「最近、弟が反抗期なんですよねぇ」
「帰れ」
彼の私室となっている学校の一室で、勝手に入れた紅茶を飲みながら、
最近の悩み事を相談してみれば、そうばっさりと切り捨てられた。
「酷いですね、雲雀くん」
「部外者が校内に入るな」
「では、父兄参観ということで」
「僕は許可しない」
それこそ今にも愛用の武器を取り出しそうな機嫌の悪さで睨みつけられる。
それでもいまだそうしていない理由を、己は知っていた。
「骸っ!!」
ガラリ、と背後には駆け込んでくる子どもの気配。
正面で顔を般若にしていた人物が、ぴくりと反応したのがわかる。
(――待ち人きたる、ですね)
「いいいつもいつもすいませんヒバリさんっ!!すぐ連れて帰りますから!!」
小さな身体を直角に折り曲げて叫ぶように謝罪する子どもを、彼は一瞥して、ふい、と目をそらす。
それにクスリ、と笑んで立ち上がった。
「それではお迎えた来ましたので。また来ます」
「ちょ、おまっ・・・・・・!!」
「君はこなくていい」
至極おもしろくなさそうな声が、あまりにわかりやすくて。
なんて正直な人だろう。ここまでくるとあっぱれとしか言いようがない。
彼が己を嫌っているのは、ようはひとえに子どもと仲が良いことがおもしろくないのだろう。
兄弟なのだから当然だというのに、なんて相変わらずの人だ。
笑い転げたくなる衝動は、どうやら気づかれていたらしい。
殺気の増した視線が突き刺さってくる。
それに気づかないふりをして、ひらひらと手を振ってやりながらその場を後にした。
彼をからかえる生というのも、なかなか悪くない。
「なあ、骸」
「なんですか?」
帰りの道中、お前これ以上迷惑かけるなよてか部外者なのになんでいつも中学きてんだ
どんだけ暇人なんだお前、とか、とにかくくどくど文句をたれる弟に、やっぱり反抗期ですよね、なんて思っていた矢先。
戸惑いがちな声。珍しい声色に、違和感を感じる。
「おまえ、さ。もしかして――わざと?」
何が、とも言わなかった。これまた珍しい察しのよさに、軽く感心する。
ああでもこの子は昔から、変な所で察しがよかった。
「何の話ですか?」
真剣な目をして言う子どもに、うっすらと口角をつりあげてみせる。
とぼけた返事につかれた溜息を受け流す。
「・・・・・・怪我、するなよ。あと―――・・・・・・」
ありがと、と、ともすれば聞き逃してしまいそうな声に、
どれだけ己が驚愕したのか、この子どもはわかっているのだろうか。
たくさんの好きと、たくさんの愛を、きみに
変わったことだって、ある。
2008.1.13