘘で塗り固められた世界。
醜悪すぎて反吐がでる。
全部全部消えてしまえばいい。前世の記憶のように、世界を滅ぼしてみようか。
時折、当たり前のように、そんな考えがぽつりと浮かぶ。
笑える程の平穏の中にいようと、染み付いたその思考は消えない。

「そんな群れより、僕の相手をしなよ」

凛、と歯切れのよい、よく通る声。
屈服させたい獲物に舌なめずりして、ただひたすら純粋に戦いを楽しむ獣。

口角がつりあがる。

結局どうあろうと己はこの男に目の敵にされているのがおかしい。
けれどこの存在のその純粋さ――、純粋な殺意に、安堵、した。
それは身の内にくすぶるこの衝動を発散させてくれる。

この世界は醜悪で。

けれど彼らは純粋だった。ひたすらにまっすぐに。世界によって変えられることなく。

だから。


―――己はまだこの馬鹿馬鹿しい茶番劇を続けられる。


安堵と諦めと、もしかしたら残念だと思っているその感情は。

誰にもいえない、こんなことは。そう、あなたにも





かわったようでかわらないそれは。



2007.10.5

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