「ええっ!おにいさんきょうやさんなんですか?!」
「君だって最初から僕をそう呼んだでしょ」



それはとつぜんやってきました 2



「だ、だっておおきくなってる!」
「そりゃあね。何年もたってるし。大体僕が大きくなったんじゃなくて、君が小さくなったんだと思うけど」
「ええーーー?!」
「いちいち驚かないでよ」
「で、でもっ・・・・・・ええ?!」
うわー、と子どもはしみじみとこちらを確かめるように見る。ちょっと顔が赤かった。変な子どもだ。
ちなみにその時綱吉が
(恭弥さん今でも十分かっこいいけど成長したらこんなにかっこよくなるんだー)
などと思って赤くなっていたなんて、雲雀は想像すらしない。
けれど雲雀本人であることはまったく疑っていないようだった。綱吉自身の感覚がそう言っているらしい。
「で、なんでこんな所にいるの。そんな姿になってるのに」
とりあえず状況確認だ。子どもがこんな姿になって不安なはず中、どうしてわざわざ
こんなところまで一人ででてきているのだろう。ただでさえ最近狙われることも多いくせに。
いやこの子どもはそんなことは知らないだろうけれど。
「だ、だってオレのいえしらないひとがいっぱいいたんです!
なんかぎんいろのこわいひととか、やさしそうだったけどおっきいひととか
がいこくじんのひととか・・・・・・」
「ああ、駄犬と野球と鞭の男」
「・・・・・・だけん?」
「駄目な犬」
「?こわいひとはいっぱいいましたけどいぬはいませんでしたよ?」
うしっぽいひとならいたけど。と子どもは真剣に返す。なんというか。
「君って本当に・・・・・・いや、いいよ」
鈍感というか無知というかあほの子というか。そうか、数年前はこんなだったのか。
あれで綱吉もきちんと成長していたらしい。と雲雀は失礼なことを思う。
「奈々は?いなかったの」
「いませんでした・・・・・・」
はあ、と思わず雲雀はため息をつく。
まあ子どもがこんな非常識な目にあっているなんて知らないほうがいいのかもしれない。
しかしどうしてこうなってしまったのか雲雀は知らないし、どうすれば戻るのかもわからない。
どうせこの子どもに聞いてもわからないだろう。
おもしろいといえばおもしろいが、どうしたものか。
「そういえば赤ん坊は知ってるの」
「あかちゃん?」
「見なかったの?黒い服着たとても強い赤ん坊」
「つよいあかちゃんなんているんですか?」
どうやら赤ん坊はその場にいなかったらしい。ならばまずは赤ん坊に話をするべきか。
「いったん君の家に行こうか」
駄犬やら野球やらわずらわしい連中が群れている場所に行くのは気に食わないが、
この子をここでほうっていく訳にもいかない。
そう思っての言葉だったのだが、綱吉はその台詞にびくり、と震えた。
こちらを見上げる瞳には明らかな怯えと、すがるような色がまじっている。
「?何」
「・・・・・・あの、その・・・・・・おれいえは・・・・・・」
こわい、とぎりぎり聞き取れるほどの小さな声で幼児は呟いた。
普段は奴らと群れている子どもの言葉だけに、驚きに似た、不思議な心持ちを味わう。
しかしそこで思い至った。
そういえばこの子どもにはこの頃、対人恐怖症の気があったのだ。
家族と雲雀以外の人間にはなかなかうちとけられず、いつでもどこかしら怯えていた。
(ある意味雲雀には別の純粋な恐怖で怯えていたことも多かったが)
あの頃はわからなかったが、あれから年月がたって、今では雲雀もその理由を知っている。
元々どちらかといえば気の弱い子どもに、やたらと柄の悪い大人や明らかに自分と異なる外人等は
恐怖の対象でしかないらしかった。
自業自得だ。と、本人達が知ればその理不尽さに涙するしかないことを雲雀は思った。
「僕もいくし、そいつらぐらい咬み殺せるよ」
別にあの3人は綱吉を傷つけたりはしないだろうが、そういった彼らと綱吉の関係やらを
いちいち説明するのは面倒で、雲雀は何も言わない。(そもそも詳しいことは雲雀自身あまり知らない)
すると子どもはあからさまにほっとした表情になったので、(本人達には不幸なことに)更に言う必要がなくなった。











こつこつ
ぱたぱたぱたぱた
こつこつ
ぱたぱたぱたぱた


こちらが1歩歩くごとに相手は小走りで2歩歩く。
それは初期の段階で気づいていたので、できる限りゆっくり歩いていたのだが、
それでもただでさえ小柄の子どもは大変らしい。そもそも僕自身、歩くのは速いほうだ。
しかしそれでもなんとかついてきていた子どもは、段々と目に見えて歩みが遅くなる。
それでも子どもはおいていかれまいと必死だ。縋るようにこちらの位置を確認しながら息を荒げている。
2人で歩き始めてそんなに時間がたっていないのに、あまりにも顕著な子どもの疲れを、少々いぶかしく思う。
気がつけば2m近く離れていて、僕はついに立ち止まった。
「・・・・・・疲れてるの?」
「え?あ・・・・・・え、えっと走ってきたから・・・・・・」
いつの間にか近くにいた雲雀に、綱吉は驚いた。
「そんなに疲れるほど走ってきたの」
「その・・・・・・まいごになっちゃったというか・・・・・・こわかったし・・・・・・」
もごもごと恥ずかしそうに口ごもる子どもは、相当いっぱいいっぱいだったらしい。
とにかく怖い面々から逃げるのに必死で、走れるだけ走ってここまで辿り着いた。
もう一度子どもをまじまじと観察する。
よくよく見ればその足は靴さえもはいていなかった。
白い靴下はすっかり汚れていて、よくもまあこれだけ歩いて足を切らなかったものだとある意味感心する。
これから切らせるのも嫌だったし、どちらにしろこのままでは進まない。
突然止まった己を不思議そうに見上げてくる子どもを、いつものようにおぶろうかと考えたが、
唐突にあることを思いつく。その思いつきのままに、子どもの身体を腕ひとつで抱え上げ、抱き上げた。
「わっ」
腕の中に納まる小さな身体。予想以上にあっさりと成功してしまったそれに不思議な心持ちになりながら、なんとなく満足する。
子どもは驚いて声をあげ、とっさにこちらの肩に手を置いた。
「うん、そっちのほうが安定するからそうしてなよ」
「え、ええ?!うわぁ・・・・・・」
綱吉は一瞬真っ赤になりはしたものの、状況を理解すると、すぐに笑顔になった。
きょうやさんすごい!と嬉しそうにはしゃぐ。
「あんまりあばれると落ちるからね」
「はい!」
明確な返事に、雲雀は苦笑にも似たほのかな笑みを浮かべた。








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正直この話はこの雲雀さんが綱吉を抱き上げるシーンを
書きたいが為にかきました(ぶっちゃけた!)
なんかもう満足です(マテ)
他の作品以上にとにかく書きたくなったシーンをお遊び的に書くためにある番外なので、
気が向いたときにちまちま更新されるかと。

2007.7.15

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