「ヒバリさんてさ、オレの名前覚えてると思う?」
まず間違いなく。
というか、子どもの名前を覚えていないならば、彼は人間の名前などひとつも覚えていないだろう。
そう言ってやるのは簡単だけれど、それは同時に野暮だ。ので。
「僕の名前は間違いなく」
むか。
そう擬音語でもつきそうな表情を浮かべる子どもは、非常にわかりやすい。
協力してくれるって言ってるわりにお前皮肉ばっかだよな!
精一杯の皮肉返しはまあもちろん全く堪えないのだけど。
「今日は夢見が悪かったんです」
「八つ当たりかよ!」
子どもはすかさず叫ぶ。ああそうかもしれない。
この程度のこと嫌がらせとさえ呼べないと思うけれど、素直に答えてやろうとは思わなかったのは事実。
いまだにこびりついた夢が、脳裏にちらつく。
―――お前なんで恭弥さんに呼び捨てにされてるわけ?!
―――・・・・・・
久しぶりに面を向かわせた際の第一声。
あの時の虚脱感は筆舌しがたい。今も似たり寄ったりだ。
それにしてもあの時自分は何と答えてやったのだったか。
忘却する生き物として存在している以上、過去、それも前世の記憶なんて完璧であるはずがない。
「夢の続きを見るにはどうすればいいんでしたっけ」
子どもがはぁ?と顔を歪めた。
あともう少しだけおなじ夢を見たいな
いまはぜんぶぜんぶ、まぼろしの。
2008.3.5